ありがとうで賞

 ああ! 引かないで!

 いいじゃない。たまには勢いがあってもいいじゃない。


 これでも譲歩してるの。

 本当はラップをしたかったけど、あなたが耐えられないと思ってやめたんだから。


 はい、聞きなさい。黙りなさい。

 お客さん、式の最中はお静かにお願いします。



 では! ……表彰。

 家事ありがとうで賞。

 あなたは家事をいつもよくやってくれます。


 当番は一応存在するけれど、私が忙しそうだったり、自分が手が空いているときには何も言わず手伝ってくれること本当に感謝しています。

 普通にありがたいという気持ちも勿論あるのですが、あなたが家事を率先してやってくれているとき、私はもうひとつ思い出すことがあります。


 それは高校生の頃、あなたが日直の仕事である黒板消しを日直でもないのによく代わりにやっていたことです。

 休憩時間の終わり間際。日直が仕事を忘れているなと思ったときにすっと席を立って黙って黒板を消し、黙って席に戻っていく。


 これは昔から言っているけど、私は凄く格好いいなと思っていました。

 「いちいち日直に言うのも面倒くさいし、偉そうだし。俺は暇だし苦でもないから」という理由は聞きました。

 多分本当にそう思っていたんだろうとは、今となっては分かります。

 でも私はそんなあなたを見て、仕事ややらなきゃいけないことへの向き合い方が確かに変わりました。


 私の好きな、そして尊敬するあなたが変わらずにまだここにいることを、あなたが家事をやってくれるときに実感します。


 こういう括り方が正しいのかは分からないのだけど、日頃の感謝とそんなあなたへの尊敬を込めて「家事ありがとうで賞」をここに表彰します。




 ああ……懐かしいな。覚えてる? 

 私が黒板消しを一緒に手伝っていたこと。

 あまりにも眩しいから一緒にやりたくなったんだよね。

 やるとあなたとも話せたし。


 だんだん他にも手伝ってくれる人が増えてさ。

 もちろん係やシステムは必要なものだけど、ただ割り振ればすべて正しく動くわけじゃないもんね。

 本当に今でも思い出して色々考えちゃうな。


 もうね、私の心の中には小さいあなたがいるの。

 迷ったときには、あなただったらどうするかなって考えちゃう。

 そうするとニセあなたが答えてくれてね。

 「そっか、そういうのでもいいんだ」って楽になったりすることがある。

 ずっと一緒にいるし、ずっと憧れてきたから、我ながらまあまあの再現度だと思うよ。


 だから、いつまでも私の尊敬するあなたでいてね。


 そんなに気負う必要ないよ。

 だってあなたは私の恋人なんだから。

 支え合っていきましょう。



 あ、ちなみに今回も副賞があります。


 何だと思う?

 ケーキじゃないよ。


 ほら、最近私たちの間で話題の、あるじゃない。


 おー惜しい!

 近くに出来たイタリアンレストランではありません。


 そう、そっち! 

 期間限定のホテルランチ!


 予約しちゃいました! 


 今回は二名様のご招待となります。

 こういうのって大体二名様だもんね。ええ。


 ……お? 気づいてしまいましたか? 


 お姉さん、勘のいいガキは嫌いじゃないよ。

 あ、でも細かいこと言うジジイは嫌いです。


 ええい、ばれてしまったならば仕方がない。

 そうだ。今回の「家事ありがとうで賞」もなんと同時受賞! 

 そして私の分の副賞は……イタリアンレストラン二名様分だー! 

 誰にも文句は言わせない!

 つまりこれは「気になってたお店全部行っちゃいま賞」!


 ……なんちゃって。


 いやあ……ちゃんとね、やり過ぎかなとちゃんと反省してますよ? 

 でもさ、ほら一回こう「行ってやりましたわ」みたいな店行くと、庶民ブレーキがMAXになっちゃうじゃない。

 絶対今度はクリスマスかなってなっちゃうじゃん? 

 それでね、あのね、いや本当に私に義はないんだけど……両方食べたいなあって……。


 まあまあまあまあ……これに関しては後で相談しましょうか。

 まだ式典の最中だし。


 また時間が経てば気持ちも変わるかもしれないしね。

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