33.それでも

「真脇 達美さま、スラッグヴォンズのあとで出現した怪獣の軌道を映してください。

 大陸を横断するような、長距離を移動したものをお願いします」

「はい、切り替えます」

 緞帳が世界全体の地図にかわる。

 時間ごとに増える、赤い点。

 それは決して多くない。

 人間たちの攻撃を耐えきるのは、それなりに難しいからね。

 それでも、増えてる。

 伸びる赤い線も。

「ご覧のとおり。人間からの攻撃を振り切りながら、ユーラシア大陸で大きく移動してます」

 アーリンくん言う通り。

 そして大陸の東側、中国やロシアの接し合ってるあたりで、集まっている。

 今でも倒せていないのもいる。

「単純に、ロシアの国土のほとんどが人間の少ない地域だから、移動に支障がない。

 そういう説もありました。

 しかし、アフリカや南アメリカ、オーストラリアといった地球の反対側のようなところからも怪獣は向かっているのです! 」 

 そう、その通り。

 興奮するアーリンくんは、このことについて長い間考え続け、それを思いきり発表できることがうれしいみたいだ。

 ……うれしいみたい?

 違う。

 恐れ?

 何か、怖いところへ向かう人?

 私が怪獣に立ち向かうたびに感じていたことを、彼も同じように感じてる気がする。

 それでも語り続ける、彼の精神力はすごい。

「ご存じとは思いますが。

 怪獣が出現する理由の一つは、人間の持つ巨大なもの、力に反応するものだと言われています。

 巨大なビルは、ライバル怪獣に見える。

 発電所のような、エネルギーの発生源も。

 そして、殺意。

 怪獣を最も出現させる原因は、核兵器やそれに匹敵する大量破壊兵器の発明が最も多いのです。

 ああっ、個人で同じようなことを行う魔法もありました」

 そこまで言うと、一息ついた。

 そして、語りだす。

「怪獣は本来、一度食事をとれば、何百年、何万年でも眠り続けることができます。

 それだけ巨大な力を吸収するから。

 しかも、それを手に入れるのは容易ではありません。

 力を手に入れるためには、それだけ広大な縄張りも必要になります。

 大陸の端から端まで、のような。

 同種族でも、環境の違いで姿かたちが異なることもあります。

 生まれるときに、能力を選択できるからです」

 そう。

 怪獣の中には、明らかに体の一部がよく似ていて、またある部分がとても違う者がいる。

 生命の神秘、だね。

 それで?

 私は待った。

 彼の望みを聴くことを。

 彼の決断が恐れるべきものなのかどうか。

 私自身がどう反応するかもわからない、不安とともに。

「怪獣が一か所に集まる。

 それは、異常事態なのです。

 ですが、この世界ではそれを、「暗号世界のようだ」と称しています。

 僕にはそれが許せません! 」

 やっぱり?

 本当は、暗号世界と言う言葉も嫌ってるんだね。

 私たちの世界から隠れて、何しているかわからない不気味な世界。

 そういう見方から生まれた言葉だから。

 くやしさがわき上がる。

 そういう人たちを止められなかった、仲良くするチャンスを失わせたから。

 その責任が私にはある。

 でも、今は口にださない。

 それが約束だから。

「僕は、大陸を自分の目で見るためにとびたちました。

 地球の言う、暗号世界の姿がそこにあると思ったから。

 もしもそのような世界を見捨てるような地球だったら、大陸でそれが現れると思ったのです! 」

 それが、彼の本気なんだ。

 今の言葉に込められた力と心は、その本気のためにためられたものなんだ。

「しかし……」

 アーリンくんが目を向けたのは、そばに立つ2人の店員。

「真脇 達美さまと鷲矢 武志さまに止められました」

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