第6話

 その後日高は、迅に背負われ、近くの病院へと運ばれた。頭から血を流し、完全に気を失っている彼。すり傷も火傷もあちこちにつけた蒼白な顔は、見るに痛々しかった。それでも、彼の身体にはちゃんと彼の魂があった。天に召されたわけでも、怪異物に乗っ取られているわけでもないのだ――少なくとも、今のところは。そのことが、ひとまず迅を安心させた。


 とはいえ、と、苦々しく顔をしかめる迅。


 あの場所には、まだ例の怪異物の気配がしていた。千景は結局、怪異物を祓い損ねたのだ。おそらく怪異物の側からすれば、日高が千景の攻撃を無防備に食らうものだから、たまらず憑依をやめて逃げた、といったところだろう。いずれにしろ、俺らは恐ろしい魔物を見逃して来てしまった。日高の容態を第一に気にしつつも、迅は、その後悔を拭いきれずにいた。


 対して千景は、終始眉一つ動かさなかった。目の前で日高が倒れていても、それが自分の手でしたことなのだと自覚していても。彼女はいったい、何を思っているのだろう。そもそも今の彼女に、人らしい感情が残っているのだろうか。

 やがて彼女は、別件があると言って去っていったが、こんな時にどこで何をしているというのか。


 緊急手術室の前で、「手術中」の禍々しい赤いランプに対峙する迅。同伴の運転手が傍らにいたが、迅は、確かに一人だった。

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