第29話 パーティーネーム
時は来た。
いよいよ弟子たちにとってパーティー初級試験であるグレートモンキー討伐に向かってもらう。
グレートモンキーは、群れで暮らすモンスターで道具を使う頭脳と、縄張り意識を持つ習性が特徴的なモンスターだ。
彼らの生息地はジャングルだ。
熱帯雨林で天候がコロコロ変わることで環境も難しくなる。
森とは違う生息形態を形成していて、表れるモンスターの特徴も変わってくる。
また、湿地帯では炎の威力も落ちてしまうため、ディーの魔法が頼りに出来ないという点でも生徒たちには課題が増えることだろう。
「君たちは一人前の冒険者として力を付けてきた。
今回の依頼を達成することが出来れば名も売れることだろう。
そこで、君たちにパーティー名を決めてもらおうと思う。
今までは、君たちがパーティーとしてやっていけるのか分からなかったので先送りにしてきたが、この間のオークジェネラル討伐で信頼関係も構築できただろう」
俺の提案に四人は顔を見合わせて笑い合う。
「どうかしたのか?」
「いえ、先生。すいません。僕たち自分たちでもうパーティー名決めちゃいました」
「うん?そうなのか?」
「おうよ。カッコイイ名前なんだぜ」
「私達って、みんな先生に助けられる前は挫折した者たちでしょ?」
四人は示し合わせたように視線を合わせる。
「「「「リベジャーズ」」」」
声を揃えて発せられた名前に納得してしまう。
「リベンジャーズか」
「そうです。みんな先生に助けられて他の冒険者たちに一糸報いてやりたいって思ったんです」
「まぁ、俺は冒険者じゃなくて、スラムの奴らだけどな」
ガロは拳を握り締めて自分が育った環境を思い出し。
ディーは助けたときに、落ちこぼれと罵っていたバッツに。
リリアとセシルは、自分たちを置き去りにしたB級冒険者に対して思うところがあるのだろう。
四人は成長を遂げながらも、心に抱えたわだかまりは完全には拭えないでいた。
「復讐を糧にするのは悪いことだと教師である俺は言わなければならないのだろうな……ただ、それが原動力であったとしても目的がそこに行きつかないのであれば問題ないと言える」
困った生徒を見るように俺は一人一人に視線を合わせた。
「ディー、お前はバッツよりも強い。奴は三年経っても成長が見られず、初心者冒険者に毛が生えた程度だ。お前はすでにB級冒険者に手が届いている」
「はい!それでも決着をつけたいと思います」
「そうか、その方法は必ず考えよう」
「はい」
俺は視線をガロへと向ける。
「ガロ、お前はダンカンにはもう負けない。家族を守れるための力はもう届くところまで来ているぞ」
「ああ、最初は家族と暮らるだけでいいって思ってた。ダンカンの野郎にも一泡吹かせて、だけど、先生に勉強を覚えさせられて、ダンジョンのこと勉強して、ディーの兄貴やリリアの姉貴、セシルと出会って思ったんだ。
俺はまだまだ色々なことが知りたい。
勉強は楽しいってことを家族に教えてやりたい。
だから冒険者として一人前になるだけじゃダメだ。
あいつらにちゃんと世界を教えてやれるぐらいもっと勉強したい」
決意の込められた視線は、ガロを成長させてくれているのを感じさせてくれる。
「リリア、相手はB級冒険者だ復讐するつもりか?」
「復讐とまでは言わないけれど。報いは受けさせたい。ハーフラインさんだけに頼らない。自分たちの方法であいつらとケジメは付けたいって思ってるわ」
リリアは多くを語りはしなかったが、その瞳には闘志が宿っていた。
「セシルはどうなんだ?」
「私もみんなと同じです。先生の下で勉強するようになって、もっと自分を強くしたい。知らないことを知りたいと思うようになりました。それに復讐というわけじゃないですが、目標の一つとして何かしらの決着はつけたいと思っています」
それぞれがそれぞれの目標を持って意見を述べる。
「君たちの気持ちはわかった。
復讐したい。
相手を殺したい。
そんな暗い気持ではなく。
見返したい。
自分の成長を知らしめたい。
そんな思いが込められたと判断するぞ」
「「「「はい」」」」
四人は気持ちのよい返事をする。
「わかった。今日から君たちパーティーはリベンジャーズだ。B級モンスターグレートモンキー討伐を成し遂げその名を轟かせるぞ」
「「「「おう!!!!」」」」
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彼らの活躍を演出する上で、やっておかなければならないことがあり。
俺は一人でハーフラインの下へと訪れた。
「いよいよだな」
人気の少ない酒場の端で、酒を飲むハーフラインはフードを被っていた。
「随分と用心しているようだな」
「まぁな。ハンズ・バン陣営も動きが活発化してきた。こちらも仕掛けを施す時期に入ってきたんだ」
「そうか、こちらも明日からグレートモンキー討伐に入る」
「助かるよ。他の根回しは終わりつつある。後はグレートモンキー討伐の仕掛けを成功させれば全ての仕掛けは完了する」
「大丈夫か?」
ハーフラインの目の下は今まで見たこと無いほどのクマが出来上がっていた。
「問題ない。むしろ、今は疲れなど感じないんだ。念願成就した暁にはたっぷり寝ることにするよ」
「……そうか。とりあえず強力なポーションを渡しておく。酒を飲むぐらいならこれを飲め」
「助かるよ」
俺は席を立ち、一つだけ確認のために足を止める。
「全て上手くいくんだな?」
「ああ。この命に代えても」
「そうか……死ぬなよ」
「君もな」
互いに拳をぶつけ合って別れを告げた。
数日後……ハーフラインは川に浮かんで発見された。
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