第11話〜若きヒーローたちと〜

・ゴマちゃん……レモン、相砂、優希

・無頼様……菰葉、まっちゃ、住民A

・兎蛍様……ミカン、衣來、麒麟、愛鈴、

・砂漠様……ゴマじい、雛月 叶ひなつきかなえ、住民B

・星花様……N、世新、優超


————


N「再び訪れた、1500年後の世界——。

 ゴマじい一行がワープしてきた場所は、住宅の立ち並ぶ街中だった

 ミランダの魔法のおかげで、ゴマじい一行は、服を着て二足歩行で〝別世界〟を訪れることができた」



住民A「うわあっ! 虹色のモヤモヤから巨大なゴキブリが出てきたぞ!」


住民B「あっちではぬいぐるみに襲われてる人がいる! 何なんだ、何が起きてるんだ!」



N「街中は、既にカオス状態だった。ティタニアのワープゲートが街のあちこちに現れ、人や物が飲み込まれ、また吐き出されを繰り返している。

 それに加え、何とクマ、猫、うさぎのぬいぐるみが、街中を飛び交っている。ぬいぐるみは、手のひらサイズのものから2メートルほどもあるものまでと大小様々で、自分の意思で動いているようだ」



ゴマじい「……予想していたより、酷い有様じゃのお……」


レモン「これは、一体……⁉︎」



N「その時、ゴマじい一行の左手にある工場の入り口から、10代ぐらいの少年少女6人が、慌ただしく駆け出てくる。

 まっちゃが、その少年少女たちを指差して叫んだ」



まっちゃ「あ! あの人は!」


ミカン「まっちゃ! どこ行くの!」



N「1匹で駆けて行くまっちゃ。

 工場の入り口から、ボサボサの銀髪の、眼鏡をかけた壮年が出てくる」



相砂「ったく、何なんだコイツは一体……。絶花ぜっかの仕業ではないよな……?」



N「大小さまざまなぬいぐるみに、数々のティタニアのワープゲートで、街の人たちは大混乱だ。

 大通りには多くのパトカーが停まり、警察官がぬいぐるみに翻弄されていたり、ワープゲートに吸い込まれたりしている。


 その先を、6人の少年少女が駆けて行く。その中に、以前この世界を訪れた際にゴマじい一行が出会った、桜庭衣來、湯野菰葉の姿があった」



まっちゃ「ほら! あの時撫でてくれたヒトだよ!」


ミカン「こら、まっちゃ! 今は大変な時なんだから勝手な行動はしないの!」


レモン「……待て! あの少年少女たちの先……! 何かいるぞ‼︎」



N「真っ直ぐの大通りの先を、レモンが指差した。

 そこには、シマウマの首、鷲のような羽、サイのような胴体を持ち、尻尾が蛇の頭の、謎の動物が地響きを上げ、歩いていた。後ろ姿なので見え辛いが、シマウマの首の下にライオンのタテガミのようなものも見える」



ゴマじい「ひぃ、ひぃ……これ、年寄りを置いて行くでない……! ん? 何じゃ、あの化け物は‼︎」


レモン「ゴマ様! 色々と大変な状況ですが、まずはあれを止めるべきかと!」



N「高さ5メートルはあるであろう、その巨大生物は、看板や標識を倒し、自動車を踏み潰し、民家を破壊するなど、目の前の障害物をものともせず真っ直ぐに進んでいく。人が巻き込まれたら、命の危険もある。

