その7
その途端、真っ白な光景が、僕の目の前に広がった。
「
誰かの叫び声?一瞬だけど、聞こえた。力強い声。僕の頭の中に響いてくる、誰かの心の声が。こんな声、橘(たちばな)さんといた時も、聞こえてきた気がする。
「僕は、人間の世界(ぼくら せかい)に帰りたい。仲間とどんなことだって、乗り越えていくんだ!だから、真琴(まこと)君を攻撃するのはもうやめて!」
秀君の声だ。秀君の心の声が聞こえる。僕の心に響いてくる、優しくて力強い、苦しみを乗り越えて覚悟を決めた秀君の声だ。不思議と、僕の体に力がみなぎってくる。白い光の中で、秀君が僕を見て、力強く頷いた。
これは、秀(しゅう)君の心の声だ。
「僕に、その力を貸して!」
僕がその言葉を放った途端、白い光が僕たちを包み込む大きな白い翼の盾に変わった。ドラゴンの攻撃が跳ね返り、その場で、ドラゴンが倒れた。
マネードラゴンに勝利 ゲーム終了です
アナウンスが流れ、ゲームが終了した。倒れていたマネードラゴンが起き上がって、また遠くへ飛んで行く。雷雨が止み、いつの間にか晴れ間が差し込んでいる。
「これって…。」
「間違いねえ…お前、マネードラゴンを倒しちまった…。それにしても、さっきのあれは何だったんだ…?」
メドさんが口をぽかんと開けて倒れたドラゴンと僕を交互に見つめている。
「聞こえたんだ。秀(しゅう)君の声が。その声が、僕の力に変わって…。」
「おい…。それひょっとして、真琴(まこと)の能力なんじゃないのか?お前、人間N嫌われてる虫や動物の言葉が話せたり、苦しんでる人の心の声が聞こえるんだろう?俺、その昔、ティナ様から聞いたことがあるぞ。人間の中には、「痛みを力に変えられる」やつがいるってな。お前は、仲間を助けるために、その能力を発動させたんだよ。」
メドさんが、僕をじろじろと眺めてそう言った。
「僕は必死だったから、よくわからない。だけど、僕、秀(しゅう)君とみんなを守ったんだね!みんなを、人間の世界(ぼくら せかい)へ帰そう。」
「ああ、でもどうやってやるんだ…?」
僕が、このステージをクリアしたなら、人間の世界(ぼくら せかい)への扉が開くはずだ。それなら、もうやることは決まっている。
「出来ると思う。やってみる。」
僕は、一度深呼吸をして、左手のスマートウォッチを起動した。
「もしもし、真琴(まこと)です。聞こえたら返事をして。今僕はステージ2の建物の屋上にいる。ここにいる生徒も一緒だ。」
「…真琴(まこと)君!?」
しばらくして、スマートウォッチの向こうから、元気な話し声が聞こえてくる。やった、成功だ。ステージ2のクリアの扉が開いたんだ。
「その声は、もしかして…橘(たちばな)さん?無事戻れたんだね!」
「うん。真琴(まこと)君のおかげだよ。私、あの後ね…私の家族と仲直りしたの。」
「それは本当に良かった…。今、みんな一緒にいる?」
「うん、マサト君と、ルーク君が一緒。」
「完璧だ。じゃあ、始めようか?」
「ルーク君が、グーサイン出してる。こっちの「エスケープ・ワールド」は準備オッケー。早速、質問を聞かれているわ。「あなたは、「お金」が欲しいですか。」だって。」
僕とメドさんは顔を見合わせて、頷いた。いつの間にか、屋上には、秀(しゅう)君とみつばの他に、サクラ、赤チームの二人、それに最初に僕にシューターをくれた男の子が来ていた。
「これで全員だね?」
僕がメドさんに聞くと、間違いねえ、と僕の肩をぽん、と叩いた。
それから僕は、10個の質問を一人一人に聞いていった。もう誰も、この世界でお金が欲しいなんて、稼ぎたいなんて言わなかった。きっと、人間の世界(ぼくら せかい)では、仲間と一緒だったら、笑いあうことだって、このゲーム何かよりももっとすごいことが、沢山できるからだ。最後の質問に、秀(しゅう)君が「いいえ」と答えると、青い光が差し込んで、「人間の世界(ぼくら せかい)」への扉が開いた。
「…!本当に私達帰れるのね!?」
