第7話

両親の顔を見たオリバーは、面白いほどに顔色を失っていった。自分のした事がバレないとでも思っていたのだろうか。もしくは彼らが自分の味方になってくれるとでも期待していたのか。うろうろと視線をさ迷わせて周りを伺い見るが、自分を助けてくれそうな様子の者は1人も居ない。

冷たい視線が突き刺さる中、震える声で両親に言い訳をしようとする。



「ち、父上、母上……」

「このっ……バカ息子がッ!!!!!!!!!!」


少しは自分の言い分を信じて庇ってくれるのではないかという淡い期待も虚しく、侯爵の怒声がホールに響き渡る。



「婚約者でなく、そこの女に貢いでいただと……!?何を考えている!それに先程から見ていればアリシア嬢に対してその高圧的な態度……。そもそもお前は公爵家に入れて頂く立場だということを忘れているのではあるまいな!?」

「それに、自分のお金ですって……?今の私達の生活があるのは資金繰りに困って爵位返上待ったなしの状態だった私達にツェローラ公爵家が莫大な金額の融資をして下さったお陰なのよ……!それなのにあなたは……!」


真っ青な顔で侯爵に掴まり、やっとの思いで立っていた侯爵夫人も堪らず声を上げる。



「お茶会でアリシアさんから何一つ贈り物を貰っていないと聞いた時は信じられない気持ちでいっぱいだったわ……!あぁ、でももう名前で呼ぶことは出来なくなるのですね……。ツェローラ公爵令嬢。わたくしは、畏れ多くも貴女の事を実の娘のように思っておりました。息子と結婚してくれたらどんなに素晴らしいことかと思っておりましたのに……このような事になってしまい申し訳ございません。」

「いいえ、頭をあげてください!お二人には良くして頂きましたから。」


目に涙を溜めて深深と頭を下げる侯爵夫妻にアリシアは慌てて声をかける。確かにオリバーには酷い扱いを受けたが、2人に蔑ろにされた訳では無いのだ。



「お気遣いありがとうございます。ですが、息子の愚行には私達にも責任がございます。私達の教育が悪かったようです。」

「家を売ってでも爵位を返上してでもお金を作って今まで融通して頂いた全ての金額を必ず返済致します。」

「は!?爵位を返上!?何をおっしゃるのですか父上!?」


夫人に続き頭を下げた侯爵にオリバーは素っ頓狂な声を出した。しかし、今の発言で会場中が一気にざわめき立つ。現在、この国では王家の下に公爵家は現国王の実の弟が当主を務めるツェローラ公爵家――アリシアの実家だ――ただひとつのみである為、侯爵家――これはいくつか存在するが――が王家の血を引く者以外での最上級貴族となる。そんな彼が爵位を返上するかもしれない。これは国を揺るがす大ニュースとなる。



「ツェローラ公爵令嬢。」


一連の流れを静かに見守っていた国王がおもむろにアリシアに声を掛けた。

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