52.10年目の実験?

『ほい。今捕まえた破滅の鎧は、取り調べ能力のあるハンターキラーが引き取ってくれます』

 ファントム・ショットゲーマー、当たり前のこととして報告してくる。

 やっぱり、情報系ハンターキラーのつきあい方を知ってるね。

『そうですとも。

 ほぼ毎回が、前例がないことばかりだから。

 どうしても、そういうつながりが必要になるんです』

 その果てにどうにもならなくなって、申請されて初めて出番があるのがプロウォカトル。

 違うんだね。

『そう言うことです。

 と言うわけで、正式にプロウォカトルへ、出動を申請します。

 あちこちから、こん棒の匂いがするんです! 』

 ・・・・・・パーフェクト朱墨、と言うか、ロボルケーナ、鼻が利くんだ。

 3本指が、器用に1本だけ伸びばした。

 ゴッツイ敵の装甲を握りつぶしたり、切り裂くための指だよ。

 右手のそれをブンブン、四方八方を指した。

「ハアハア、いきなり、責任重大だね」

 安菜、息を止めてたの?

 なんだか苦しそう。

「止まってたんだよ!

 飛んだり跳ねたりのショックで! 

 ゲホゲホ」

 うわぁあ!

 気を確かにもて!

「そう思うなら」

 吠えたあと、フーウと息を整えて、話しだした。

「越権を覚悟で、言わせてもらいます。

 まずは、状況を整理しておきましょう」

 御意!

 あの黒い大蛇みたいなのが、またでたら。

 今いる4機の巨大ロボットにしか倒せないからね。

 そう言ったら、通信がきた。

『ホクシン・フォクシスの、茂 しゅうじです』

 {装備は仕様書どうりに! 作れ! }の人だ。

『まずは、安菜・・・・・・殿下? を下ろすんですか? 』

 殿下で良いんですよ。

 当然の質問だね。だけど。

「それはできません」

『なぜです?』

「安菜は貴族で、私の主君だからです」

「書類上ですけどね」と安菜が補足した。

 ・・・・・・言ってみるか。

「私や安菜みたいな子どもでも、悪者にすれば、それなりにもうかる人がいるんです」

 どこまで信じてもらえるか、わからないけど。

「そんなヤツから守るためには、こういう危険でも犯さなきゃならないんです! 」

「貧乏くじ引いてるんです」

 言うと同時についた安菜のため息は、きっと今回のつかれだけじゃない。

 ならば、私のすることは。

「今、安菜が着ている破滅の鎧は、貴族社会がある暗号世界から贈られました。

 今ここで逃げたら、今後の交渉で侮られる理由になる可能性があります」

 私の後ろで、守り抜くことだけだよね。


 地上の、破滅の鎧を捕らえた黒い球体を見た。

 ハンターキラーたちが取り囲んでる。

 取り調べてるんだ。

 

『よくわかりました。

 それでは安菜さん、期待してますよ』

 しげるさんに安菜が答える。

「いただいた励ましに答えられるよう、がんばります」

 

 また、続いてる取り調べを見てしまう。

「・・・・・・やっぱり、相手は人間なんだ」

 恐ろしい実感が、わいてきた。

「不安なの? 」

 安菜に突っ込まれてしまった。

「今まで、人間と戦ったことがない訳じゃないでしょ・・・・・・。

 イヤ、自信がわくわけでもないか・・・・・・」

 久しぶりに、安菜の自信のない声を聴いた。

 申し訳なさを感じたんだね。

 逃げ道を塞がれた気持ちになった。

 それがプラスになるかマイナスになるかは、わからないや。

「まずは、ファントム・ショットゲーマー」

 それでも、仕事をはじめよう。

 できるか、できないかじゃない。

 やるんだ! のための仕事を。

『はい。

 ファントム・ショットゲーマーです』

「ホクシン・フォクシスは、今後も一緒に動いてくれますね」

『はい。

 目立った消耗はありません』

「アーリンくん、ポルタが横滑りしていったのは、あなたが予想したとおりの現象ですか?」

『はい。

 あの横滑りは、彼らにとってのミスで間違いありません。

 現在、開いているものは4つ。

 そうちの3つは、山へ激突しました。

 もう1つは、海の方へ。

 現在、全てから破滅の鎧部隊が出現しています』

 部隊、か。

『しかし、海の方へ流れたポルタからでた部隊は、沖合いへ向かいながら部隊を海に落としていきます。

 ほかのポルタから現れた部隊も、合理的な展開をしているとは、思えません』

 なんか、腰砕け。

「トンでもないドジっ子と言うことですか・・・・・・。

 それとも、これも閻魔 文華の実験なのでしょうか? 」

 アーリンくんは、私の考えに興味を持ったみたい。

『実験・・・・・・閻魔 文華は、仮にも魔術学園の先生で、研究者でもありました。

 理由がなく、この様な事をするとは思えませんね』

 一体、彼らは何がしたいんだろう。

『ホクシン・フォクシスの、宇潮 心晴です』

 朱墨ちゃんのところの、アナライズ担当だ。

 ラポルトハテノの会議の時、異能がない人でも使える装備をまじめに作ってもらうためのデモが起こった。

 しげるさんも猛烈に怒りを見せたデモを、面白そうに撮影してた人だ。

『あの黒い大蛇を見たがぎり。

 戦闘力が強いものより、弱いものを攻撃するのに夢中のようです。

 ウイークエンダー・ラビットが砲撃して訓練場の奥へ誘導しようとした時。

 巨大ロボットには目もくれず、向かったのは消防部隊でした』

「それって、弱いものイジメをするために、ここへ来たということですか!? 」

『その可能性も、ありますね』

 いじめ、実験。

 そんなことのために、この訓練大会は、つぶされたの?!

 身体中の血が、カッと熱くなる。

 そして街も、人も危険にさらされてるわけ!?


「市民や避難訓練部隊の避難については、私が」

 安菜が。

「市民の避難は、事前の計画通りに行われています。

 訓練部隊は、市街地を通ると市民の邪魔になるため、山の方に逃げています」

 はーちゃんがいなくても、情報はちゃんと見てたんだ。

 

 そのとき、安菜の席から着信音がした。

「今、捕虜を尋問していたチームから報告がきました。

 どうやら破滅の鎧たちは自らを、こん棒エンジェルスと名乗ってるそうです」

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