【習作】チート牛頭鬼が行く

健康中毒

第1話 どういうことだってばよ?

「はて、ここはどこだろう」




 俺の名前は美濃太郎(みの たろう)。平成生まれで「太郎」は無いよなあ。

 親を恨むのは定番のルーティーン。


 いつもの終電、吊り革を確保して目を閉じる。

 こんな姿勢でほんの十数分睡眠取ってもわりとすっきりするもんだ。




 吊り革が切れた?

 握っている手が支えを失い自由落下を始める。そのおかしな感覚で目が覚めた。


 どすん!と重い音を立てて地面から跳ね返ったのはビジネスバッグぐらいの刃がついた大斧。柄は自分が握っている?

 吊り革の手すりを握っていた感覚がそのまま続いている。


 そしてどうやら森の中だ。陽も差している。

 風が心地良い。空気がおいしい。

 木漏れ日の中に居る、ということは太陽が出てる昼時間。



「・・・どういうことだってばよ?」


 ついつぶやいてしまう。

 その呟きは言葉にならず、獣の唸り声のように自分の耳に伝わった。


 それを聞いて、まわりの人たち十数人が蜘蛛の子を散らすようにばらばらに散っていった。




 おかしい。

 逃げていった全員、身長1~1.2mぐらいの園児か小学1年生に見えた。



 入れ替わるように、10人ほどの鎧を着たちびっ子たちが俺の前に列を構えた。


 そろそろ現実逃避をやめよう。

 どう見ても成人男子です。

 俺のほうが変なんです。目線の高さから言って2.5~3mぐらいでしょうか。


 大斧というのか長斧というのか、柄の長い斧はそれなりの重量ありそうだけど軽々と取り回せる。

 頭の上で軽く一周廻して正眼に構える。


 それが合図になったのかは知らないけど、武装集団から火の玉が飛んできた。

 ソフトボールくらいの大きさのが120km/hぐらい?

 斧の刃を盾がわりにコツンと当て、前方に落とす。

 運動なんて高校出てからろくにやってないけど、バントヒットぐらいはね。


 武装集団がざわつく。

 最前線で体全体隠すような大盾を構えている3人に向かう。

 わりと全力で踏み込んで、真ん中の盾の人に蹴りをぶちかます。


 15mぐらいは距離開いてたと思うけど、自分でもびっくりするぐらい早かった。

 2歩? 体が大きくなったことを差し置いても、完全に自分の間合いでした。


 まっすぐ蹴り飛ばし、さっきファイヤーボール(?)撃ってきた指揮官ぽいのを巻き込む狙いはうまくいった。



 ここで暴れてもふつうに勝てそうだったけど、状況が分からないから彼らが敵にまわしていい存在なのかもわからない。




 一度撤退しましょうそうしましょう。


 武装集団から離れるように、彼らが来た方向とは反対に向かう。

 少し走ったけど追いかけてくる様子も無いし、走るのをやめて歩くことにする。


 落ち着いて今の状況を確認しておきましょう。


 持ち物は柄の長い大斧。以上。

 服は、鎖で編んだ腰巻きの上に、金属板を並べたのを巻きつけている。

 もちろん板を無神経に並べてるだけじゃなく、動きを邪魔しないようにタセットの形状は考えられてる、と思う。


 タイトスカートの上にフレアスカート履いてる、みたいな感じだろうか。

 股下をガードする感じが皆無、ぱんつ履かずにひざ上スカートだけで外出するとこういう気分を味わえるのだろう、やったことないから知らないけど。


 身長たぶん3m弱。手の甲から腕には人間のものじゃない、犬とか動物系の密度で細かく固い毛がみっちり生えている。

 胸部から腹部は毛が無いが、背中は毛が生えてる模様。


 足も膝下は毛。裸足。

 地面の感触は伝わり、石とか踏んでも痛くない。




 まいったね。


 クセで頭を掻く。イヤな感触。

 耳の位置も少し高い気がするが、その耳の上に控えめながら御立派様が。


 本格的に人間辞めてるみたい。



 まいったね、いやほんと。

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