第7話 友達orストーカー②

灯里と別れた後、美衣子は大慌てで茉那の帰っていった方向に走った。家の場所は正確にはわからないから会えるかわからないけど、このまま放っておくのはあまりにも可哀想だ。


日が暮れかけていて、遠くの景色は見えづらい。見つかるかどうか不安になりながら必死に走っていたけど、ラッキーなことに小さなおさげ髪の影は早い段階で見つかってくれた。


「茉那!」


こんなに必死に走るのは体育のときくらいなので、まだ呼吸が整わず、息は荒れていた。文化祭も終わったような時期に汗をたっぷりかくことなんてないと思っていたので、完全に油断していた。制汗剤も持ってきていないから、汗臭くなっていないか不安になりながら、茉那の反応を伺う。


「えっ、美衣子ちゃん!?」


振り向いた茉那は慌てて涙を拭いた。


「間に合ってよかったわ。まだ家に着いていなかったのね」


涙を拭いて呼吸を整えている茉那と、走ったばかりでまだ呼吸が荒れている美衣子はそれぞれまともに話せる状態ではなく、少しの間お互いに呼吸を漏らし続けるだけの不思議な時間を過ごした後、ゆっくりと歩き出しながら美衣子が話し出した。


「ごめんね。灯里のせいで嫌な思いさせちゃったわね」


美衣子がそう言うと、茉那は首を横に振った。


「ううん、わたしの方こそごめんなさい。多分いきなりわたしが後をつけちゃったから気味が悪かったんだと思う……」


茉那が俯きながら歩く。ほとんど話したことの無い灯里から突然酷いことを言われて落ち込んでいるだろうからもっと声をかけてあげたいけど、なんてかければいいのか分からなかった。


そもそも美衣子は茉那がどんな子なのか、まだよくわかっていない。今の共通の話題は灯里との今のやり取りだけだけど、そんなことを聞くのはさらに茉那のことを傷つけるだけだし。


もう一つ共通の話題があるとしたら、つい先日のことはあるけど……。


「ねえ、茉那はなんでわたしだったの?」


「え?」


「いや、あの。男子とかじゃなくてわたしのこと好きって言ってくれて、それがなんでかなって思って……」


会話に困ってしまったから、思わず自分で聞いて恥ずかしくなるようなことを聞いてしまった。自分で自分の好きになるポイントを尋ねるなんて、恥ずかしいにもほどがある。美衣子はここから逃げ出したくなってしまった。


だけど、茉那は俯いていた顔を上げて、真っ直ぐ前を向いて答えた。


「わたし、美衣子ちゃんにずっと憧れてたんだ……」


「憧れ?」


わたしのどこに憧れる要素があるのだろうかと、美衣子は不思議に思う。


「うん、美衣子ちゃんって孤高な感じですごくカッコ良い」


暮れてしまった空の下で、ほんのり顔を赤らめながら茉那が言うけど、それは褒めているのだろうか。灯里以外に友達と呼べる友達がいないボッチという言葉をポジティブに言い換えているだけのような……。


「一応聞くけどボッチなことをバカにしてるわけじゃないわよね……?」


美衣子の質問に茉那が思い切り首を横に振った。


「そんな、違うよ、絶対に! わたし美衣子ちゃんみたいに周りの目を気にせずいろいろできる人が羨ましいなって……」


「それもバカにしてるわけじゃないのよね……?」


茉那がまた思い切り首を横に振って否定したから本気で褒めてくれてはいるのだろう。これ以上は変に疑うのはやめることにした。


それにしても、当時はたくさんの子たちに囲まれていた灯里が美衣子に近づいてきたときにも似たようなことを言っていたし、なんだか変なところが評価されているな、と美衣子は思った。


「ねえ、美衣子ちゃん。わたしってまた美衣子ちゃんに話しかけたりしてもいいのかな……?」


おそるおそる茉那が美衣子の顔を上目遣いで伺っていた。(上目遣いと言っても、ほとんど前髪で隠れて瞳は見えていなかったけど……)


「何言ってるの。言いに決まってるでしょ」


「でも、灯里ちゃん、わたしのこと多分嫌ってるよね?」


「灯里はきっと学校で嫌なことでもあったのよ。ちょっと虫の居所が悪かったから茉那に当たっちゃっただけで、明日からは茉那と灯里と3人で仲良くできるようになると思うわ」


美衣子がほほえむと、茉那もホッとしたように口元を緩めた。だけど、残念ながらこの美衣子の予想は大外れとなってしまうのだった……。

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