第5話

「こちらの台詞、とは?」

「そのままの意味よ。ここは学園なの。学園の規則では身分に関わりなく平等に接するようにという項目があるじゃない。偉そうに私に説教してたけどルールを破ってるのはあなたの方よ恥ずかしいわねぇ?」


まるで水を得た魚のようだ。ケタケタと下品な笑い声をあげている。

確かに学園には身分に関わりなく平等に接するようにという規則がある。しかしそれは無礼を許すためのものではなく、身分の高い者がその身分を盾に身分の低い者をこき使ったり理不尽な要求をするのを防ぐ為である。第一、校舎が別れているのだ。その位言われずとも分かりそうなものだが。

とはいえ、メアリーは大切なことを忘れているようだ。



「確かに貴女の言う通り、そのような規則が学園には存在します。ですが。貴女、お忘れなのではなくて?ここは公共の場。学園のルールではなく、国内の法律が適用されるのは当然でしょう。さらに言えば私達はつい先程学園を卒業した身では無いですか。」



そう。今執り行われているのは卒業パーティー。有り体に言えば、二次会のようなものだ。つまり、彼女らはもはや学園の生徒では無い。


鼻息荒く、自信満々だったメアリーの顔がアリシアの言葉と共に段々と強ばっていく。

だが、彼女はここで引き下がるつもりは無いようであった。



「っで、でもっ!貴女が」

「ツェローラ公爵令嬢」

「……っ!ツェローラ公爵令嬢があたしをいじめたのは本当のことじゃない!話題を変えて話を逸らそうったってそうはいかないわ!」


話は振り出しに戻る。

いや、始まってすらいなかったのか。



「その事ですが。ええと……、私が貴女に集団で悪口を言った。持ち物を隠したり壊したりした。それから、ドレスを汚された、でしたっけ?」

「ええそうよ!言い逃れしようなんて思わない事ね!」

「それなら僕が証人だ!彼女の破かれたノートや教科書、切り裂かれた鞄や靴にドロドロに汚れたドレスも見ている!」


しばらく2人のやり取りの成り行きを見守ることしか出来なかったオリバーが割って入って来た。

意気揚々と話す割には物証がある訳でもなく、目撃証言、それも当事者の物という証拠と言えるのかすら曖昧な代物しか出せていない。


「そのようなものが証拠と言えると本気でお思いで?まぁ、それはさておき。では私がそれをする動機は何でしょう?」

「それはアリ……ツェローラ公爵令嬢が僕の事が好きだから……」


まだそんな事を思っている、いや、思い込みたいのだろうか。


「先程も申しましたがそれは有り得ません。」

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