第7話【聖夜】


 相変わらずこたつから出てこない青猫を横目に、毎週末夕方に放送されている某ネコ型ロボットのアニメを、なんとなく、そう、なんとなく見ている。冬も深まり寒さも本格的に牙をむきはじめた十二月のことである。


「このネコ型ロボットはボクと違って寸胴で短足で、猫と言うよりは狸だな」

「そうか? よく似ていると思うんだけど?」


 なんだとぉぉぉ! なんて言いながらもこたつからは出ない青猫はみかんを一つ手に取り食べ始める。


「ドラ◯もんは道具を出しての◯太の願いを叶えるわけだけど、青猫は少し違うよな」

「い、一緒にするな! ま、まぁ、願いを叶えるってことに変わりはないけど、起こせる奇跡も範囲も、全てにおいてボクが上回っているさ。そもそもボクは君の願いなら拒否しない、いや、出来ないからね」

「そこなんだよな、難しいのは。迂闊に願えないというか」

「君はとことん欲のない人間だな。ああなりたいとか、こうなりたいとか、そんなのなかったのか? 例えば、宇宙飛行士になりたいとか、はたまた、世界を意のままにしたいとか」


 そんなこと、考えたことなかったな。

 とにかく波風立てず静かに生きてきた。それが災いして中学時代は最悪だった。僕は生きながら人生を諦めていたのかも知れない。

 テレビではドラ◯もん達がクリスマスパーティーを開いている。青猫の瞳にも映る。


「そうだ青猫。クリスマスイブは僕とデートしないか?」


 僕も言うようになったものだ。自分でも驚いている。女の子をデートに誘うなんて夢にも見なかったことなのだから。


「ボクは家でゴロゴロしていたい! 寒いのは嫌だし、だから仕事終わったら直ぐに帰って来てほしい。寄り道しなくていいからさ」


 サラッと断られたよね。


「じゃあ、お家パーティーでもやるか」

「うん! その日は出前がいい!」


 それでも、その笑顔が素直に愛おしいだなんて、そんなこと言えるわけもなく。






 時は過ぎ、二十四日が来た。

 午後三時までは仕事だ。大金を得たのはいいけれど、だからと言って辞めるのは気が引けたので続けているわけだ。


「お疲れさまでした」


 コンビニを出た僕は、いつもとは違う方向へ歩みを進める。青猫は寄り道するなと言ったけど、少しだけ寄り道しよう。

 青猫が好きな洋菓子店のケーキを予約しておいたのだ。きっと喜んでくれるだろう。


 そうして洋菓子店を経由し帰路につく。

 芯から身体が冷える。はやく帰ろう。


 その時だ、耳を突くような急ブレーキ音が辺りに響いた。視線をやると、制御を失い暴走する高級車、そしてその先の小さな兄妹? だろうか、男の子と女の子がいた。


 気がつけば、走っていた。


 柔らかな何かを跳ね飛ばした感触と、死を帯びた無機質な感触が同時に僕を襲い、視界は回転。




 僕は——


 どうなった?






「寄り道はするなって……言った……のに」




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