昭和不良少女物語

幸明

第1話 武者小路陽子 

タイムトラベルと言うのを知らない人はいないと思う。

よく、映画や小説、漫画の題材や設定に使われ、過去や未来に行って何か冒険したり、恋愛したり、事件を起こして解決したりと様々な手法で、おもしろ可笑しく自分達を楽しませてくれた。

しかし、それは映画や創作物の中だけではつまらない。

できるなら、自分も過去へ飛んで恋愛したい、 未来へ飛んで冒険したい。などと幼い頃夢見た事はあるはずだ。

それを、大人になっても考える人を中二病と言い。

もっと、大人になっても考えてる人を馬鹿、もしくは天才と呼称するのだ。

そんな、世の中の常識に流されてしまったからだろうか?

俺が彼女の存在に気付かなかったのは………


__


2022年 夏。


「今日もあっついなぁ………」

毎年のように更新される過去一番の暑さの中、俺『高杉湊』は自身の通う高校「時越高校」へと足を進めていた。

場所は、東北の田舎の方に位置し不良もそこそこ多い。

俺はなるべくそういった人間達と関わらないようにするのが日課であり、極力距離を置くことを心掛けていた。


バキッ


「っぐあ」


ちょうど目の前で、唯一ともいえる友人がヤられていたとしても………


「んだぁ? 大村ぁ? そんなもんか? 普段の威勢の良さは何処に行ったよ?」

「クソが…大勢で来やがって、ン………湊?」

「………チッ。」

折角、人が通行人を装い通りすぎようとしたのに、あのバカ、大村春樹が気づいて呼び掛けてきた。


スタスタスタスタ


故に俺は人違いを装うことにした。

「あれ? 湊? おーい湊くーん? おーい?」

「知らん、人違いだ」

何だか、金髪で髪を逆立てた柄の悪い何処かで見たような180cm程の友人によく似ている男に声をかけられたが無視だ。

「いや、お前絶対、湊だよね? その俺より少し背が低くて髪型は至って普通だけど、それがまた涼しげな目元に合わさって格好良いって、密かに女子から騒がられている俺の親友の高杉湊だよね?」

知らん。そんな奴は知らん。俺は唯の隠キャだ。

「すまん。やはり君の勘違いだ。俺の知り合いにそんな奴は居ない。」 

そう言って、俺は軽く微笑んでから会釈をしその場を離れようとした。

「いやいやいやいや………」

「ホォー、お前があの高杉か? コイツと並んでうるさい一年生が入ってきたと有名な高杉湊か?」

「………ソイツと、一緒にするな」

俺は観念して、目の前の友人らしい奴を含めて6人の不良に目を向けた。

「ハァ!? 一緒にするなだと? お前ら二人が入学早々、上級生に喧嘩吹っ掛けて大暴れしたのは有名なんだぞ?」

「吹っ掛ける? あれは先輩方がそこの馬鹿に弱いものイジメをしようとしてたから、仕方なく仲介に入っただけだ。」

「ねえ? さっきから俺の扱い酷くない?」


そう、今からちょうど3カ月程前の事である。コイツ大村春樹は、入学早々その目立ちすぎる髪型と容姿のせいで上級生に呼び出しをくらっていた。

そんな時、たまたま裏庭にいた俺はたまたま手助けしてしまい、二人で上級生を倒したのだった。

俺は、別に喧嘩が好きなのではない。

ただ幼少の頃から、祖父より教わっている剣道と正義感から彼を助けたに過ぎない。

その正義感が今では仇となっているが………

「んなもん、どっちでもいーんだよ…しかしやっぱそうか…んじゃあ此処等で一発先輩の威厳をみせねーとな…!」


ハァ…


「参ったな、今は獲物を持ち合わせていないんだが…」

実家で剣道を習ってる俺は、部活には入っておらず竹刀等は家に置いてある。

あの時は、たまたま近くにあった木の枝で対抗出来たから良かったが、それでも隣にいるコイツと二人じゃなきゃ恐らく負けていただろう。

「加勢するぜ、相棒」 

(………先に、コイツをぶっ飛ばした方が良いのかも知れない。)

そんな事を考えていた時だった。


バガン!!


突如として、目の前の先程から因縁を吹っ掛けてきていた不良が吹き飛んだ。

………吹き飛んだ? 

そう、吹き飛んだのだものの見事に、通学路の道路を挟んだ向こう側のガードレール迄………


「邪魔だよ」


吹き飛んだ不良から、目線を戻せばそう言って薄い学生カバンを手にぶら下げた少女がいた。

入学以来誰とも会話をしてる場面を観たことがなく、常に大きめなマスクをしているせいで誰も素顔を見た事がない、ロングスカートを履いてストレートで艶やかな長い髪を靡かせた同じクラスの『武者小路陽子』がいた。








 

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