【本編完結】悲劇のヒロインぶっているみたいですけれど、よく周りをご覧になって?

珊瑚

本編

第1話

豪華絢爛に飾り付けられたホールでは美しく着飾ったうら若い男女が談笑したり踊ったりと、各々自由に楽しんでいた。今日は学園の卒業パーティーだったのだ。公爵家の令嬢であるアリシアも今日は主役である卒業生の1人。友人である令嬢数人と談笑していると、突然それは起こった。



「アリシア・ツェローラ!君には失望したよ。婚約破棄させてもらう!!!」


何やらこちらを指さしながら大声で喚き立てている男が。彼はオリバー・マーシャル侯爵令息。アリシアの婚約者で侯爵家の次男だ。正式な手続きが必要とはいえ、たった今婚約破棄を宣言した上、彼女にはそれを止める意思もないのだから、『元』か。



「私は、アリシアさんに虐められたんですっ!」


彼の腕にはピンクブロンドの髪をした少女がぶら下がっている。こちらは確か、ポーラ男爵令嬢。オリバーには婚約者がいるにも関わらず2人がよく一緒にいるのは有名な話だ。


婚約破棄は喜んで受け入れよう。そもそもアリシアはこの婚約に乗り気ではなかったのだ。


アリシアの実家であるツェローラ公爵家には子供はアリシアだけだった。故に、公爵家に入ろうと婚約を申し込んでくる令息は後を絶たなかった。しかし、丁度いい年齢の人がいなかった。そんな中、オリバーの実家であるマーシャル侯爵家は、ここ最近商売で成功し、莫大な財産を築いた。そこで家格でも資金面でも条件の良く、さらに次男であり、年齢も同じであったオリバーと婚約する事になったのだ。幸運にもマーシャル侯爵、侯爵夫人はアリシアにとても良くしてくれたのだが、なにせ当のオリバーの女癖や浪費癖が酷い。

その上、何度それを指摘しようとも自分の勝手だろうと辞めようともしないのだ。当然、嫌気がさしてくる。


今声高に叫んだメアリーもその1人だ。ただ、今回少し違ったのはオリバーが本気で彼女に惚れ込んだという所か。彼女と行動を共にするようになってから女癖の悪さはぱったりと直ったのだ。関係を持っていた市井の女性達との関係をきっぱりと終わらせ、彼女1人に尽くした。これだけを聞けばいい話に聞こえるかもしれないが――いや、聞こえるわけがない。彼には婚約者がいるのだ。

それに、直ったのは女癖だけだ。浪費癖が直った訳では無い。


実家のお金なのだから好きにさせろとよく彼は言うが、何も理由なく口煩く言っている訳では無い。彼の家が商売で成功する事が出来たのはツェローラ公爵家の投資のお陰なのだ。彼の両親はそれを良く理解している為彼女にとても良くしてくれるが、オリバーはそれを何一つ分かっていない。


あけすけに言えば彼は阿呆なのだ。だから、アリシアは彼との関係を切りたい。

だが、自分に汚名を着せられたまま黙っているほど寛容ではない。

アリシアは反撃に出る事にした。

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