第7話 番長現る!!

「……遅い」


 ハルがトイレに行くと言ってから15分経っても帰ってこない。

 やっぱりついて行くべきだったかな?

 ハルは照れ隠しなのか分からないけど、アタシから避ける傾向がある。

 今回も照れ隠しで先に帰ったとか……でも、カバンが置いたままだ。

 じゃあ何故遅いのか……は!?


「もしかして、今日がアタシと再会して一ヶ月記念日と知ってサプライズを?!」


 てっきりハルは気にしてないのだと思っていたけど……ふへへ。

 帰ってくるのが遅いのは、きっとサプライズの準備が大変なほど、盛大なことをするつもりだからに違いない。

 じゃあ『ゆっくりでいいよ』っと、LINEでも送っておこう!


 こうして、サクラは都合のいい思考回路で晴斗の帰りを待っていると、


『ピコン』


 サクラのスマホからメッセージ音が鳴る。

 それは晴斗からのLINEだった。


「ハル!」


 サクラは最初こそ笑顔でメッセージを読みだすが、読むにつれサクラの表情は段々と曇りだす。


『お前の男は預かった。返してほしいなら一人で屋上に来い』



 ※※※



 僕は高田さんに恨みを持つ不良に捕まり、人質になった。

 もちろん抵抗したが、力及ばず、屋上まで連行された。

 そして現在は縄で椅子と一緒に縛られ、身動きが取れない。

 本来屋上は危険なので開いてないないはずだが、床にドアノブが落ちていたから、きっと壊したのだろう。


「こいつがあの佐々木? ただの陰キャじゃん」


 僕に精神的ダメージを与えてきたのは僕を連れて来た男の仲間。

 その他十数人の男たちが僕を囲むように立っていた。

 なんか一昔前のヤンキー漫画みたいな風景で、ちょっと笑える。


「お前……なにニヤニヤしてんだ?」

「!!」


 すると突然、不良の一人が僕の服の胸ぐらを掴み、威嚇してくる。

 僕は平然と表情を変えず、男につばを吐き、相手を煽るみたいなことしてみたいなぁと考えながら、


「すわせぇぇぇん!!!」


 全力で謝る。


「ぎゃはは!!こいつ泣いてるぞ!」

「だっさ」


 ひぃぃ!!

 


「おいおい可哀そうだろ? すまねーな。こいつら君みたいな奴を見るとつい虐めたくなるんだ」

「てめーは弱い奴にだけしか相手しない腰抜け野郎だけどな」

「あ?」

「違いねー」

「やんのかゴラァ!」

「ひぃぃ!!!」


 なんで仲間同士でもめ始めてんの?!

 もう嫌だ!!!


「おい、あんまり騒ぐな。先公にバレんだろ」


 すると奥で座っていた男が一声発すると、不良たちは全員口を塞ぐ。

 男は黒髪のキリっとした目を持ち、細身ながらもガッチリとした体形の高身長だ。

 彼がここのボス的な存在なのだろうか?


「さて、自己紹介がまだだったな」


 男は僕の目を睨みながら話し出す。


「オレは鬼瓦」


 鬼瓦……って、あの鬼瓦凶助おにがわらきょうすけか?!


「ここらで鬼瓦のこと知らない奴なんかいねーよ」

「まぁ礼儀ってもんだ」


 僕を連れて来た男が鬼瓦と親しげに話している。

 茶髪のパーマに糸目の男……こいつが鬼瓦の右腕、吉良竜馬きらたつま?!

 じゃあ高田さんが倒した番長ってこの人だったのかぁ……あの人ヒロインにしては強すぎじゃね?


「何故あなたみたいな人がこの学校に?!」

「……仕方ねーな。特別に教えてやるよ」


 僕は思わず尋ねてしまった。

 ここは名ばかりとはいえ一応進学校の私立であり、問題児の少ないごく普通の学校だ。

 そんな学校にわざわざ不良の彼らが来るのはおかしい。

 他に不良が集まる学校があるのに……一体どんな理由が!


「そりゃあ大学行くならそれなりの高校に通わなきゃだろ?」

「常識だ」


 めっっっっさ普通の意見だったぁぁぁ!!!!!