サクラが駆け寄ってきて、涙ぐみながら、僕の手をとって嬉しそうにぶんぶんと振った。
「帰れるよ!サクラ、僕は君と同じチームだったから、ここまでこれたんだ。今まで、本当にありがとう。」
「ううん、真琴(まこと)君が青、緑、赤のチームを一つにしたからよ。ほんとにありがとう。また、人間の世界(ぼくら せかい)で会いましょうね!あなたは、私の大切な友達だから。」
そう言いながら、青い光の中に吸い込まれて、サクラは帰った。後ろから、赤チームのサンとツキがニコニコしながら駆け寄ってきて、仲良く帰っていく。
「マコト!あなた、へんなやつだったけど、助けてくれて、ありがとね!」
みつばが大声で近づいてきて、僕をぎゅっと抱きしめると、今度は秀(しゅう)君をぎゅっとした。
「兄者、お別れなんて、寂しいよ。でも、ずっとあたしたちを守ってくれて、ほんとにありがと。人間の世界(ぼくら せかい)でも、ずっと最強チームだからね!あー、あたしお腹すいた~ママのハンバーグ食べよ~」
みつばも、元気そうに青い光の中に入っていった。その後ろで、僕にシューターを渡してくれた男の子が待っていた。
「君、僕が渡したシューター、役に立ててくれて、ありがと。気が向いたら、あっちでも遊ぼう。はー、早く新しいゲームやりたい。」
「うん!あの時、色々と教えてくれてありがとう。」
「最後は…僕だね。」
秀(しゅう)君が、僕を見て寂しそうにそう言った。
「君がいなかったら、僕さ、仲間をずっとこの世界に残すことになったかもしれない。みんなが帰れるのは、君のおかげだ。僕には新しい仲間もいるし、みんなとは世界最強のチームだから。僕に怖いものは何もないよ。」
「君が無事で、本当に良かったよ。立春小学校(たてはるしょうがっこう)に戻ったら、僕の弟や、橘(たちばな)さんにもお礼を言っておいて。」
「もちろんさ。僕の友達の友達は、みんな友達だ!」
秀(しゅう)君は軽くメドさんにも礼をすると、光の中に吸い込まれて行って、光の扉が閉じた。また、スマートウォッチの向こうから、声がする。
「ご主人様!無事全員が戻られましたね?」
「君はルークか!全員無事だよ。ねえルーク、このステージに、これだけ沢山の子供がいたんだ。次のステージは、もっといるかもしれない。」
「ええ…。一体、何が起きているのでしょうか…。この後、ご主人様は、この後ステージ3に転送されますが、次のステージで、必ずやマサト様のお友達、愛(めぐ)様、そして囚われた皆様を救い出してください。ステージ3をクリアされると、最終ステージに進みます。そこで、このゲームの秘密を解き明かし、ご主人様とレイブン様が戻られるヒントを探すのです!」
「わかった!僕は、レイブンと一緒に帰るって約束したからね。次のステージでは、マサトの友達と、レイブンを見つける。約束だ。」
「ええ、ご無事で戻られますように願っております。何かあったら、私がどこへでもご主人様を助けに行きます!」
「あ、待って!マサトはいる?」
「マサト様は、ここ数日学校に来られていないんです…。前にもそんなことありましたから、おそらく大丈夫だとは思うのですが…。」
「マサトが学校に来てないって?一体どうしたんだろう…?」
「おい、真琴(まこと)!お前、どうしたんだよそれ!?まさか、もう転送されるのか?」
いきなり、メドさんが慌てて叫んだので見ると、僕の体を、白い光が包み込んでいた。
「うわあっ、待って!メドさんは?きっとまた会えるよね?」
「心配すんな!お前がどのステージにいても、必ず会えるさ。勇気を持って、行ってこいよ!」
そういうメドさんの目は、涙ぐんでいた。
「うん、約束だよ!メドさん!本当にありがとう!」
僕がメドに手を振ると、また次のステージに転送された。
マサトは、一体どこへ行ったんだろう?無事だといいけど。
とにかく、今は、レイブンと再開できることを祈るしかない。
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