39.第10回百万山&太刀山防災総合訓練及び MCO協力者合同訓練

 そういえば、ボルケーナ先輩がだれかを悪く言うのって、珍しいかったな。

 あのお人好しが。

 

 そういえば、が出ちゃったな。

 ・・・・・・今、この状況はイヤなことなのかな。

 たしかに、「やって来ました! 百万山!」、みたいな高揚感はない。

 あるのは、緊張と、怖さと・・・・・・。

 灰色のパイロットスーツに、汗の匂いがこもってる。

 ・・・・・・あの会議から3週間。

 臨時 暗号世界&MCO国際会議の頃から、変わってないや。

 これからも変わらないのかな。

 それは、ヤだな。


『降下、3分前』

 機長、お父さんの声だ。

 今の私の視界には、ヘルメットにのったモニターが写す、金属の床。

 今私は、ウイークエンダー・ラビットに乗って、プロウォカトルが誇る巨大輸送機、雷切で運ばれている。

 時間だ。

 おまじない。

「祈りを捧げます。

 天にまします我らの父よ。

 願わくば御名をあがめさせたまえ。

 御国を来たせ給え。

 御心の天なる如く、地にもなさせたまえ。

 また、この防災関係者とMCO関係者たちが無事、職務を全うすることを導きたまえ。

 良きことをするための力と知恵と勇気を授けたまえ。

 この日の終わりにはあなたに遣える防災関係者とMCO関係者たちをここにお戻しください。

 どうぞ、この祈りを聞き入れたまえ。

 アーメン。

 神はあなた方とともにある」

『アーメン』

『アーメン』

 お父さんとお母さん。

 元気はいいね。

『アーメン。ブロッサム・ニンジャ、感度良好』

 妹の、しのぶから。

『アーメン。ディメイション・フルムーン、オンライン』

 弟の、みづきから。

 通信に問題なし。

 2人はあんまり、信じてない感じ。

「・・・・・・アーメン」

 最後は、私のすぐ後ろから聞こえた。

 安菜がいる。

 私の席の後ろに、急いでつくった席がある。

 アイツが今着ているのは、破滅の鎧だよ。

 ただし、あの全身の角はない。

 今の鎧は、木目もようの丸い節々を持つ、太いスーツ。

 あの角は、ボルケーナ先輩と魂呼さんが「ム~ン」と念じて手でこねたら、丸くおさまった。

 ・・・・・・異能力って、スゴいな。

 それを着てる安菜が、神さまを一番信じてるはず。

 私はゲキを飛ばす。

「いい? 今日、空挺降下をするのは私たちだけ!

 ヘリコプターも飛ばない!

 だけど私たちは飛べる!

 嵐にだって勝てる!

 それがスーパーロボットなんだよ!」

 ・・・・・・無線的には無音のはず。

 だけど、キョトンとしてる雰囲気が伝わる!

「あんたらしくないね」

 安菜に笑われた。

「あんたとおなじにね。

 私だってたまには、カッコつけたいんだよ」

 聞こえる声は、まあまあ落ち着いてると思えた。

 で、ありますように。


『降下、30秒前』

 お父さんの声とともに、雷切の底が開いていく。

 雲で弱まった日の光。

 前、ここが開いたときは、背の低いまばらな木。

 ところどころに残った雪と、花をちりばめた草原が見えた。

 むき出しの地面は、火山らしいゴツゴツした岩はだ。

 夏の高山ならではの光景が、すぐ近くにあった。

 だけど今は、はるか下まで雨つぶだよ。

 場所はおなじ、日本の3大霊山の一つにも数えられる百万山。

 今日は大雨で荒れている。

 ワイヤーで降下されるウイークエンダー・ラビット。

 赤い角張った装甲。

 太い、人間とは逆に曲がるヒザ。

『降下、10秒前』

 モニターのかたすみで、進むカウントダウン。

「3、2、1。降下、降下、降下!」

 ワイヤーを解除する。

 ウイークエンダーが落下する。

 腹ばいの体制になる。

 両腕を広げる。

 前はなかった新装備、赤いスカート。

 炭素繊維の翼。

 忘れずに広げ、空気のブレーキをかける!

 このスカートが、姿勢制御をしてくれる。

 さらに、ヘリコプターみたいな羽が内蔵されている。

 ウイークエンダーを動かす無限炉心から、強烈な電力が飛行能力を与えてくれる。

 おなじものが、ブロッサム・ニンジャとディメイション・フルムーンももってる。

 雨をおいぬく。

 地表が近づく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る