 ま、まぁ不良だからそこの高校とか決まってないか。


「じゃあなんで俺たちはこんなことしてるんだって顔してるな?」


 すると取り巻きの一人が口を開く。


「え? なにか理由があるんですか?」

「オレらを何だと思ってやがるんだ!」


 まさか、表向きは優等生で相手をだまし、じっくり裏から支配する的な!


「そういう年頃だからだよ!」

「反抗期の延長戦だぜ!」


 いや普通ぅぅぅぅ!!!


「俺、この間、親から頼まれたおつかい無視したぁ」

「俺なんて先公から出された宿題、もう二回も出してねー」

「授業中に弁当食った!」


 しょ、小学生が悪ぶってる時見たいなこと言ってる!

 よく見るとこの二人以外制服着崩しているだけで、手に持っているものと言えばコンパスなど……なんか真面目なガリ勉が悪ぶっただけっぽい。

 だからさっき『やんのか』と言った後、罵倒するだけで終わっていたのか。


「こいつらはオレ達の近くで調子に乗ってる雑魚だ」

「どうだ! 思い知ったか!」

「いや、そう威張られても」


 なんか一気に迫力なくなったなぁ。


「オレ達もたまに喧嘩はするが、そりゃあ売られた時だけだ。相手が降参したらやめる優しい高校生だ」


 喧嘩するのは果たして優しいと言えるのか?

 でも、話を聞いてみたら案外悪い人たちではないのかもしれない。

 高田さんにちょっかいをかけるようには思えないけど。


「けどこの間、凶助が女子に殴り飛ばされる事件が起きた」

「……」

「オレはただそいつが落としたものを渡そうとしただけだ。それをあの女……」


 なるほどね。

 つまり高田さんの被害者ということか。

 でも何故僕を人質にしたんだろう。


「どうやら高田には好きな男がいると噂があるらしい。何でもそいつが高田を操ってるだとかな」


 ……は?

 いやいやいやいやいやいやいや!

 ありえないありえない!


「そ、そんな事してません!僕は見た目通り勉強も普通、運動神経はそこそこで、クラスでは空気の存在、人畜無害のゴミですよ!」

「確かに」

「まぁ弱そうだしな」

「カスだなカス」

「明日になったら忘れそうな奴だしな」


 取り巻きが言いたい放題だ。

 こいつらだって人の事言えないくせに!


「それが嘘だとしても、お前が高田と関りがあることに変わりない。だからお前を利用させてもらう」


 そう言うと、取り巻きに僕はスマホを奪われ、暗証番号を解かれた。

 解かれたと言っても、いじめられっ子の性質で、つい教えてしまったのだが。


「これでよし」

「本当に来るか?」

「これで来なきゃこいつを……」


 い、一体何をするつもりなんだ!

 ……って、どうせこいつらの事だから大したことはしな


「ゴ〇ブリにキス」


 絶対に嫌だ!!!

 高田さん、ヘルプ!!


「でも、送ってから結構経つのにまだ来ないぜ?」

「じゃあもうやっちゃうか」


 そう言って取り巻きたちは虫かごを取り出し始める。


「あ、あの! 多分高田さんはトイレに行っているから遅くなっていると思います! なんせ彼女は便秘気味ですから!」

「うわっ! こいつでかすぎるだろ!」

「めちゃくちゃ動いてる」


 ちくしょう!!

 言い訳しているのに、聞いちゃいない!

 あと、そんな情報聞きたくなかった!


「噂が本当かどうか分からないしね。仕方ない」

「死にはしない。オレが見といてやる」


 あかん!

 トップ二人が乗り気だ!

 そしてGを割りばしでつかんだ取り巻きは、僕の顔に近づける。


「はい。チュー」


 これもそれも高田さんのせい……一生許さん!


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 でも助けてくれるなら許します!


 ドガッッッ!!!


「「「!!」」」

「クク。やっと来たか」


 ドアが乱暴に開けられ、そのままドアが倒れる。

 その衝撃で誇りが舞うと同時に、その中から彼女の姿が見える。


「アタシの男に……何してんだ!!」

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