第7話 偏屈教師の話③

いままでこんな生徒はいただろうか。



教員生活25年、みんなが右を向けば左を向き、左を向けば右を見る。


俺は敢えて、そういう行動を取ってきた。


しかしそれは、ただの天邪鬼によるものではなく、一人くらいは視点が違う存在が必要だと思っていたからだ。


ただその気持ちは周囲には理解されず、俺はただの偏屈嫌われ者教師としてやってきたのだった。


だからこうして俺の考えや行動を理解し、認め、受け入れてくれた生徒など、いるはずがなかったのだ。




「お前……それ、誰が担任になっても言うんじゃないのか」


初めてそんなことを言われた俺は、素直に喜べずに咄嗟に捻くれたことを言う。


「え…と……んー…それはどうなんでしょう…もちろんそれぞれの先生に良いところはありますからね。……だけど、奥山先生にも間違いななくいいところは沢山あります。僕だけじゃなくて、他のクラスメイトもそれはわかってると思いますよ」


俺の質問に咄嗟に「あなただけです」というような答えをせず、正直に現実的なことを言ってくれる。


醍醐だけでなく他の生徒も俺を理解していると思うなどという、半ば信じがたいが信じてみたいような嬉しい言葉をくれる。


俺が長年見てみぬふりをしてきた自分のプライドと心の鉛を、どんどん暖かく溶かしていく。



俺があんなに羨み妬んで醜く嫉妬していた相手は、俺が思うよりもずっとずっと魅力があった。


その魅力を今、悔しいけど認めなければいけない。


他の先生たちのように洗脳され上手く手の平で転がされたくないと思っていたが、もうそんなことはどうでもいい。


こいつが意識的に洗脳しているのかそれともほんとに思ってくれているのかなんて、もうどうでもいい。


まるで薬物のようなその蕩ける言葉を、もっともっとと欲しがる自分が抑えられなかった。



「こんなことを言ってくれるのはお前だけだよ醍醐。ありがとう」



俺の言葉を素直に受け取ったのだろう。


醍醐はそれを聞きニッコリと優しく笑った。


俺はその笑顔すらも、自分だけに向けてくれればいいと思っていた。


他の先生、生徒、誰にも向けてほしくない。


俺にとっての理解者がこいつだけだったように、こいつにとって理解すべきなのは俺だけでいい。



そんな俺の暴走した気持ちを、こいつはどう受け止めるだろうか。


どこまで受け入れ笑ってくれるのだろうか。


気づけば俺は醍醐の後ろに回り込み、座る背後から醍醐を抱きしめていた。


「え……先生……?」


驚き動揺する醍醐が後ろを振り向いた瞬間、俺はその頬にキスをする。






「えっ!……????」



ほんの一瞬時が止まり、醍醐の目が泳ぎ半分パニックになりそうな勢いで俺の行動に驚いている。


「すまない醍醐。俺自身、今どうしてこんなことをしているのかわからない。だが、今だけこうさせてくれ……!」


俺は醍醐の手を引き椅子から下ろし、壁に背を押し付けキスをした。


「んっっ!!!」


突然の出来事に咄嗟に抵抗するが、俺の舌は容赦なく醍醐の口へと入っていく。



「っっんんっ」


苦しそうに息を繋ぐ醍醐の吐息とその声に、俺の体は本来男子生徒相手にすべきではない反応を示していた。



「すまないな醍醐。………いや、隼……。お前は、俺にとっての唯一の生徒だよ」


泣きそうな目を向け必死に逃げようとする隼の手を抑え、自分の脚で隼の脚を動かないように固める。


暴れながらも時々見せるその目には、さっきまでの言葉を後悔するような哀しい後悔を宿していた。



無理もない……


あんなに信頼してくれていたのだ。


俺は今、25年間得られなくてやっと得ることができた信頼を一瞬にして壊したのだ。


だけど、もうどうすることもできない……



やっと気づいた自分の本当の気持ちに、もう歯止めをきかせようなどとは思えなかったのだ。


「せんせい…なんでこんなこと……」


隼は涙目になりながら、俺の行動を咎めるような弱々しい声を出す。


「俺は、お前のためなら教員を辞めてもいい。今こうして…一瞬だけでもお前と繋がれるなら、その後の人生がどうなろうと後悔などしないよ」



俺の本音をぶつけると、隼は諦めたのか同情したのかわからないが、目を伏せ何も言わなくなった。


俺はそれをいい事に、隼の身体を貪り始める。


隼は思いの外、そのたびに激しく抵抗をする。


「なんでだよ隼っっ……お前、俺に同情してくれたんじゃないのか…?」


