短編小説詰。

01.愛の言葉が思い浮かばない(BL)

好き嫌いかでいうまでもなく、圧倒的に好き。ただそれだけで、その気持ちを『恋』だと決め付けるのはどうかと思う。

 俺がそう言うと、友人二人のうち一人は「まあそうだな」と頷いて、もう片方は何故か苦々しい顔で紙パックに挿したストローを噛んだ。


「何それ、どういう表情?」

「何言ってんだこいつって顔だよ。何言ってんだお前」

「いや、だってさあ」

「往生際が悪い」


 続く言葉は、バッサリ。そう表現するに相応しい切り口。

 その隣で、もう一人が「まあそうだな」と頷く。――コピペで喋るのはやめてほしい。


「俺は二人のことも好きだよ」


 わざわざ『嫌い』を持ち出さなくても、俺は二人のことが『好き』。

 同じ言葉を使うのだから、俺の好きは『恋』ではない。そう思っているんだけれど。


「圧倒的に?」

「え。いやそれは別に、ないかな」

「だよな。その差は何よって話じゃん」


 重さの違い。その意味とか理由とか原因とかを問われるとちょっと言葉が出なくて。誤魔化すように、手に持ったままだった卵サンドを頬張った。


(だって圧倒的に好きなのは事実だ。)


「ていうかいきなり何、誰かに何か言われた?」


 自分の食事がひと段落したことでコピペ回答縛りは終わったらしい。めんどくささを隠しもしない表情でいちごオレを吸引する片割れに代わって、もう一人が会話を引き継いだ。


「いや、直接何か言われたわけじゃないけど」


 俺の視線は、教室の隅でグループを形成する女子の集団に。

 クラスの中ではおとなしく、皆校則をきっちり守った保守的な制服の着こなしをしているグループだ。普段ほとんど関わりのない人達なのだけれど


「あそこの子ら、俺と圭君でボーイズラブ書いてる」


 見ちゃったんだよなあ。ノート。

 見るつもりで見たわけではなく、事故的に、不可抗力で。


「……わあ」

「いや、べつにいんだけどねそれは。どっちかっていうと見ちゃったほうが悪いかなって」

「いやそれ怒っていいとこだと思う」

「謎に心が広い……」


 そりゃあ、思うところがないわけじゃない。でもここで問題を表面化させたところで俺にも彼女らにも良いことは何一つないだろう。

 ただ、なんとなく面白くないのは――俺の気持ちに、勝手に名前を付けられたからだ。


「恋愛的に好きだって言ってた。俺が、圭君に」

「具体的な話はやめろ!」

「そりゃ好きだけどさー大好きだけどさー!」


 『好き』であることに間違いは無い。俺は彼のことが、多分、世界でもトップクラスに好き。

 でも、恋だの愛だのはまた別の話じゃないのかな。俺はまだその気持ちを知らなくて、見分けることすらできないのに。


「何、清良俺のこと好きなの」


 机に突っ伏した俺の髪を、ふんわりと撫でる手があった。


「うん」


 所用で外していたボーイズラブの相方、圭君が戻ってきたらしい。タイミングよく告白を聞かれてしまったわけだけれど、特に恥ずかしさも気まずさも無い。

 圭君は知っているから。俺の気持ちを、誰よりも正確に。


「知ってる」


 そう言っていたずらに笑う圭君はとても綺麗だ。(目の前の二人が微かに動揺したのを、俺は見逃さなかった)


「おかえり、圭君」

「ただいま。何の話……っていうのは聞かないほうがよさそうだ」


 当たり前のように隣の椅子に腰を下ろす圭君に曖昧な笑顔を返し、ちらりと例のボーイズラブグループに視線を送る。

 ああ、盛り上がってるな。こちらの声が聞こえる距離ではないけれど、圭君の美少年スマイルひとつあれば昼食のデザートトークには事足りるだろう。

 気持ちわはかる。とてもよくわかる。だからわからないんだよ。

 あの子達の『好き』と俺の『好き』その違いは、何?


 俺の気持ちが特別だったら、『好き』以外の言葉があるはず。

 

 この『好き』が恋ならば。

 この『好き』が愛ならば。

 

 ――俺は、なんて言うんだろう。






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診断メーカーに頼りました。


槇へのお題は『愛の言葉が思い浮かばない』です。

#shindanmaker

https://shindanmaker.com/392860


今は非公開にしている小説に出てくる子達です。そちらはそのうち再公開します。

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