第14話 タンクの初級訓練


共同生活を始めて、色々と問題が生じることもあった。

その都度、話し合いの場が設けられて一週間が過ぎる頃には互いに折り合いが付けられるようになっていた。



「いい?食事は当番制。掃除は毎日全員でやる。お風呂は時間で女子と男子を分けて、絶対に女子が先。これでいいわね」


「へぇへぇ、好きにしてくれ」



話し合いのほとんどはガロとリリアの言い合いから話し合いへ発展する。


リリアとセシルは元々孤児で、働ける年齢になったことで施設を追い出されたそうだ。

働ける年齢と言っても働き口がすぐに見つかることもなく止む無く冒険者になったそうだ。

幸い、施設を支援してくれていた冒険者がいて、その人に戦う技術を学んで剣や防具を譲ってもらうことが出来たので最初は順調だった。



稼ぎを増やそうと中級ダンジョンへ挑むか考えている際に、三人組の中級冒険者に声をかけられたそうだ。

親切な三人組で、ダンジョンに必要な道具や出てくるモンスターなどを指導してくれ、いざ挑戦を開始したときは教えられた通りのモンスターが現れて順調に突破出来ていた。


モンスターパニックを起こした広場に入ったところで態度を豹変させて、あのような事件になった。そのため男性への不信感が強くなるのは仕方ないことだ。


だが、スラムで共同生活をしていたガロとしては、そこまで潔癖になられることが理解できなくて、最初こそリリアに反論を繰り返していた。


互いの事情を知ることで、折り合いをつけるための話し合いをすることが出来て、やっと解決することが出来た。



生活面で落ち着きを取り戻すことが出来たので、俺はセシルの指導を開始することにした。



「それじゃあ、今日はセシルのタンク訓練をしていく」


「押忍」



いつものフルメタルアーマーに身を包んだセシルが返事をする。



「ディフェンダー。つまりタンクの役割をするわけだが、セシルは鎧と自分の力に頼り過ぎだ」


「それは」



セシルも自覚があるのか、落ち込んだ雰囲気を醸し出す。



「モンスターが怖いか?」


「わかりますか?」


「なんとなくな。まぁそこでお前には付与魔法系タンクになってもおうと思う」


「付与魔法系タンク?」


「そうだ。付与魔法とは、バフ効果、デバフ効果などの味方の補助と敵の弱体化を促す魔法だ」



付与魔法は専属の付与師がパーティーに居た方がいいが、戦うことよりもディフェンダーとして守ることに特化したセシルの戦い方を見て判断させてもらった。



「セシルには付与魔法師としての才能がある。

力が強いを持つセシルは人体的なポテンシャルが高い。

それは大きな盾や鎧を使う利点にもなる。

セシルが敵を引きつけて、味方の強化と敵の弱体化を行えれば仲間の生存率は高くなるしな」


「私に魔法を使う才能があったんですね。それに私がみんなを守れるのですか?」



セシルは未知なる自分の力に驚いているようだ。



「まずは実践して見せよう。今からセシルには重力二倍のデバフ効果を付与する」



手をかざして魔力を流し込めば、セシルは重さを感じて踏ん張った。



「ぐっ!凄い重い」


「わかりやすいデバフをかけたがどうだ?」


「これは辛いですね。動くのも難しくなります」


「だろ。このデバフを自分にかけながら、筋トレをするようにしてくれ」


「ふぇ?これを自分にですか?」


「ああ、バフもデバフも自分にかけるのが一番状態を理解できるからな」



単純な筋トレを行うにしても普段の二倍の重力で行うトレーニングは負荷がかかり身体を動かくことすら難しくなる。

だが、元々筋力が発達していて、力の強いセシルならすぐに克服して訓練に慣れることができる。



「タンクは誰よりも敵の攻撃を受けなければならない。

そのために筋力と強度によって生み出される防御力こそが最も大切な要素だ。

そこへ、スピード付加によって速度を手に入れれば仲間のピンチを救える可能性は広がるんだ」



今度はバフ効果で人体を軽くする。



「うわっ!うわっ凄く速く動けます!」



軽くジャンプするだけで二、三メートル跳び上がるセシル。



「今のはアクセルと言われるバフ効果だ。体を軽くして早く動かくことができる。逆にさっきのは体を重くするデバフだな。まずは魔法の発動させ方を覚えてもらうぞ」



実戦で体験してもらったあとは座学の勉強になる。


ディーにした魔素と魔力の関係。

魔法の発動条件。

バフとデバフの効果をイメージしながらのかけ方。

タンクとしての筋力アップと盾や鎧の使い方。


セシルが覚えることは数多く存在していて、今から行って一か月で習得できるわけではないが、最低限の冒険者として一人前には育ててやりたい。



「どうだ?理解できそうか?」


「初めて聞くことばかりなので、まだなんとも」


「お前は生まれたもったポテンシャルが高い。皆を守るために強くなってくれ」


「はい!私がみんなを守ります」



タンクは本来パーティーの中で一番強い者が担う役目だと俺は思っている。

確かに敵を倒すのはアタッカーや魔法使いかもしれない。


だけど、状況を判断して敵を引きつけ。倒れることが許されないタンクはもっとも危険で精神と肉体が強いものでしかやり遂げられない。


臆病でモンスターに怯えるセシルがその立場になれるかは一つの賭けだ。

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