四十一話 一つの決着と、決着の始まり
四十一話 一つの決着と、決着の始まり
「はァァッッ!!」
「っ、死ねぇッ!!!」
拳と剣が交差する。
片方は己の魔術を組み込ませた必殺の拳を。もう片方は魔術によって殺傷能力の消えた鉄の塊を。互いに振り、一進一退の攻防を繰り返す。
「てめぇも大概しつけぇ野郎だな! そろそろくたばっとけや!!」
俺の振るう剣が、乱暴女の耳元を掠める。それと同時に身を捩り繰り出された崩拳をいなし、みぞおちにカウンターの左手をめり込ませる。
かひゅっ、と一瞬呼吸が詰まる音を聞きながらも死んではいないその瞳と視線が交差し、空中蹴りを右手で受け止めるが、小手に走った衝撃で剣が宙を舞う。
「獲っ────」
「てねぇよ!」
「ごふっ!?」
グシャッ。必死に俺の剣に手を伸ばすその腕を掴む。
剣は、あえて捨てた。食い付くこの瞬間を潰すために。
脚をかけ、腕を肩ごと捻りながら背負い込む。一本背負いで細い身体を投げ飛ばし、引き手無しで地面に伏させる。
が、思いの外ダメージは低かった。流石の体術的な技術で咄嗟に受け身を取られてしまい、確実に痛みを与えた実感はありつつも簡単に立ち上がったその姿を見てため息を吐かざるをえなかった。
「あの、狂犬君……死ぬほど痛いんだけど……君まさか体術まで出来るの?」
「あ? やったことなんてねえよ。雰囲気でぶん投げただけだ」
「はは、マジかぁ。まさかの才能マンだぁ……」
「やめろ。才能と天才は俺の大嫌いな言葉のトップ二つだ」
自分に才能があるなんて思った事は一度もない。
俺の戦い方は、俺自身が努力し磨いたもの。それを才能だとかそんなちんけな言葉で片付けられては堪らない。
というよりコイツは、そういう言葉を使いそうな奴には見えなかったから少し意外だ。
「いい加減そろそろ退いてくれないかな。君と遊んでいたい気持ちは山々なんだよ? でも、さっきも言ったけどここで負けるわけにはいかないから」
「その言葉、そのまま返すぜ。汚い手で散々な目に遭わされてきたが、もう充分だ。正面からのどつき合いじゃぁ、お前は俺に勝てねえよ」
「へえ、言ってくれるじゃん。それはちょっと……魔闘士としては聞き捨てならないなぁ!!」
身体強化魔術を己の身に宿し、加えて攻撃魔術を組まなく拳に乗せる事で新価を発揮する魔闘士。雷撃魔術やら衝撃魔術やら。多種多様なのはいい事だが、そろそろ″限界″が近いはずだ。
例えそれが、魔石の魔素を踏まえて強化されていたとしても。ここまでフルで使い回し続ければ、すぐにガタが来る。
「波帝け────っ!?」
「来たみたいだな。これで、終わりだ!!」
拳に集まる衝撃が、一瞬にして分散していく。
それはアイツ本人にも予想外の、突然の魔素限界オーバーリミット。怒りに任せ魔素量を上乗せし一撃を放とうとしたツケを払わされるかのように、一瞬にして体勢は崩れて。そこに肩から押さえ込むように上をとった俺は、馬乗りになって首元に剣を突きつけた。
「チェックメイトだな。魔術なんかに頼ってるからそうなる」
「っ……君だって、身体強化魔術を付与されてたでしょ」
「は? あんなのとっくの昔に解除させてるに決まってるだろ。お前に雷撃魔術を喰らって、あの雑魚が代わりに戦っていたその後から。俺は自分の身体能力だけで動いてた」
「嘘、でしょ? だって……その前となんら遜色ない……いや、むしろ動きのキレは増してた! そんなの、絶対嘘に決まって────」
「信じる信じないはてめぇの勝手だけどな。俺には鼻から、女を本気で殴る趣向なんて持ち合わせてねえ。ただ負けっぱなしがムカついたから再戦しただけだっつの」
「……完全、敗北じゃん」
ようやく負けを認め、身体から力を抜いたのを確認して、警戒だけはそのままにあの雑魚の行く末を見つめる。
魔獣、モブ三人。残された数十秒でアイツがあれだけの包囲網を潜り抜けられるとは思えないが。
だが、俺が行くわけにもいかないだろう。ここでコイツを数十秒フリーにする事は、間違いなく負けに即決する。例え魔素が切れていても、平気であの根暗と性悪をねじ伏せてしまいそうなほどこの女は、危険だ。
「ねぇ、ところでこれ……女の子に馬乗りってどうなの? 私も一応その……ちょっと、恥ずかしいんだけど」
「色仕掛けするならもっと色気を纏ってからにしろ。騙してやろうって魂胆が見え見えだぞ」
「ちぇえっ」
ぶぅ、と頬を膨らませながら、諦めの悪い小言を言うコイツに、もはや上から押さえていることすらも馬鹿らしく感じる。
まあひとまず、俺の仕事は終わった。本当は一人で全員捩じ伏せるつもりだったが、この乱暴女のせいで不完全燃焼に終わってしまったものの。結局一番強いコイツを倒したのは俺なわけで。これでチームとして勝てれば、万々歳と言ったところか。
「魔導零剣────乱舞!!」
そう思いながら見つめる戦況は、思いの外好調なようだった。あの雑魚はキチンと役目を果たし、今迫り来る敵を全員瞬殺。生意気だが、中々の剣技だ。
そうして、旗に伸ばした手はあと二メートル。デカい大人が間に挟まるくらいしかない距離まで進み、勝利を確信した。
した、その判断が……命運を分けた。
「ごめんね、狂犬君。真正面から君に勝てないことなんて、とっくの前から分かってたよ。だから……またこうして、汚い手を使わせてもらう」
「……あ?」
「保険はね、かけておくものだよ。特に今回の私みたいに仲間ガチャを外したのなら尚更、ね」
突如、乱暴女が右手を微かに動かす。一瞬感じた攻撃の気配に身構えたが、それが作ったのは拳ではなく親指と中指の擦り合わせ。
パチンっ、という、乾いた音が響いた。
「氷慧魔術────魔氷地雷」
刹那。旗に迫るアイツの足元から氷の束が広がって。その下半身は、完全に凍ったのだった。
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