Novelber day 22 『遙かな』

 僕には、小さな頃から天使が見えた。天使は透き通っていて、色も形も持たないけれど、風を浴びると中の粒子がほんの少し煌めいたり、陽射しの下でプリズムのような反射を瞬かせたりするから、あぁそこにいるんだね、と嬉しくなった。

 一度、天使に訊いてみたことがある。君はどこから来たの、と。

 天使は、空を指さした。天国から来たの? あの光の梯を伝って。そう訊くと、天使は首を横に振った。鈴のような清らかな音がした。

 天使は、ずっとずっと、空を指さしていた。……空の向こう。宇宙の方を。

 君は宇宙人なの? そんな馬鹿げた問いに、天使は微睡むような沈黙を返した。そして、掌で大地を撫でた。

 その指先の動きがあまりにも優しくて、僕は少しドキドキした。本当に大切なものを、愛おしむみたいだったから。

 彼は、遙かな旅をしてきたのだろうか。その果てに、帰ってきたのだろうか。彼は、言葉では伝えてくれないから、そう想像することしか出来ないけれど。風と光を気持ちよさそうに浴びている天使の姿を見ると、言いようのない喜びが、胸の中に灯るのだ。

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