馬鹿は馬鹿でも

 


「今頃あのバカ共は何をしているか」

「魔王陛下の事でしょうか?」

「それ以外あるか?」

「……」



 当然だと言わんばかりの顔をされて困ったと眉を八の字にした。リゼルがバカと呼ぶのはほぼ魔王しかいない。当時の魔王候補筆頭といえど、現魔王を馬鹿にするのは重罪に値する、と他の高位魔族は不満を露にするも、圧倒的実力差を見せ付けられると何も言えなくなる。ノアールも膨大な魔力を持つがリゼルと並べるとまだまだ。

 ふと、リシェルは疑問を出した。



「私と殿下の婚約がなくなってすぐにビアンカ様と殿下は婚約するかしら?」

「どうでもいいだろう。もうリシェルは王子とは無関係だ。絶縁は言い渡した?」

「そんな勇気ない」



 口にしたら、本当にノアールとの関係を絶たれてしまう。心のどこかで嫌がる自分がいて。意地でも目の前で涙は見せるものかと、心とは真逆の晴れ晴れとした笑顔は浮かべられた。呆然としていたノアールはきっと泣いて縋って来ると予想していたのだろう。自分の思い通りにならないリシェルとリゼル親子を嫌いなのは結構だ。もう、彼とは赤の他人となったので。


 ビアンカには何度も嫌がらせをされてきた。ノアールと恋人になってからは特に。元々ノアールに好意を抱き、妃の座を狙っていた彼女だ。今頃、リシェル共々ベルンシュタイン家を潰そうとアメティスタ家に戻って話していそうである。

 野心家と名高いアメティスタ家の当主が何をしてくるか。リゼルに相談だけはしておかないと。



「パパ。ビアンカ様の実家、アメティスタ家についてだけど」

「どうした」

「ビアンカ様はアメティスタ家を使って必ず私やベルンシュタイン家に何かを仕掛けてくると思うの。魔界に戻ったら対策を」

「考える必要はない。魔王に休暇申請をした時に奴もいた。俺と当主でちゃんと話を付けたから、奴等が俺達に手を出す事はない。小麦の粒程の嫌がらせをリシェルにしたら、一族総出で俺と遊ぶ約束をした。心配ないよリシェル」

「あはは……」



 もう、笑うしかない。とことん手を回しているリゼルに時たま戦慄する。先程芽生えた悩みの種は芽吹くことなく消え去った。


 小さい頃はリゼルのような素敵な男性と結婚したいと思っていたがリゼル並の男性を探すのに骨が折れそうだ。魔族が長生きで良かった。



「ただ、なあ」

「?」

「エルネストは馬鹿で優柔不断で情けない奴だが本物の馬鹿じゃない。と思っていたが俺の見込み違いだったな」

「魔王陛下がどうされたのです?」

「あいつは本物の馬鹿だ。他にやり方はあったろうに」



 口では何度も馬鹿と罵るが空を見上げた金色の瞳は寂しげで。昔馴染みで長い交流を持つ二人。幼い頃の話をあまり聞かない。魔王エルネストの情けない話しかないからとリゼルはあまり話してくれない。



「エルネストという馬鹿は、愛し方を間違えたのさ」

「??」



 益々、リゼルの言っている意味が分からなくなった。



「いつか教えてやろう」


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