隼の耳を噛み、唇を奪い、ネクタイを外し、ブレザーを脱がす。


隼の抵抗に合いながらも、力技で無理やりその上半身を顕にすることができた。


「同情なんて、してません……僕はただ……」


目の前に現れた綺麗な上半身。


若さを見せつけるような肌に薄い色の乳首。


うっすらと割れた腹筋が余計にエロかった。



それを眺める俺の上からは、隼の哀しそうな声が降り注ぐ。



「先生には、こんなこと…してほしくなかった……」



ポロポロと涙を溢しながらそう訴える目は、本当に俺を憐れんでいるかのようだった。



俺に現れた最後の生徒。


俺を1人の教師として、人間として見てくれた唯一の生徒。


それが音を立てて無くなっていくのが、隼の顔を見ればすぐに分かる。


こいつは、俺に教師としてここに居続けてほしいからこそ止めようとしたのだろう。


話によると、駅のヤサグレ連中の時はさほど抵抗をしなかったという。


しかし俺のときには激しく抵抗したのも、きっと俺をギリギリの所で踏みとどませる為の最後のチャンスを与えてくれていたのだと思う。


だけどそれももう、無意味だ……



俺はこいつがくれた最後のチャンス、尊敬の念、信頼というものを、全て自分の手で握り潰すしかなかった。



「んんっ……」


再び入っていく俺の舌。


柔らかくてあっつい隼の唇。


ヌルヌルとした感触に混じる俺の加齢臭のような口の臭い。


こんなに若くて綺麗な少年が、俺のような50近くて汚いオッサンに汚されている……


その構図に俺は堪らなく興奮した。



「隼……」


俺は名前を呼びながら、隼の手を俺の股間に持っていく。


隼はもう、抵抗をしない。


こいつはもう、俺を止めることを諦めたのだ。



「咥えてくれ」


俺が隼の前に立ち、座っている隼の前に俺のアソコを差し出した。


隼はなかなか口に入れようとしなかった。


「前の駅の連中よりも小さくて固くなさそうか?まあ年齢が年齢だから、仕方ないだろ」


俺はそう言いながら隼の頭を押さえつけて、俺のアソコへと押し付ける。


自分の親よりも年上の男の股間に顔をつけられるのは、この上ない屈辱だろう。


それでも隼はなかなか咥えてくれない。




「隼、何やってるんだよ?」


「僕が今これをしちゃうと……ほんとに先生は……」


なんと、この期に及んで隼はまだ俺の心配をしていた。


しかし隼の気遣いとは裏腹に、そのいじらしさに俺の性欲は増すばかりであった。


「お前が誰にも話さなければ大丈夫なことだろう。…それとも誰かに話すつもりでいるのか?」


こんな質問をしている時点で、俺はもう終わりだ。


それでも後戻りできない俺とは真逆に、首を横に振って俺の言葉を否定する隼は、まだ冷静なようだった。


「なあ隼。お前、駅の奴らの前では相当エロかったらしいじゃないか。何度もイッてたんだって?その時はそれ程乱れてたのに、なんで今はそんなに冷静なんだよ。」


「え!!……そういうことまで聞いてるんですか…?」


「ああ。事情を話してくれた刑事さんが教えてくれたんだよ。本当は話しちゃいけないらしいんだがな」



俺のカミングアウトに、隼はまたショックを隠せないような表情のまま、目を伏せる。


性犯罪の際、被害者に対して捜査の一環で行き過ぎた質問をし、セカンドレイプだと言われる取り調べは世の中に沢山ある。


隼が受けた取り調べもまさにそんなものだったのだろう。


そしてきっとその刑事も、個人的な興味の元で聞いたに違いない。


俺は今なら、その刑事の気持ちがわかる。



「だから隼……俺にもそんな様子を見せてくれよ」


俺は隼をその気にさせることが先決だと思い、隼のモノを触った。


「!!先生!だめです…」


「もういいよ隼。俺はもう、今のお前だけが欲しい」


一瞬手が触れただけで過剰に反応するこいつの身体は、まるで性犯罪を誘っているかのようだった。


ベルトを外してズボンを脱がせ、パンツの上から再び触る。


「っ!!あっ……」


「手つきがいやらしいだろ?若造と違って、何年も生きてればこういう経験だって増えていくんだよ…」



意に反して反応してしまい声を上げてしまった隼は咄嗟に口を抑えるが、それでも俺の触り方に我慢ができず、アソコは素直に反応していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る