 そんな化け物を、少年少女たちはひたすらに追う」



ゴマじい「と、止めるって、アレをワシらに止めろじゃと……? かつてのワシなら何とかなったかも知れぬが……」


ミカン「……あの少年少女たち、死にに行くつもりなのかな?」


まっちゃ「そうだよ! ここで何もしないと、あの優しいヒトたち、死んじゃうよ‼︎」


レモン「拙者らはゴマ様から鍛錬された力がある! ミカン、あの化け物を倒しに参るぞ!」


ゴマじい「待てぃ、無謀ぢゃ! いくらレモンとミカンの力でも……!」



N「レモン、ミカンは一足先に化け物を追いかける。前を走る6人の少年少女にもう少しで追いつく。

 そして、一気に少年少女たちの横を駆け抜けようとした、その時だった!」



レモン「ぐはぁっ!」


ミカン「きゃあっ!」



N「レモンたちと同じくらいのサイズの、猫のぬいぐるみが2体、レモン、ミカンにそれぞれ勢い良くぶつかった」



優超「あら、ごめんなさい。……服を着てるなんて、変わった猫さんたち。あなたたち、ここは危ないわよ?」



N「そこに居たのは、10歳前後の少女だった。長いふわふわの金髪に、赤い目、可愛らしいワンピース姿。手にはクマのぬいぐるみ」



ミカン「いたた……! あ! あの女の子が抱えてるぬいぐるみ、街で飛び回ってるやつと同じだ!」


レモン「……この物騒な傀儡を操っているのは……お主か! 名を名乗れ!」


優超「ボクは小飯塚 優超。あなたたちを襲う気はないから、早くお逃げなさい」



N「レモンたちにぶつかったぬいぐるみは、一瞬で大人しくなった。

 だがその時に聞こえたまっちゃの一言で、優超の表情に陰りが出る」



まっちゃ「早く、あの優しいヒトたちを助けなきゃ‼︎」



N「まっちゃは、先を行く少年少女たちの方を指差し、そう言った。

 すると大人しくなった猫のぬいぐるみが、再び動き出し、レモンたちを取り囲む!」



優超「……あなたたち、あの〝ヒーロー〟たちと関わりがあるの?」


まっちゃ「うん! 僕たち、あのヒトたちを助けるために追いかけてるんだよ!」



N「その言葉を聞いて、キッとゴマじい一行を睨みつける優超」



優超「あなたたちを襲う気はなかったけど……そういうことなら話は別よ! 覚悟なさい‼︎」



N「優超の言葉と同時に、猫のぬいぐるみが合計10体集まり、ゴマ一行に向けて突撃を開始した」



レモン「舐めてもらっては困る! いくぞ ミカン!」


ミカン「うん!」


まっちゃ「ひ、ひいー! 何なんだよあのヒト‼︎」


ゴマじい「まっちゃよ、ここはレモン、ミカンに任せて、早く安全なところへ隠れるぞい」



N「レモンが剣をぬいぐるみにぶつけると、ぬいぐるみは動きを止めて地面に落下する。ミカンは魔法弾を放ち、ぬいぐるみにぶつける。同じように、動きを止めて地面に落下。

 だが、倒せど倒せど、新手の猫のぬいぐるみが、次から次へと集まってくる。

 集中力が切れたレモンとミカンは、ぬいぐるみの体当たりを喰らう回数が増えてきた」



レモン「ぐっ……!」


ミカン「キリがない! このままじゃ!」


優超「可哀想だけど、パパの敵は私の敵よ!」



N「優超がそう言い放った瞬間だった。

 太さ10cm、長さ50cmはある巨大な万年筆が、高速でレモンたちの所へ飛来した。

 そして、猫のぬいぐるみの顔面を貫通。綿が周りに弾け飛ぶ。その万年筆は空中で方向転換し、次のぬいぐるみに筆の先を向け、またもぬいぐるみの顔面を貫通。

 空中で動きを制御しながら、謎の巨大万年筆は次から次へと猫のぬいぐるみの顔面を突き破り、集まってきた猫のぬいぐるみは全て綿を撒き散らして地面に落ち、動きを止めた」



優超「そんな! ボクの……猫ちゃんが!」


レモン「た、助かった!」


ミカン「一体誰が……?」


まっちゃ「ひゃー! 危なかったあ!」



N「巨大万年筆は空中でサイズダウンし、普通の万年筆となった。そしてその万年筆を、背を向けたままパシッとキャッチする、謎の男」



ミカン「あのヒトは、一体……?」



N「紺色の長髪で、同じく紺色の口髭とあご髭の、道着のような服を着た、謎の威厳のある男。年代は50代後半ぐらいだろうか。その男は無言で振り返り、優超をキッと睨んだ」



