第7話 二人目の生徒


ディーに魔力コントロールの中級指導を始めたことで、すぐに習得できるものではないため時間に余裕が出来た。

そこで食料の買い出しを兼ねて買い物をするために市場に赴いた。


市場は人込みが凄くてすれ違うだけでも進むことが出来ないほどの大変な混みようで、少年にぶつかってしまう。



「おっと、オッチャンすまねぇ」



声をかけられなければ、少年とぶつかったことも気づかないほど少年の気配は希薄で気づき辛かった。


興味を持った俺は後をついていくことにした。


気配を消して、人込みで見失わないようにマーキングの魔法をかける。



「へへへ、間抜けなオッサンだったな」



路地裏に入ったところで少年が立ち止まる。

ディーと同い年か少し幼く見える少年は俺の財布の中身を空けてほくそ笑む。



「悪いな返してもらうぞ」



油断したところで、財布を取り上げて気配を表す。



「なっ!どこから!!!」


「お前がしていることをしただけだぞ。お前いい動きをするな」


「くっ、返せよ。俺が盗ったんだ」


「取り返されて返せはおかしいだろ。お前の理屈なら盗られたら盗った奴の物ってことだからな」


「うるせぇうるせぇ!」



ボロボロのナイフを取り出して襲い掛かってくるが、動きがなっちゃいない。



「そんな動きじゃ一生俺を捕まえられないぞ」


「うるせぇ!オッサンのくせにチョコまか逃げやがってやられろよ」


「お前は面白い奴だな。なぁなんでこんなことをするんだ」



俺は問いかけながら少年の腕を掴んで捻って動きに制限をかける。



「痛てぇ!離せよ」


「相手が自分よりも強いとわかっていても逃げない度胸。スリをした時の気配の殺し方。手癖の器用さ。お前、シーフの才能があるぞ」


「はぁ?なんなんだよお前」


「俺か?俺は冒険者専門の家庭教師をしているマナブ・シドーという。スリをしてるぐらいだ。生活に困ってるんじゃないのか?」



俺は捻っていた腕を離して距離を取る。



「そんなことをお前に関係ねぇだろ!!」


「関係はない。だがな、お前の才能を腐らせておくのはもったいない。どうだ?俺の下で冒険者にならないか?」



俺は少年に右手を差し出す。

ためらう少年、そこへ三人組の人相の悪い男たちが現れる。



「おいおい、チビじゃねぇか?こんなところで何してんだ?今日の上納金が届いてねぇぞ?あぁ?」



一番ガタイのいいスキンヘッドが少年の胸倉をつかんで壁へと抑えつける。

他の二人が俺へと牽制と睨みつけてきたので、様子を見ることにした。



「うるせぇよ。ダンカン。俺にはガロって名前があるんだ。チビじゃねぇ」


「ハァ~?お前がガロ?似合わねぇな?似合わなさ過ぎるぜ。なぁ、がはははは」


「「あはははは」」



スキンヘッド男ことダンカンが少年を抑えつけたまま仲間とバカにしたように笑い合う。



「それによ~お前は誰にうるせぇとか言ってんの?」



ダンカンは急に笑うことを止めて少年の腹を殴りつける。



「ガハッ!」


「けっ?俺らがこの辺りを仕切ってることはてめぇもわかってんだろうが?口答えしんてんじゃねぇよ」



地面に降ろされたガロの腹へもう一発蹴りが入れられる。



「いくぞ」



ダンカンが二人を連れて立ち去ろうとする。


だが、ガロはそれで終わる奴ではなかった。


いつの間にかダンカンのポケットから奪った財布を取り出す。



「待てよ。上納金が欲しけりゃくれてやるよ。そら!」


「なっ!てめっいつの間に!」


「俺はスリだぜ。誰から奪っても金は俺のもんだ。盗られた奴がワリェだろ」



ダンカンの顔が見る見る赤くなり、怒りに震え始める。



「もう許さねぇ。死ね!」



ダンカンが勢いをつけてガロを殴りつけようとするが、そこへ足を割り込ませる。



「くくく、ガロ。お前はガロと言うんだな。面白かったぞ。やっぱり度胸もある。どうだ?改めて聞こう。俺と来る気はあるか?」



俺はダンカンを転ばせて、二人のゴロツキを睨みつけながらガロに問いかける。



「ここよりもマシな生活が出来るか?」


「当たり前だ。お前には才能がある。お前が望む暮らしができるようになるさ」


「なら……やるよ。でも、俺には家族がいる。そいつら助けてやりてぇ」



真っ直ぐで澄んだ瞳。


スリをしながらも力強く生きてきた生命力。


身震いするほど、良い目をしてやがる。



「オッサン何してくれてんだ!!!」



ダンカンが立ち上がって殴りかかってくる。


俺はそれを避けてガロの後ろへ回り込む。



「あいつは、デカい。そのデカい図体を利用して上から殴りつけてくるだろ。そこへ……」



「何コソコソしてやがる!二人とも死ね」



ダンカンがガロに向かって殴りかかってきた。

そこでガロは俺が教えた通りの動きを取る。


まず殴ってきた拳を避けるために一歩下がり、追撃しようとするダンカンの股へと蹴りを入れさせる。


教えた通りの動きをする。身軽さと勘の良さまで合わせもっている。



「うっ!」



不意打ちで食らうには最悪に痛い衝撃にダンカンが膝を折る。



「さっきはよくもやってくれたな」



ガロはダンカンの顔面に向かって思いっきり蹴りを放って意識を刈り取った。



「くくく、ナイスだ」



ガロはダンカンを倒せたことに若干留飲を下げたのか、小さいガッツポーズをこちらに向けた。



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