第10話 畏怖と憧れ

 皇帝が退室し、部屋の中は静まり返っていた。

隣に座っているはずの姉上が遠い。


いるはずなのにいないようなそんな気がして

私はそっと顔を向け手を伸ばした。


「姉上…」


自分でも分かるほど震えた声。

それと同調してか

伸ばした手すらも震えてくる。


-姉上にとって私は邪魔かもしれない-

 

そんな思いが生まれて消えない。


「女帝になろうと言う者がそんなに気弱でいいの?」

 

冷たい雨のように


「貴女の発言で国民は疑心を抱くかもしれない。」


 心に降り注ぐ。


「貴女の判断で騎士の切っ先はこちらをむくかも知れない。」

 

姉上は、心にかかる霧をはらしてはくれない。

それどころか


「なぜ、貴方は皇帝になろうと思ったの。」

 

-姉上が、必要としてくれたから-

 

私の根底に根付くものすら、姉上は引き抜こうとする。


「姉上が……。」

 

言葉が紡げず、姉上から視線を逸らしてしまった。


「……。」


頭上感じるのは姉上に対する畏怖。

心の中で後悔した。


-姉上から目を逸らしたところで変わるものなどなかったのに-


「まぁまぁ、そこら辺で姉妹喧嘩も終わりにしましょうかね」


口を挟んだのは騎士のティラノだった。


「アモルちゃんもあんまり気負いすぎずに、ね?」

 

 頭を軽くポンッと叩くティラノ。


昔から変わらない仕草だ。


姉上とデュオは幼馴染であり幼い頃から主従の誓約を結んでいた。


その為、私たち姉妹の住む別棟に顔を出す事も多く

自然と私との距離も近かった。

 

 幼い頃から姫として

次期皇帝候補として扱われていた私は


本の中で描かれる『友達』というものに強い憧れを抱いていた。


いくら周りを見渡しても

侍従や騎士そして姫に取り入ろうとする貴族ばかり。

 

物語の中にしか存在しなかった『友達』という存在。

 

互いに助け合い時にはすれ違い

それでもなお互いを信じ合える関係。


そんな関係に憧れていた頃出会ったのが、このティラノだった。

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