優超「……あなたも邪魔をするの? ならボクが倒すわ!」



N「優超が謎の男を睨み返し、指をさすと、謎の男の背後から、高さ2メートルはあるクマのぬいぐるみが迫ってきた」



まっちゃ「わああ、おじさん、危ないよ! 逃げてええ!」



N「だが謎の男はその場を動かず、息をふうーっと吐いて、巨大なクマのぬいぐるみの方へと振り返る。

 次の瞬間、男の道着の中から10数本の万年筆が飛び出し、次々とクマのぬいぐるみの方へと発射される。

 万年筆はクマのぬいぐるみを次々と貫き、最後の1本がクマの顔面を貫くと、クマのぬいぐるみはバーンと破裂し、中の綿が周囲に弾け飛んだ」



レモン「つ……強い! お主、一体何者……?」



N「謎の男が再びレモンの方に振り返ると、手に万年筆を持ち、それを見つめながら口を開いた」



雛月叶「……私の名前は、雛月 叶ひなつきかなえ。異世界より現れし猫の戦士たちよ。さあ行くがよい」


レモン「……拙者はニャンバラの剣士、レモン! 助太刀、感謝致す!」


ミカン「ありがとう、叶さん! さあ行きましょ!」



N「ぬいぐるみをことごとく潰されてしまった優超は、顔を歪める」



優超「……こんなの、絶花から聞いてない!」



N「優超はそう言い捨てて、走り去っていった。同時に街で暴れていたぬいぐるみたちは、全て動きを止めた」



ゴマじい「先を、急がねばな。ワシが若ければ、こんな奴ら、一瞬で潰せたものを……」


ミカン「ゴマ様とまっちゃは、僕たちがお守りします! ご安心を!」


まっちゃ「いつもありがとうー、レモン、ミカン。さ、早くあの優しいヒトたちに追いつかなきゃ!」



N「大通りを先に進む一行。

 町外れに、雑木林があった。木々がなぎ倒されている。林の中から地響きがする。

 一行が林の中を覗くと、さきほどの少年少女が、化け物と戦っていた。少年少女の服が、さっきとは違って、カラフルなものになっている。

 湯野菰葉、桜庭衣來を見つけたまっちゃは、駆けつけて声をかける」



まっちゃ「はぁ、はぁ……。あ! いた! こないだの優しいヒトたち! 助けに来たよ!」


菰葉「ん……誰だ⁉︎」


衣來「え、どこ⁉︎ どこから声が⁉︎」


ミカン「まっちゃ! 勝手に飛び出すと危ないよ!」



N「まっちゃの真後ろに、まっちゃの何倍もの大きさの化け物が迫ってきた!

 化け物は前脚を地面に叩きつけ、衝撃で衣來、まっちゃが吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた」



