五日目:「線香花火」『線香花火だった』

 ぱちぱちと音を立て、静かになって落ちる。

 人生の終わりのようだった。

 


 潮時だという自覚があったので、どのコミュニティからも離れた。

 最後にこうして誰もいない公園で一人、線香花火をやっている。

 引退するには若すぎるが、引退をしたのだ。

 日に日に物価は上がり、出ていく金が多くなる。

 収入より支出の方が多くて、やがて来る終わりに怯える。

 そんな日々が嫌になって、引退することにした。

 何を?

 「線香花火」を。

 生まれて、燃えて、静かになって、落ちる。それが「線香花火」。

 燃えた時期なんてあったっけ、と考える。

 あったのかもしれない。例えば学生時代とか?

 さあ。

 いずれにせよ、俺は多くを背負いすぎたのだと思う。

 同じものを背負った奴等はことごとくいなくなった。耐えられなかったのだろう。

 遠くにいる■は幸せに暮らしているらしい。罪を忘れているらしい。

 愚かだ。

 俺が愚かなのかもしれないし、■が愚かなのかもしれない。

 きっと何もかも愚かだったのだ。

 今更取り返しもつかない。

 花火はぱちぱちと燃える。

 色々なことを思い出す。

 雪、海、山、太陽。

 それらは全て、過去のことだ。

 ここには生ぬるい夜とバケツと、燃える線香花火しかない。

 何もかもが遠くて、別の人間の記憶のようだ。

 それでも「終わり」は来るのだから、そのように。

 最後の花火が尽きたら、引退しよう。

 また、火をつける。

 花火は燃える。

 涙も出ない。

 どこでどう間違えたのか、いくら考えても答えは出ないし、それなら考えない方がずっとましだったのだろう。

 明日の世界に俺はいない。

 線香花火だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る