土下座の慶次郎。銀髪幼女にタイムリープさせられた主人公が前田慶次の体を使って大太刀周り。改造させられたチートスキル持ちの体で敵を屠る筈なんだが

🅰️天のまにまに

大馬鹿者の武将誕生

剣聖に投げ飛ばされんだが




 気づくとそれまでのめまいがおさまり視界が回復するとそこは見知らぬ光景だった。

 さっきの事が思い出せない。

 というよりもそのような暇はない!

 目の前に凄い迫力の木刀を持った剣士がいた。

 それがこっちを向いていたらビビるのが普通だよねぇ。


 現在、21世紀のふつ~のフリーランサー三十一歳♂、前田慶太は困惑を通り越して目耳口から煙が出ている気持ちだ。


「どうなされた。先ほどの威勢は如何なされた。踏み込まねばこちらから参るが」


 二十代後半か?

 目つきの鋭い、どう見ても剣の猛者。名剣士ラッシー、違う名剣士らしい。

 慶太は勿論、21世紀日本男児の常識、スキルが発動している。残念なことにこのスキルはパッシブスキル、切ること能わず。あの木刀で殴られたらヤヴァい。気絶どころか骨が折れて一生傷物にされてお嫁にいけない体に!


 ついつい真剣さが必要な時に邪念が沸きあがるのを止められない男が前田慶太という存在である。



 なにがなんだかわからないこのような状況になっても見栄だけは忘れない。そう思っているらしい。

「こいつには勝てない、絶対。では降参するか? いや、痛くされないで負けるのが無難だ。そして「今回はこのくらいにしてやる」という台詞を敵に言わせるんだ!」

 こんなせこい判断を慶太独自の脳内打算器で高速処理する。


「自信があるようで何より。ではついでにお前の強さを見せてもらおうか。その木刀がなくても俺を倒せるものならやってみろ!」


 普通ならこんな挑発に乗る大馬鹿は、この前田慶太くらいだろう。

 しかし


「良かろう。我が剣の神髄を見たいというのだな。では見せて進ぜよう」


 その剣士が手にした木刀を弟子らしきボロボロになった練習着の人物に渡す。そして手をだらりと下へ下げた。脱力しているようにも見える。


「ノーガード戦法か」

「なにかな。それは」

「こっちの話だ」


 気を散らそうとしても効果がなさそうだ。

 こんな訳の分からない状況は速く終わらせるに限る。

 そうだ。

 こっちから攻めて終わりに……


 面を割ろうとなんかしない。胴を払うほうが敵も痛くないだろう。だから大目に見てね的に踏み込んで相手の胴を狙うが。


 途端に天地が逆転した!

 いたいいたいいたい!

 肩がもげそうだよ~。

 関節を決められている。このままではさらに痛くなっちゃう。それは嫌だと泣きを入れる前田慶太。


「参った! 降参、こ~さんする~~~~」


 悲鳴のようなギブアピールをする。


 ……?

 何の反応もない。

 よく見ると相手の剣士は冷静な表情で慶太の肩関節を決めたまま身動き一つしない。木刀を持った慶太の腕を捻ったまま目も動かない。


 こ、これは時が止まっている?

 何かはわからないが今のうちに逃げよう!

 慶太は逃げ足が速い男である、筈であった。


 腕を振りほどき、体についた埃をパンパンと叩きながら立ち上がり、動かない剣士にあっかんべ~をしてから立ち去ろうとしたその時。


 いままで無音だった世界が元の輝きを取り戻した。

 ヤヴァい。

 まだ逃げ出していないのに!

 回りを囲んでいたこの剣士の門弟らしき連中がアホ面を晒している。

 今ならまだ間に合う!

 そ~っと逃げようとする慶太。


「まて。先ほどの業は何だ。拙者の無刀取りを受けてもするりと抜ける。たかが青二才と思って失礼した。これから本気でかかろうぞ!」


 アウアウ。

 冷静な目つきが怖い目つきになっちゃったよ。


「師匠があんなに本気になることは見た事無い」

「いや。塚原先生との試合以来だ」

「あの試合は壮絶だった」

「あれ以来、塚原先生は師匠を剣聖と呼ぶようになったぞ」


 いろいろとささやき声が聞こえるも右から左の慶太。

 さっきの時が止まったようなこと、また起きないかな、などとは流石に考えない。そこまで馬鹿だったらもうこの作品は書かないぞ!


「では、上泉伊勢守信綱、参る!」


 え?

 上泉信綱?

 剣聖?

 剣聖でござるか?

 こ、殺されるでござる

 逃げよう!

 いやもう目の前だ。無理。

 それならば!


「いや、こっちが参ります! 降参です。助けてください、お願いです。かんべんしてつかぁさ~~い!」


 さっきと同じセリフを吐く。

 こ、今度は伝わった?

 伝わったよね?

 いや、もう一押しだ。

 慶太は念を押すというスキルを身に付けた!


「俺を弟子にしてください!」


 がばっと威勢よくその場で土下座をしてこの試合に決着をつけた。

 ついでに不意打ちというスキルも身に付けた!


「さっきの業は何だ? 教えてくださらぬか? 話はそれからにいたそう」





 やっと拷問、いや詰問から解放された。

 すべて「しらない!」で通した慶太。だって、知らないんだもん。

 だが最後までしぶとかった剣聖。「あの技が知りたい」と最後まであきらめなかった。

 だから慶太は「あの技は秘儀故、縛りがある。年に一度しか使えない。そう神に誓った」と出まかせを言って逃れた。


 慶太は出まかせスキルがカンストしている。



「聞けばそなたは甲賀から追い出されたとか。名を滝川……」

「クリステルではありません。こっちがおもてなししてもらいたい」

「よくわからないが滝川利益だったか?」


 滝川利益?

 もしかして前田慶次の若いころ?

 俺のご先祖様か?


「これからどういたす? 拙者としてはここで食客として共に修行を」

「いえ。俺は出世がしたいです! なぜかとっても出世がしたい。いや、しなくちゃなんない気がする。これは神のお告げ?」


 無理やり話を通すスキルも身につき出したらしい。


「そうか。では某が仕える殿に推挙するが如何? それなればすぐ近くである故、剣の修行もできる」


 ぼろが出そうだが剣の修行を剣聖に師事しておけば先程「ここは上州。関東管領上杉憲政様の傘下である大胡政賢まさかたの領地で小田原の北条氏と敵対している」という話。

 早い話が戦国時代に来ちまった感じ?

 剣聖もいるし。


 そんな時代で生き残るには剣の修行は絶対必要と感じた。

 慶太はその大胡家に仕える決意をした。


「では滝川利益殿。甲賀を追われておるという事だが、名前はそのままでよいかな?」


 そうか。

 やっぱり変えた方がいいのか?

 よく分からないが剣聖がそう言うのならば戒名、もとい改名しておこうか。


「では前田慶太、いや慶次、慶次郎。前田慶次郎利益と名乗りを改めます」


(責任は剣聖だよ。オレジャナイヨ)

 と心の中でつけ加えながら。


 慶太、いや慶次郎は責任転嫁スキルも上昇中だ。

 次はどんなスキルが身につくことやら。







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