辺境に追放された第七王子は影から王位継承権を支配する

ふぃるめる

†Prolog† 二人の主従

 大陸中央に存在するノルデンガルド王国。

 北には峻険なオプヴァルデンアルプスが聳え南にはレグリア海、更には八百万の国民を支える大陸最大の穀倉地帯を抱く。

 そんな国がレオンが第七王子として生まれたノルデンガルド王国だ。

 齢十六歳、まだまだ世間知らずなレオン、しかしその傍らには常に優秀な教育係カレリアがいた。

 これはそんな二人の主従が王位を継承するまでの物語―――――。


――――――――――――――――――――

 

 ノルデンガルド王国北方辺境領タルヴィエ州最大の都市グランジマスは人口七万人程度の小都市だが、一つの渾名あだなを持つ都市でもあった。

 その名も『王室罪人墓場ロイヤル・ボーンヤード』である。


 ノルデンガルド王国が始まって以降、王家に連なる者が死刑を免れる程度の罪を犯した際に送られる土地で、顰蹙ひんしゅくを買った文官、武官の左遷先でもあった。

 これといった主要な産業はなく強いて言うのなら林業、牧畜、鉄鉱石の採掘ぐらいだろうか。


 「カレリア〜、ここの寒さキツくない?」

 「王都に比べると相当な寒さですねー」


 散らかった執務室の暖炉の傍に二人寄り添う主従。

 第七王子レオンとその教育係であるカレリアだ。

 第七王子レオンはこの冬、タルヴィエ領主として着任してきたばかり。

 その教育係兼補佐役のカレリアも併せて左遷されてタルヴィエ送りになっていた。

 じゃあどうしてそうなったのか、事の発端は数ヶ月前に遡る。

 

 「レオン、お前には才能がある。帝王学の習熟具合も優秀と聞く。それ故にお前の教育係を変えようと思う」


 当代のノルデンガルド王アウレリウスは、愛しき我が子を自らの元へ呼び寄せるとそうのたまった。

 それが現在、彼らが『王室の罪人墓場ロイヤル・ボーンヤード』送りになった原因だった。

 教育係交代によって新たなレオンの教育係に選ばれたのは史上最年少の宰相補であるカレリアだった。

 しかしそれを快く思わないのが第一王妃テレジアであった。

 レオンはヴァーニー男爵家の令嬢に一目惚れしたアウレリウスが産ませた子供だった。

 そんなレオンに自身の産んだ第一王子をさしおいて優秀な教育係をつけることなどテレジアにとって到底、容認出来ることではなかった。

 それは勿論、ほかの王妃達にとっても同じことでテレジアは他の王妃達と図ってレオン排斥を訴えた。

 テレジアの実家であるクロンシュタット公爵家は『ノルデンガルド影の支配者』とも言われるほどの影響力を持つ家柄、さしもの国王もこれには折れるしかなくレオンを教育係のカレリアと共に北方辺境領へと送ったのだった。


 「今日で墓場生活何日目だっけ?」

 「ちょうど一ヶ月目くらいですかねぇ」

 「俺、いつになったら帰れると思う?」

 「さぁ、一生監獄暮らしじゃないですか?寒国だけに!ナンチャッテ」

 「もう低レベルなギャグを聞いても寒いって感じなくなっちゃったんだよなぁ」

 「驚く程にこの環境に順応してるじゃないですかー」


 言ってしまえばお互い出世コースから外れた者同士、似た境遇の二人は出会ってから二ヶ月程度ですっかり打ち解けていた。


 「人は環境生物って言うけどマジでそれだわ」

 「殿下もどんどん王族らしさが薄れて行きますねー」

 「寒いことを除けば最近、堅苦しい思いをしなくて済む墓場暮らしもありかなぁとかって思い始めてる」


 紅茶をズズズッと啜ったレオンは、白い雪以外に何も見えない窓を見た。


 「でもな、カレリアを中央に戻してやりたいと思っててさ」

 「私も政敵どもを蹴散らしてやりたいと思ってますよ?」

 「カレリアは才媛だから宰相に就任できれば絶対今よりいい方向に国を導けると思うんだよなぁ」

 「おだてたって何も出ませんよー?」


 カレリアはそう言いつつも嬉しそうに頬を緩めている。


 「少なくとも民草の生活は楽になるだろうし、腐った政治を正してくれるんじゃないかなって希望は持てる。それに左遷された理由の一つは俺の教育係に就任したことじゃん?」

 「一つって言うか決定打ですね。まぁ、テレジア妃からしたら私が政敵ってのもあるんでしょうけど」

 

 テレジアの実家であるクロンシュタット公爵家は保守派貴族、一方のカレリアは革新派の重鎮だった。

 どこの国でもよくあるリベラルVS保守の構図だ。


 「それとこの一週間、ここにいる武官や文官達の思いを聞き続けたんだけど、ほぼみんなが中枢にいる連中に一泡吹かせてやりたいとか返り咲きたいとか思ってるのな」


 タルヴィエ領主に就任したレオンは、よき君主たるために臣下となった者達の思いにこの一週間、耳を傾け続けていた。

 

 「そりゃあ左遷された人間のたまり場みたいなところですからね」

 「そういうわけでな、王位継承権争いが始まったら俺、王位を狙おうと思ってる。俺自身も見下してきた兄達を見返してやりたいしな」


 レオンは、なんの気負いもなくそれが当たり前のことであるかのように打ち明けた。


 「具体的にはどうやって?」

 「え、それ聞いちゃう?」

 「だって気になりますもん」


 そう言ったカレリアにレオンは申し訳なさそうな顔をした。


 「ごめん、まだ何も考えてない」

 「ですよね~。私にだって話が壮大すぎてなんのビジョンも見えないですもん」

 「そんなにスケールの大きな話か?」

 「だって辺境の小貴族が大陸でも屈指の大国の覇権を握ろうって言ってるんですよ?」


 二人して特に代わり映えの無い天井を見上げながら言った。


 「確かに言われてみればそうかもなぁ。でもさ、そうのってワクワクしないか?出来ればカレリアには手伝って欲しいんだけど?」

 

 レオンは、カレリアの手を取った。


 「私がいないと何にも出来ないんですかー?」


 ここぞとばかりに調子に乗りながら、カレリアは言った。


 「なんたってこちとら世間知らずのお坊ちゃんだからな」


 レオンは自分の境遇を茶化しながら言った。


 「そうですねぇ……私にノルデンガルドで国王の次に大きな権力をくれると誓約書を書いてくれます?」

 「お前、結構野心家だな」

 「報酬がこれくらいじゃないと労力に見合わないじゃないですか」


 何処から取り出したのかカレリアは、女性らしく可愛らしい字で『誓約書』とかかれた紙とペンをレオンの前に置いた。

 

 「仕方ないなぁ」


 苦笑いを浮かべながら署名欄にペンを走らすレオン。

 これが後世に伝説として語られる二人の物語の始まりだった。


◆❖あとがき❖◆


 どうも作者のふぃるめると申します。

 現在連載中の『謂れなき理由で領地を没収されそうなので独立してもいいですか?』https://kakuyomu.jp/works/16816927860927183119を習作として新しく本作の連載をスタートすることとしました❗

 同じ境遇の二人が成り上がっていく爽快サクセスストーリーとなっておりますのでよろしくお付き合い頂ければなぁと思います。


 ご意見、ご感想等は気軽に書いてくれると嬉しいです。

 

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