第24話 買い物②

次の日、マンサと買い物の約束をし、仕事に行った。


朝の鍛錬では昨日ほど酷くはなく、あれも一つの通過儀礼のようなものだったらしい。上官からも祝福と労いの言葉をもらった。


塔に行くとケーナが修行の続きを見てくれた。


ただ塔の管理は大丈夫なのだろうかと心配になる。ケーナは胸を叩いて大丈夫と言っていたので大丈夫なのだろう。


……多分。


昨日の続きで精神統一をすると割と早く昨日と同じ状態になれた。ケーナは感心して次の課題をだしてくれた。


「まず、力の使い方を教えるよ。いいかい?魔法っていうのは思いの力なんだ。まずはこうしたいと願った姿、状態を心に描いてそこに魔力を込めるんだ。ただ、あんたの場合は自分自身の魔力が無いから、勇者からの力を流しこむことが必要になる。上手く力が注がれたら思ったことが顕在してくるはずさ」


そう簡単に難しい事を言ってくる。


そんなの簡単にできねえよと心の中で呟くとケーナが注意してきた。


「まず真剣に思うことが大事だよ。心の中で出来ないと思っていたら、どんなに時間をかけても出来ないよ」


心の中を読まれたのかと思って驚いてしまう。


「出来ると確信しないと出来ない。これが大事だ。絶対出来ると確信してから勇者の力を使うんだ」


「なあ、勇者も同じように力を使っているのか?」


「まあ、基本は同じだ。ただ、勇者は神に愛されているからね。力の現れ方が違うんだよ」


「俺の方が難しいのか?」


「まあ、純粋さがないからねえ。幼子のようになれって事さ」


「俺はガキの頃から素直じゃなかったぞ?」


「まあ、そうだろうね。素直になりな。素直になったから結婚できたんだろう?」


いひひ、といやらしく笑いながらケーナがからかってくる。


もう一度精神統一をしようと思ったが、ふと疑問が湧いてきてケーナに聞いてみる。


「なあ、何を強く思えばいいんだ?強く思えって言われても、何を思えば力になるのかまったくわからねえ」


そう言うとケーナが呆れたような顔をして俺に言った。


「一回あんたに魔法を見せただろう?同じようなものを頭の中に描くんだ。イメージが固まってきたらさっきの力を心の中に受け入れるのさ」


そう言われて俺は素直にあの時の魔法を思い出してみた。


ケーナが魔法を出している姿を思い浮かべ、次に自分が魔法を出すイメージと重ね合わせてみる。


そして全身に纏っているオーラを考えているイメージに注いでみた。


しばらく考えている内に空から黒い雲が渦巻いてくる。俺が雷のイメージをした時に、おなじように黒い雲から稲妻が落ちてきた。


ゴロゴロゴロ、ドッカーン!!


幸い近くに人がいなかったため事故にはならなかったが、雷が落ちたところの草が黒く焦げて煙を上げていた。


「で、出来た……」


俺が驚いていると、ケーナは嬉しそうに褒めてくれた。


「よくやった!!これで勇者の力がつかえるようになったねぇ」


しかし、俺にはまだ雷しか出せない。戦闘中に座って精神統一なんか出来るわけがない。そう言うとケーナが答える、


「そりゃそうだろう。だからこれからは精神統一の時間なしでこの力を使えるように訓練するのさ。雷はできたから、別の魔法を教えてやろうかねぇ」


そういってケーナは喜んでいた。ただ面白そうな玩具を見つけた子供のように見えたのは俺の気のせいか。まだまだ素直にはなれなさそうだ。


ふと現実に戻った俺はマンサとの約束を思い出す。


「なあ正午の鐘は鳴ったか?」


「ああ、さっき鳴っとったやつか?何かあったのかい?」


「や、やばい」


集中し過ぎて鐘の音に気付かなかった俺は慌ててマンサの家に向かった。



「遅い!」


マンサは不機嫌な顔で俺を睨んでくる。


「すまねえ、さっき正午の鐘に気付いて慌てて走ってきたんだ。」


俺はとにかく謝ってマンサの機嫌を直そうとした。


「それじゃあ今晩は家で一緒にご飯食べましょう?それで許してあげるわ」


「あ、ああ、わかった」


機嫌を戻したマンサは荷物を持って俺と一緒に町に出た。

服屋に行くと沢山の布と古い服や貴族のような派手な服などが所狭しと置いてあった。

マンサはおもむろに布を選び俺の胸に当てて確かめている。


「うーんもう少し明るい色が良いかしら」


そう言うと沢山の布を持ってきて俺の胸に合わせながらぶつぶつ独り言を言っている。


昔、女の買い物は長いと父から聞いたことがある。


だから一緒に行く時は諦めて素直について行けと。


そうした事を思い出しながら、今なら精神統一の訓練ができるのではと思い付く。


考えていることがバレたのか、マンサにあんたの服なんだから自分でちゃんと選びなさい!と説教された。


女の考えることはよくわからん。


女心を理解するにはヴォルフには一生かかっても無理だろう。


ヴォルフは色々悩んでいるマンサに感謝しながらもどうでも良いから早く終わってくれと心の中で願った。


早く良い布が見つかりますように。


そう思い続けていると魔法が使えたのかマンサが上機嫌で布を選び終えたようだった。


どうやら自分の服とお揃いの色にしたらしい。


俺がお金を渡して彼女に支払ってもらう。


彼女の喜ぶ姿を見るとこうしてマンサと一緒になれて本当に良かったとヴォルフは幸せな気持ちをかみしめた。


長い買い物の時間が終わり、ケーナには遅いと説教され、引き続き修行の続きをさせられたヴォルフはくたくたになって家に帰った。


「そういえば夕食はマンサのところで食べるんだった」


マンサとの約束を思い出し、マンサの家に向かう。


もうすぐマンサの家の着くと思ったその時、意識が暗転した。



「ヴォルフ遅いわね」


「忘れて家に帰って帰っとるんじゃないか?」


「ちょっと家に行ってくる」


本当に忘れてたらとっちめてやる。

マンサは家をでてヴォルフの家に向かった。


「ヴォルフ帰ってる?」


マンサは暗い家に灯りをつけヴォルフを探した。部屋にもいない。


「どこに行ったのかしら」


ふと気が付くとテーブルの上に置き手紙が置いてあった。

「マンサへ」と書いてある。

手紙の封を開けて中に一通の手紙があり、読んでみると


「おまえと結婚できない、この町を出る。さよなら」と書いてあった。


「うそ……」


マンサは口に手を当てて泣き崩れた。

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