第39話 絶望と失望

――目の前に山積みにされたそれは、もう既に死に絶えているが分かるほどに地は赤く染まっていた――


 思考がまとまらず、気づいた時には外へ飛び出していた。


どうして


何で


誰が


それしか考えられないほどに頭の中は酷く困惑していた。


 見知った顔の並ぶその手前で膝を突き泣き崩れるアイン

声にならず、嗚咽だけを漏らすその姿にヒソヒソと人々が集まってくる。


誰も近付いてこない。


声もかけようとはしない。


それでも、遠くから蹄の音と警笛が聞こえてくる。


「アイン様……これは……」


声のした方を振り返ると、昨日手合わせをしたばかりのヴァールハイトの姿があった。


「ヴァール、ハイト……」


ようやく口から溢れた言葉はただそれだけで

それ以外の言葉を紡ぐ事は出来なかった。


何を紡げば良いのかも分からなかった。


「……皆は周辺状況の把握と医師団の派遣要請を。アイン様はこちらへ来て頂けますか」


ウマから降り、アインの横で片膝を着くヴァールハイト。


アインをその死体の山から少しだけ離すように

ヴァールハイトはアインの後方を指定した。


「アイン様が目が覚めた時にはもうこうなっていた……という事ですか?」


アインは思い出せる範囲で、言葉に出来る範囲でヴァールハイトに事の顛末を話した。


そうして、アイン以外の騎士が死亡したこの不可思議な遠征は解決しないまま

アインはブレイク領へ戻る事になった。


事件を解決出来ない無能なヴァールハイト領の騎士を責める者はいないが

なぜ1人だけ生き残っているのかと、アインを責める声が響いていた。


 それは、ブレイク領に戻ってからもそうだった。


アインに向けられる視線は冷ややかなもので、声を掛けてくる者の態度も腫れ物に触るようだった。


唯一、気掛かりだったのは


アイン以外の騎士が死亡していること、それに加えてアインがその騎士を殺した罪を

通りすがりの旅人に擦り付けたのだという噂が立っている事だった。


アインは、自身が無実であることを証明出来る状態ではなかった。


「どうせ、誰も信じないのだろう」


1人呟く言葉は誰にも届かない。

自身が無実である事は1番分かっているけれど、それを証明する手立てがない。


自身を信じてくれる騎士たちは、全て失ったのだから。


「お兄様が騎士を殺したとでも言うのですか!」


静寂が支配する廊下に凛とした声が響く。


「エドナ、落ち着きなさい。そういう声も出ているのだと言っているだけです」


こっそり覗き見た姿は幼い妹と、その母親


第二王妃親子が言い争っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る