九話 魔術の変化

九話 魔術の変化



「全く。では改めて、空間魔術をこれからどう変化させていくかを説明するからな」


「師匠、まだ顔が少し赤いですよ?」


「……うるさい」


 僕がそう指摘するとアンジェさんは一瞬後ろを向いて、次こちらを向くときにはその頰の紅潮を治していた。優しく微笑んだり、今みたいに照れたり。そういうところを見ていると、アンジェさんも普通の人間なんだなと少し安心する。


「いいか? さっきも説明した通り、お前はこのままここにいては駄目なのだよ。ここで私と修行するのはいいが、いざ外に出て大人になっているのは嫌だろう?」


 それは、当然そうだ。僕はまだウルヴォグ騎士学園に入学してまだ一年も過ごしていない。当然楽しい思い出ばかりじゃなかったけど……歳をとってその環境から逃げ出したいとは思わない。むしろ、強い人になると決心したのだから自分でその環境は乗り越えなければ。


「そこで、だ。私がこの肉体にかけている魔術と同じ″成長を遅らせる″ものを、ユウナにも付与する。それにあたって、従来のものも色々と掛け直しをしなければならないんだよ」


「僕にも、付与……」


「そうだ。よし、やるぞ」


 パチンッ。アンジェさんが指を鳴らす。そういえばこの人が魔術を使うところを見るのはこれが初めてだ。


 僕がこれまで学園で見てきた魔術は、詠唱の後に火や氷を具現化して飛ばしたり、あとは足元に魔法陣のようなものを作って大規模な魔術を作成したりと見た目から「かっこいい」と思うものばかりだった。


 普通の人が使う魔術でそれだ。この人の空間魔術ならもっと、凄いものが見れ────


「あー……えっと。すまないユウナ。私の魔術に男心をくすぐられてくれるのは嬉しいのだがな……。掛け直し、もう終わったぞ?」


「……へ?」


 ポリポリ、と申し訳なさそうに頭をかきながら、アンジェさんは僕に衝撃の事実を伝えた。

 終わっ……た? まだ何もしてないと思うんだけどな。詠唱だって魔術そのものだって、僕はまだ何も見ていないし。


「後々説明するが、詠唱というのは雑魚魔術師がやることだ。私にはそんなもの必要ない。あと今のところ身体に変化はないと思うが、ユウナも私と同じように百年分の一まで成長を遅らせておいたから安心してくれ」


「……」


 僕のいた学園は騎士学園だし、確かに魔術を見る機会は少なかったけれど。それでも流石にこの人が言っていることがおかしいというのはすぐに分かった。


 教職員、プロの魔術師。彼女らが魔術を使うときだって、詠唱は必ず行うものだ。確かに文を短絡化して放っているところも見たことはあるけれど、一切の詠唱なしは見たことがない。


「そこら辺のとは才能が違うのだよ、才能が。お前が弟子入りした魔女は最強だからな。どうだ、見直したか?」


「えっと……はい。とりあえず凄いということは分かりました」


「ふふんっ。そうだぞ私は凄いんだぞ。……あ、あと後々ユウナにも無詠唱魔術は覚えてもらうからな」


「!!?」


「さぁて、どう強くしてやろうか。ふふふふふっ」


 規格外を脳内にねじ込んでおいて、その上次は僕にそれを覚えさせるつもりらしい。



────改めて、とんでもない人に弟子入りしてしまったようだ。

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