第4話 人の悪意のカタチ1
4話 人の悪意のカタチ1
赤は魔を払い。
白は浄化。
黒は穢れを現し。
人は白にも黒にもなりえる。
人の世は、どんなに時がたとうと、白と黒。
払いし赤は、いずこへと。
想いは白と黒へ別れ、いずれ溶けあい、消滅す。
赤を求めよ、さすれば汝らの黒は白へといずれ導かれるであろう。
声が聞こえる、よくわからない声、誰の声かは分からないが、その声が言う。
赤を求めよと。
赤って何の話なんだ?
2月22日 火曜日、4時55分 館宮神社境内、自宅。
ふと呼び戻されるように意識が浮上し、ゆっくりと瞼が空くのを感じる。
辺りは2月なので当たり前のようにまだ暗く、頬を撫でる空気はあいも変わらず冷たいと、信久は朝の空気を感じつつ目覚める。
ゆっくりと起き上がると、スッと湯煙のたつ湯呑が差し出された。
「旦那様、おはようございます。どうぞ」
「え、あぁ、こりゃぁご丁寧に・・・じゃねぇよ、いきなり現れるなよ」
「そうは言いつつ、お茶は頂くのですね」
信久は一口飲むと、茶葉の苦みとほのかな甘みが口に広がり、丁度いい温度の熱が、喉を温め、冷え胃を温めていくのが手に取るように分かる。
信久は、とりあえず朝の一杯を頂きつつ、突然現れた気立ての良い神様にツッコミを入れる。
あいも変わらずの巫女装束で、それが先ほどまで見ていた、白と赤がどうの問い掛けのせいで、妙に気になった。
信久はとりあえず起きだし、汚れても良い服装に着替え、境内いでる。
「うわぁっさっぶ・・・・未菜さんや」
「お掃除しないというのは、無しでお願いします。穢れが溜まってしまいますので」
穢れという言葉をさきほどの夢でも聞いた気がして、信久はそれも踏まえて、未菜に声をかけた。
「そうじゃなくてダナ。その穢れっていうのと、赤って色についてなんだけど」
「はいぃ、何ですか?」
「その、赤は魔を払い、白は浄化、黒は穢れを現し・・・」
「ちょっと待ってください!」
信久は強い口調と言葉で制止され、びっくりして未菜見ると、彼女は無表情でこちらを見ており信久は全身に悪寒を感じた。
これ、ヤバいやつだ。
「その言葉を、順に。今言おうとした順番どうりに、述べてください」
「は、はい」
赤は魔を払い。
白は浄化。
黒は穢れを現し。
人は白にも黒にもなりえる。
人の世は、どんなに時がたとうと、白と黒。
払いし赤は、いずこへと。
想いは白と黒へ別れ、いずれ溶けあい、消滅す。
赤を求めよ、さすれば汝らの黒は白へといずれ導かれるであろう。
っていうのが今朝起きる直前に脳内でこう、語り掛ける様に響いてだな」
「はぁ、なるほどです。旦那様、本日は本殿の黒いのを、できるだけバケツ一杯になるまで貯めてください」
「なんでまた?」
「アレはこう、土地の穢れとか、人の穢れを私が受け止めてまして、それが本体が祭ってある本殿に直接影響として見える形でこう、黒くですね」
身振り手振りで必死に未菜が信久へと、何か大切な事を伝えようとするも、何が言いたいのかさっぱり分からない信久は。
「とりあえず綺麗にして、その黒いのを、バケツにあつめればいいんだな?」
「はいぃ。さすが旦那様。私が眷属にしただけはあるお方です」
(なりたくて眷属になったわけじゃないんだけどなぁ)と、もはや何度目なのか分からない苦言を言いたくもなったが、ぐっとこらえて、道具の準備をてきぱきとし、社本殿へ向かう。
昨日綺麗にしたような気がした階段の一つは、昨日と同じく黒くなっており、信久の苦労は・・・と思うほどに元通りになっていた。
「あのぉ、未菜さん・・・・これドユコト?」
「やはりですか。説明は後でしますので、お願いしていいですか? 昨日も言いましたが、私にはこの集めた穢れを綺麗にする、という事は出来ないのです」
「へいへい」
気の抜けたような声を出しつつ、せっせと掃除をし始めるのだが。
「あぁ、そこぉ。いやぁん。はぁぁ」
色っぽい声が、階段の黒をふき取るたびに、信久の耳元でささやかれ、もはや拷問と言ってもいいぐらい、艶っぽい声が右から左へと、耳を通して流れていく。
「わざとやってないか?」
「ぁん、気持ち良いのですから。やめないでください!」
「耳元で喘ぐな!」
「良いではありませんか。興奮・・・なさったでしょ?」
「今すぐやめて良いかなぁ」
「いけずです、旦那様」
もう未菜に何を言っても無駄だと思い、艶っぽい声をBGMにしながら、掃除を進めた。
程なくして、階段一段目が終わり、やっときの木目が見えるぐらいとなった。
「な、なんかやたら疲れるんだが?」
「それはそうですよ。穢れですからね、いわば人で言う所の疲労、これもまた穢れの一種なので、触れれば当然疲れます」
「そういう大切な事は、昨日も言ったが先に言え」
「さて、穢れもだいぶ濃いですね」
信久の事を無視して話しを進める未菜に、この神様本当にあとで悪戯でもしてやろうかと心の中で思いつつ、この後どうするのかを訪ねる。
「そのバケツを持って付いてきてください。どうやら本格的に流す必要が出てきたみたいですので」
「流す?」
言っている意味が分からず、信久はとりあえず言われるがままに黒くよどんだ、どこまでも漆黒の液体が入ったバケツを持って彼女の後をついていく、自宅の裏、境内のちょうど端、そこに小さな鳥居があり、そこの前で未菜が止まる。
「答えよ、道を示せ。我、館宮の天御神。上神への願い奉る」
柏手を二度打ち、首を垂れる。
「さぁ、こちらです」
そう言うと、未菜は鳥居へと入ってその姿消えた。
「お、おいおい、いよいよ俺やべんじゃないだろうなぁ?」
答える者はおらず。一人不安に駆られていると、鳥居から首だけを出した未菜がひょいッと現れた。
「お急ぎください、すぐ閉まりますので」
「は、閉まる?」
言っている意味が分からず、困惑するが、さらにその鳥居から腕だけが生えてくると、スッと鳥居側に引っ張られ、信久は拒否する間もなく、光に包まれる。
鳥居の先は非常に明るく、まるで昼間と言ってもいいぐらいの明るさで、目の前には大きな湖があり、足元にある石は、緑のコケが青々と茂り、年季を思わせる。
目の前の湖の先には滝があり、そこから湖に雫を漏らしているようだった。
その滝の横には、まだ2月だというのに、桃色の花びらが一面咲き乱れた大木が、岩と大地を侵食する様に大きく生えていた。
明らかにこの場所が普通ではないという事を、この大樹と滝、桜の花弁がそれを示していていた。
「俺は、どこに来たんだよ・・・」
「私の上役の神様がおられる、いわば神の国、浮世の間ですよ」
そう言ってほほ笑んだ未菜を信久は一生忘れる事は無いだろうと、この時なぜか強く感じたのだった。
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