第12話

 明日香の隣まで駆け足でいき、並んで歩く。明日香は前を向いたままで無表情に歩いている。いつもならいろいろ話しかけてくれるのに。なんだか様子が違っていた。


「祖父母のところに行ってどうだった? 楽しかったか?」


「うん。いろんなところを観光したり、おいしいものを食べたよ」


「どんなものを食べたんだ」


「おばあちゃんのお友達がしているうどん屋さんでうどんを食べたよ」


「そうか、良かったな」


 会話が終了した。いつもならもっと明日香から発信してくれて話が盛り上がる。今日の明日香の反応が素気ない。二人並んで歩いていての無言は気まずいため、俺は何か話題がないかと探すが、これといった話題は見つからない。探しているうちに学校に着いていた。

 廊下で明日香と別れ、俺は自分の教室に入る。教室には浮かれた空気が漂っていた。俺の気持ちとは正反対だ。はぁと深いため息をつきながら、窓際の一番後ろの自席に座った。カバンから授業で必要なものを取り出していく。


「おはよう、河崎くん。久しぶりだね」


 顔をあげると天が笑顔で立っていた。俺は慌てて表情をいつも通りに戻す。沈んだ空気を天に感じられて、気を遣わせてはいけないと思ったからだ。


「久しぶりだな」


 この一週間、天とは一回も連絡を取っていないかった。多分、天と知り合ってから初めてのことだ。長くても連絡を取らない日は三日だった。まぁ、話題を残すためだろう。文章よりも実際に会って話したほうが伝えやすい。


「河崎くんって苦いものって好き?」


「苦手ではないけど」


「じゃあ、甘いものは?」


「どっちかというと好きかな。甘すぎず、苦すぎずのものが好きかも」


「そうなんだ。この前、私、抹茶を飲んだんだけどね。いつも食べてるチョコの抹茶味とかと全然違うくて。抹茶って、抹茶味のチョコよりも苦くて、思ったよりは甘くないんだ」


 ほぉと相槌を打ちながら、話のスジが全然読めないと思った。どうやって話を広げればいいか分からない。


「だから、河崎くんが甘すぎず苦すぎずのものが好きって聞いて安心したよ。はい。お土産」


 天から箱を受け取る。抹茶生八ツ橋と書かれていた。


「友達と京都に旅行行ったんだ。今度また、三人で行ってみようよ」


 京都か。この前も三人で京都に行ったが、嵐山のほうしか回れなかったし。次は河原町のほうに行ってもいいかもしれない。


「お土産、ありがとな。春休みぐらいに行けたら行くか。桜を見にきた人で大変そうだけど」


「そのぐらいがちょうど時間ができるし、そのあたりかな。それじゃ、私、今日は日直だから」


 そう言って教室から出ていく天を見届けると、俺は天から貰った抹茶生八ツ橋を見る。この気分で食べたら、ちょうど良いバランスにはならないだろうなと思った。

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