第11話 本部の「お客様」、個店の「お客様」
本部と加盟店の関係のお話が続きましたが、商売において無視できないもう一つの関係者、「顧客」とそれぞれの立場との関係はどうでしょうか。
つまり、本部と顧客の関係、そして、加盟店と顧客の関係です。
これは実は加盟店オーナーさんのそれぞれの価値観によって、大きく乖離する場合もあれば、そうでない場合もあります。
というのは、本部―顧客関係は割と変わらないからです。
ところが、加盟店―顧客関係というのは、そのお店の状況によって刻々と変化するものだと私は考えています。
つまり、一方は変わらないのに、もう一方は変わってゆく。当然乖離が生まれるということになるわけです。
本部から見た顧客というのは、文字通り、「お金を運んでくる人」という認識です。何というか、とても失礼な言い回しに聞こえる方もおいでかもしれませんが、この本において、そこを忖度して書いていては、伝えるべきことがあやふやになりかねない為、あえて、ドライに表現していきたいと思います。
本部からしてみれば、その顧客が「どのような人か」はあまり問題にはなりえません。なぜなら、これも簡単なことなのですが、彼ら本部の人間が直接的に「その人」の目の前に立ち言葉を交わすことがほとんどないからです。自然、「どんな人か」というよりは「何を買ってくれるか」のほうに焦点が当たります。
そして、この見方は基本的に変わることはありません。もし変わるとすれば、それは「チェーンイメージ」をおとしめるような行為を行った人をどう扱うかという場合に限られるでしょう。
あなたが経営するお店でどのような行動をとろうとも、例えば、女性従業員に抱きついたとしても、物を買ってくれるのなら、それは本部にとっては「顧客」なのです。
ところが、各加盟店オーナーはそういうわけにはいかないのが普通だと私は思います。
例えば、自身が店にいない時、女性従業員が抱きつかれたりしていながらも、注文をされたからと言って提供しなければならない状況にあるようなお店を、「それも仕事」と言い切れる経営者の方なら、大丈夫なのでしょうが、残念ながら私にはできませんでした。
もしかしたら、そう言いきれていたら、まだ続けられていたのかもしれませんが、この世界線にそんな私は存在しなかったので、仕方ありませんし、考えることすら無意味なのでここでやめておきます。
女性従業員が「抱きつかれた」まではいかなかったですが、「あほ・ぼけ・のろま・ブス」などの侮辱的な言葉を投げられることは数えられないぐらいの経験があります。
そのような人でも、顧客なのか?
これが一番苦しむところです。
本部の答えは明確です。「それでもお客様」というのが彼らの答えでしょう。
では、あなたはどうですか?
個店にはそれぞれのお客様がいます。そのお客様の大多数は優良な方ばかりです。なかには、ねぎらいの言葉をかけていただいたり、ちょっとしたことでお礼の言葉をいただいたり、時には一緒に喜んでいただいたりということもあります。
どうしてもその方たちを、「お金を運んでくれる人」というようには見れないようになるのが「情」というものです。
もしそのような方が店内に存在した場合、他の大勢の優良なお客様方に何かしらの影響や制限が及ぶことは否めません。
前に、「基本的にお客様には損をさせているのが商売というもの」と書きましたが、だからこそ、それ以上の理不尽な状況に目をつぶってもらうのは、私にはできませんでした。
ですので、そう言った迷惑行為をされる方については私の中では「顧客ではない」と割り切って対応しておりましたが、その結果として、本部のクレームセンターに大量のクレームが入るという状況に陥りました。
これについて状況を一つ一つ本部の担当に伝えてはいましたし、警察の立ち合いのもと、状況説明や現場検証なども行っておりましたが、その腹いせで本部にかけられた電話であっても、「正当なクレーム」と同等に扱われ「クレーム件数」の中にカウントされていきました。
その中でも、当店に来店下さるお客様には大変ご理解していただいておりましたが、本部からの圧力は日に日に強くなる一方で、個々の状況や、従業員やお店に対してその方が行った行為などは一切考慮されていないように感じられました。
今思えば、つまりは冒頭に書きました通り、本部にとってはその人も「お金を運んでくれている間はお客様」なのでしょう。
あくまでも私は、加盟店オーナーという立場だった時の経験を通して書いているため、本部サイドの意見はわからないのですが、その様に見えたというのは事実なので、ここから先は、ある一人のオーナー経験者のお話として、皆様が受け取っていただければよろしいかと思います。
教訓10――一言でお客様といっても、本部が対象とする範囲と個店が対象とする範囲は圧倒的に乖離することがあり得る。それはそのお客様との距離がそうさせるのだろう。
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