第39話
太陽がキラキラと海辺に反射していて、眩い日差しに薄らと目を細める。車を走らせて1時間ほどの場所に、何度か訪れた事があるリリ奈の別荘はあった。
ここら一帯が桃宮家のプライベートビーチなため、白い砂浜には誰一人いない。
ゆったりとした雰囲気が流れるこの場所は、蘭子もお気に入りだった。一番最初に車から降りたひなは、嬉しそうにはしゃいでいる。
「すごい!こんなに綺麗に海が見えるなんて…!」
「のんびりしましょう。部屋はそれぞれ一室ずつ使ってちょうだい」
以前泊まりに来た時は、広めの部屋でリリ奈と共に眠りについたのだ。わざわざ個室を用意するということは、恐らくこちらに配慮をしてくれたのだろう。
付き合いたての二人が、同じ部屋で寝泊まりをするのは緊張してしまうと思ったのかもしれない。
各自部屋に荷物を置いてから、水着に着替えてプライベートビーチに向かっていた。
ビキニタイプの水着は、腰元にフェイクリボンが付いていて、そこが蘭子のお気に入りだ。
胸元もしっかり隠れるオフショルタイプで、水着を選んでいる最中は律に可愛いと言ってもらいたい一心だった。
左脇腹には小さな黒子があって、水着なため当然丸見えになってしまう。
可愛らしいデザインの水着は蘭子のトレードマークであるツインテールに合っていて、自信を持って砂浜へと降り立つ。
「よし」
持って来ていたタオルと浮き輪をサイドチェアに置いてから、しっかりと準備運動をする。
プライベートビーチなため、当然他には誰もおらず貸し切り状態だ。
パラソルはリリ奈の使用人が準備をしてくれたらしく、日陰を利用しながら恋人の到着を待っていた。
「律は?」
「まだ着替えてるっぽいわね」
既に律以外の3人は身支度を済ませているため、ビーチボールをしながら彼女が到着するのを待っていた。
砂場に足を取られる運動は慣れなくて、普段の何倍も体力を消費してしまう。
あっという間に息を乱していれば、黒色の水着を纏った蘭子の恋人がようやく到着した。
「ごめん、着替えに時間掛かっちゃって…」
色白い肌に、黒色のワンショル型水着が良く似合っていた。
すらっと長い足もとても綺麗で、可愛らしい恋人の水着姿をじっと見つめてしまう。
その姿を目に焼き付けたい所だが、あまりジロジロと見て、引かれるのが嫌でサッと目を逸らしていた。
「日差し強い……暑いし、まず泳ぐ?」
「そうね……ところでひなちゃんと筒井さんって泳げるの?」
自信満々に頷くひなとは対照的に、律は中々首を縦に振ろうとしなかった。
もしやとある可能性が思い浮かんで、そっと尋ねる。
「もしかして泳げない?」
酷く申し訳なさそうに頷く姿がいじらしくて、つい笑みを溢してしまう。
泳げないと言って水を差してしまうと思ったのかもしれないが、それくらい誰も気にしないというのに。
何でもできる彼女の意外な弱点を知れて、寧ろ嬉しくなってしまうのだ。
「浅瀬の方で遊ぼっか」
手を伸ばせば、ギュッと握り返してくれる。
すぐにリリ奈達の存在を思い出すが、二人は既に海へと向かっていた。
僅かな間だけ恋人と手を繋いでから、足首を海に付ける。ひんやりと涼しいわけではないけれど、散々太陽に晒されていたおかげか心地良かった。
「さっきまでビーチボールしてたんだけど、律もやる?」
「やる!」
2人1組に別れてから、チーム戦で対決をする。皆運動神経は悪い方ではないため、中々に白熱した試合が繰り広げられていた。
「ボールそっち行ったよ!」
「ええ、ちょっと待って…!」
リリ奈とひなの2人は中々に連携が取れていて、蘭子と律チームはあっさりと負かされてしまう。
勝利チームには二つしかない浮き輪が与えられて、心地良さそうにぷかぷかと癒されているようだった。
「負けちゃったね……」
「良いじゃん、座ってるだけでも」
ギュッと手を握りながら、彼女は負けたことをちっとも気にしていないようだった。
「……浮き輪ですっかりリラックスしてるから、2人ともこっち見てないよ」
「…もしかしてわざと負けた…?」
「どうだろうね」
肩をピタリとくっつけ合いながら、後ろでは隠すように手を握り合っている。
バレないように彼女と密着している背徳感に、いつにも増してドキドキしてしまっていた。
「……おかしいと思ったよ。律があんなミスするわけないから」
運動神経が良いはずの律が、ビーチボールをとことん拾えなかったのだ。
最初から戦利品である浮き輪には毛頭興味がなくて、きっとこの状況を作り出す事が目的だったのだろう。
頭の良い彼女らしい作戦だと思いながら、手のひらから伝わる温もりを噛み締めていた。
海から上がった御一行は、浜辺にてバーベキューを楽しんでいた。グリルで焼いたお肉はあまりに美味しくて、つい次々と口に運んでしまう。
腹ごしらえをしながら、やはり今日は楽しい女4人旅なのだと実感していた。
こまめにスキンシップは取られるけれど、先ほどから性的な意図はちっとも感じられない。
期待していた自分を恥ずかしく思いながら、4人で楽しもうと意識をシフトさせる。
日が暮れる頃にはすっかりと体力も消費してしまっていて、蘭子はサイドチェアに腰掛けていた。リリ奈とひなはまだまだ遊び足りないらしく、夕暮れの日差しに照らされながら水遊びをしている。
「元気だね、あの2人」
「律はもう良いの?」
「蘭子こそ」
2人でベンチに座りながら、オレンジ色の光に照らされた海を眺める。
ジッと前を見据えながら、愛おしい恋人と会話をしていた。
「行かなくて良いの?私に合わせてない?」
「私も疲れちゃったし……それに律といたいから」
何気ない言葉への返事は、手の甲に伝わる温もりだった。続いて海水で濡れてしまった髪の毛に触れられて、視線を海から律へと移す。
水分で巻き髪は取れてしまっているため、珍しく真っ直ぐなツインテールになってしまっていた。
「……今日の夜、蘭子の部屋に行って良い?」
「良いけど……」
手を取られて、そのまま手の甲にキスを落とされる。
「……水着、本当に可愛い」
吐息混じりで囁かれた言葉に、一気に心拍数が加速する。まるでこちらに対して欲望を向けているかのように、彼女の瞳には熱が宿っていた。
まさか彼女も同じつもりだったのかと、瞳に囚われながらゴクリと生唾を飲んでしまうのだ。
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