21.殿様気分カフェ・グロリオススメ

 私!

 真っ直ぐ立つ!

 お腹とアゴを引っ込める!

 胸を上げて肩を落として!

 ツムジから天井へ糸がピーンと引っ張るイメージ!!

 ……もう少し、ふんぞり返ってみよう。

 大きな鏡の中の私は、おおっ悪役令嬢っぽい。

 あっハハハ。カッコいい?

『それ、話を聞く対象の前ではやめなさいよ』

 着付けを手伝ってくれた、お母さんが冷たく突っ込んだ。

「こんなの、勢いづけだよ」

『なら、いいけど』


 今の私は、鮮やかなブルー。

 市松模様の振り袖。

 首元の襟に、白いレース。黒い蝶リボンをつけて。

 シミ一つない麦わら帽子には、黒いリボンと白い大きな花。

 髪は一房残して、まとめて帽子の中へ。

 帽子をとるとサラ~と流れ落ちるように。

 黒に流れるような白模様の帯を締めて。

 日傘っと。全体にレースをあしらった白。

 バッグも、同じような華やかさ。

 和洋折衷の昭和初期ロマン風が、我が家のスタイルなんだ。

 ゲタを履いたら。

「行ってきます!」


 運転手さんに言った準備時間は、5分オーバーした。

 ごめんなさい。

 

 薄暗い峠をいそいで下りて、西側の海へ。

 そして海沿いをはしる。

 湾になってる東側とちがい、広い日本海をわたった波が、激しく打ち寄せる。

 風も強い。

 天候が激しくて道が封鎖になるなんて、しょっちゅうだよ。

 そう言えば、冬には波の花が舞う。

 波の花ってのは?

 え~と、海中には植物プランクトンが、小さな植物がいるのね。

 それが冬の荒波にもまれて潰されて、ネバネバの液をだす。

 それが海水と混じって泡になり、風に舞うの。

 全国的には、珍しい冬の風物詩だけど、汚くて臭いだけに思えるよ。

 カプチーノみたい、とよく言われるけど、美味しそうに見えないよ。

 

 ・・・・・・また、そう言えば、がでた!

 それだけ緊張してるのかな。

 グネグネの道を猛スピードで進んでるのも、あるかな。

 

 道がグネグネなのは、真っ直ぐ通せなかったから。

 鋭くきりたった崖や岩場だらけの海岸線だからだよ。

 荒々しい波風に、何万年も削られてきたからだよ。

 所々の平地に、家々がぎゅうぎゅうづめになって町を作ってる。

 窓からの灯りが目立つようになった。

 でも、すぐ抜けて闇にはいる。

 もう夜だ。


 崖の向こうに、ひときわ明るい場所が見え隠れしてきた。

 隣の市の中心部、じゃない。

 港があって、停泊するペネトの灯りがみえる。

 そして陸には、ペネトに負けないくらい目立つ建物があるの。

 高さと幅は60メートル、長さは200メートルはある。

 あの灰色の建物がポルタ社本社。

 もとはプロウォカトルの整備工場だったのを、売ったの。

 今でも、ウイークエンダーたちの整備はあそこでやってる。

 裏山には戦闘機やヘリコプターのための空港もある。

 きりたった崖をもつ、平らな山の上に。

 私が向かうのは、そっち。

 空港のターミナルビル。その最上階。

 殿様気分カフェ、グロリオススメ。

 ラテン語の輝かしい、グロリオサスと、日本語のオススメを合わせた造語だよ。


 ポルタ社って、ボルケーナ先輩はいるし、武器は強いし。

 私たちへのコネは強いし。

 暗号世界の人には怖がられる対象なんだ。

 そんなポルタ社を殿様気分で見てもらおう。そうすれば気分よくなってもらえるだろう。と言うのが、あのカフェなの。

 華やかに飾られた空間で、美味しいお菓子とお茶、コーヒー。

 そして崖の上、ビルの上からポルタ社本社を見下ろす。

 ショーステージもある、シャイニー☆シャウツのコンセプトカフェ、コンカフェでもあるの。

 

 良かった。

 約束の時間どうりについた。

 と思ったら、自動ドアが開いた。

 私に関係なく。

「待ってたよ」

 そこにいたのは、赤い瞳の女の子。

 制服の赤い着物に白い帯をしめて。

 左肩に、房に小さな花を並べた藤の花穂を、白く刺繍している。

 短く刈りこんだ髪も赤い。

 そして、頭からネコの耳がピンと立っている。はずなのに。

「少しだけ、話を聞いてちょうだい」

 今日の耳は、ペタンと下りている。

 飛行機の羽みたい。

 ネコが不機嫌なときに見せる習慣だよ。 

 手をつかまれた。

 薄い皮膚と脂肪の感覚。

 それを支える骨と間接は、固い金属の感覚。

 見た目どうりじゃない、破壊力を秘めたサイボーグ。

 生き物と、この場合ネコと機械が合わさった存在。

 真脇 達美さん。

 私たちシャイニー☆シャウツのリーダーで、グロリオススメのオーナー。

 幼なじみと言っていい、長い付き合いの先輩。

「プロウォカトルの仕事は、ハンターキラーの監督でしょ」

 達美さんは、真剣な表情。

「そうですが。

 あの、アーリンくんが、どうかしたんですか?」

 私たちは近くのベンチに座った。

「今、店にいるの。

 とんでもなく落ち込んでる」

 そのとき、ハタと気がついた。

 長い付き合いになるけど、こんな頼まれ方は始めて。

 未知なる状況に、震えが走る。

 どドッ、どうか、恐ろしいことが起こりませんように!

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