衣來「……って、うわあー!」


まっちゃ「うわあああ!」


菰葉「大丈夫か、衣來!」


麒麟「いくるん大丈夫⁉︎」


衣來「……何とか!」


レモン「まっちゃ、しっかりしろ!」


まっちゃ「あわわ、レモン、ミカン、ごめんんん! うっかりーー!」



N「レモン、まっちゃはすぐに茂みの中に隠れ、後から来たゴマじいと合流。

 一方化け物は、再び前脚で衣來を蹴飛ばそうとしたが、衣來は間一髪かわす。が、衣來は先程受けた傷のせいでうまく動けない」



麒麟「いくるん! 私いくるんを安全な場所に連れてってくる!」



N「白と黒のツートンの髪をサイドテールにして黄色いセクシーな服を着た少女、纐纈 麒麟が衣來に声をかける」


衣來「ごめんありがとう……」


菰葉「待て! ぼくも行く!」



N「菰葉と麒麟は、よろめく衣來を茂みの向こうに連れて行った。

 なおも暴れ回る化け物の周りでは、他の3人の少年少女が戦っている。


 紙を自在に操り戦う、レースやフリルが沢山付いた緑色の服の上に透明な上着を羽織った少年、早乙女 優希。

 いくつもの四角い紙が舞い、カッターのように化け物の体を切り裂く。

 ペンを自在に操り戦う、黒いワンピースに半分はミニスカート、半分は丈の長いレイヤードスカートを着た少女、雛月 世新。

 幾つものペンが宙に舞い、化け物の体に突き刺さる。

 そして空中に何やら文字を描いている、黒いシャツとピンクのズボンの上から濃いピンクのロングコートを着てピンク色の帽子をかぶった少年、粟飯原 愛鈴。

 空中に〝燃〟という漢字が描かれ、化け物の体の一部に炎が上がる」



レモン「何と、奇怪な技の数々……!」


ミカン「でも、あのヒトたち押されてるね」


まっちゃ「……ゴマ様、茂みの方をじっと見て……あの優しいヒトたちが気になるのですか?」


ゴマじい「……見るがよい。あのおなごの……脇の方を」


まっちゃ「んんん? ……ああっ!」



N「ゴマじい、まっちゃの視線の先には、衣來の介抱をする麒麟が居た。

 ノースリーブ、レースの襟、大きなリボン。身丈が臍より5センチくらいまでしかなくて、肩からサイドベルトベストみたいな布。ウエストバンドが緩やかなV字、丈は腰から手ひとつ分くらいしかないショートパンツ、足にはガーターベルト、腕にはリング。長めの靴下に、ブーツ。

 横から見たら、歳に似合わぬ大きな胸がほぼ丸見えである。そのエロい姿に見惚れる、ゴマじい、まっちゃだった」

 


ゴマじい「ふほへ……いいもん見れたわい」


まっちゃ「えへへ〜」


ミカン「ほんっと、だらしないんだから! もう!」


レモン「そんなことしてる場合ではない! ミカンよ、ここからあの化け物の視線の先に魔法を放て!」


ミカン「ん! 分かった!」



N「ミカンは茂みの陰から、ライオン、シマウマの顔を持つ化け物の視線の先に目掛け、魔法弾を3つ放った。

 レモンの思惑通り、化け物は魔法弾に気を取られ始める」



レモン「……その隙に! 拙者が成敗致す! はあっ!」


世新「あ! 猫さんが!」


優希「ねぇ、あの猫、喋ってなかった?」


愛鈴「大丈夫なの? あれ」



N「飛び出してきたレモンを見て思わず攻撃を中断する世新、優希、愛鈴。その間に、レモンの激しい動きに撹乱され、動きが鈍る化け物」



麒麟「すごーい! ねえ何あのぬこぬこ! すごいよこもみん‼︎」


菰葉「あれは……猫でいいのか?」



N「大きな隙を見せた化け物。

 世新、優希、愛鈴は再び、攻撃を開始する。

 レモンは、茂みの裏にいる衣來たちのもとへ駆けつけた」



レモン「すまぬ、遅くなった。拙者らが来たからには、安心するが良い」


衣來「ね、ねこ⁉︎ 君は猫……でいいの⁉︎」


レモン「……あの化け物の正体は何か知っておらぬか?」


衣來「ペテェだよ! 詳しくは俺も知らないけど! ところで、君はなんなの⁉︎」


レモン「ふむ、ペテェとやら! 皆で力を合わせ、退治しようではないか!」


衣來「分かったけど、君はなんなの……⁉︎」



N「レモンが再び、ペテェという名の化け物を攻撃しようと態勢を整えた時だった」



ゴマじい「ひいい、助けてくれえーーーー‼︎」



N「ゴマじいの叫び声。

 嫌な予感がしたレモンは、茂みを飛び出し、ペテェの方を見た」



レモン「ゴ、ゴマ様! 危ない!」


まっちゃ「うわあ、ゴマ様ーー‼︎」



N「ペテェはいつの間にか、ゴマじいのいる場所にまで移動していた。

 そしてペテェの前脚が、ゴマじいの真上にあった。

 腰を抜かすゴマじい。

 そして、次の瞬間——」



ゴマじい「ぬわーーーーーーッ‼︎」



N「バキバキという不吉な音と共に、ゴマじいはペテェの前脚に踏み潰されてしまったのである——」



レモン「ゴマ様ああああーーーーッ‼︎」



N「ゴマじいは、死んでしまったのか?

 まさかのシリアス展開か⁉︎

 やはり星花と猫丸を組ませてはいけなかったか!?

 果たして次回、どうなるー⁉︎」

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