バイオスフィア
小椋綾人
第1話プロローグ
「先の大戦の引き金となったのは、新人類と呼ばれる人類をめぐって国家間で行われ_____。したがって、____は解体_____を代表とする_____が_____」
窓際で温かい春の日差しを感じながら教師の話を聞き流しつつ資料集を眺める。どうしてこうも現代社会の山田の授業は眠たいのか。一定の口調で話す山田は一昔前の音声読み上げソフトみたいだ。あくびを噛み殺し、目に止まったページを読む。ドーム型の実験施設の写真が掲載され、その隣に説明文が丁寧に書かれている。春の窓際、日当たりは良好、更には心地のいい風が窓から吹き込んでくる。
_そう、眠たくなるのは仕方ない、俺のせいじゃない_
目を閉じてこの無謀な戦いを終えようとしたところでぱこんっという軽い音と軽い衝撃が頭に襲った。
「おい、足立。聞いてるのか?」
「うっすみません」
目の前には教科書を丸めた山田が腕を組み仁王立ちで俺を見下ろしている。くすくすというクラスの笑い声に顔が熱くなる。
「お前はもう高校3年生なんだ、受験も控えてる。何事も始まりが肝心だ、それなのにお前ときたら___それに、お前は___」
田中から視線を逸らせば、クラスの中で控えめに笑っている
「足立!聞いているのか?」
「あーえっと、あはは......すみません」
俺が頭をかきながらそういうと、ため息を一つ深くついた山田は教卓の方に戻って行った。そして、またあの単調な喋り方で教科書を読み上げていく。ノートの端に山田の禿頭と分厚いメガネを描いてその上に「チャントカンガエテルノカ?」と書く。ちょっと子供っぽかったかっと思って消そうとしたら後ろから吹き出す声が聞こえた。
山田の視線が俺と後ろの席の
授業が終わり、拓磨が俺の背中を叩く。
「よぉ、画伯。今日は災難だったな」
「うるせーよ。吹き出すなよな、また怒られるところだっただろ」
「悪い悪い、似てたからさ。んで帰るか?」
「ごめん。俺、部活あるんだわ」
「おけ、了解。てかさ、陸上部はいつまでやるわけ?俺ら3年じゃん受験も控えてるし」
「とりあえず、3年は次までだな。今度こそ目指せ全国」
「あれ、ウチの陸上ってんな強かったか?」
「いや、毎回ドベ。でも今回は結構いい感じだし全国とはいかなくても市とか県くらいは」
「期待してるぜ。応援行けそうだったら行ってやるから教えろよ」
そう言われて琢磨に背中を叩かれて、琢磨はドアから顔を覗かせた隣のクラスの友人に呼ばれて帰って行った。最近発売されたゲームをするらしい。本心を言えば少し羨ましい、でも今までがんばってきたから最後の大会で少しでもいい結果をみんなで残したい。教室を出て渡り廊下を通ると校庭の桜が風に吹かれて花びらが一斉に落ちる。
「おーい、
「おぉ、今から行くから!」
みんなの声を聞いて早足で部室に向かう。フォームの見直しをしたり、何度も走り込みをして日が沈むまで部活をした。汗を拭き、制服に着替えた後でロッカーを閉めて帰る準備をする。
「睦実、帰りにラーメン食べに行こうぜ」
「おう、ほんと最近マジで腹減るよな」
残った3年みんなで近くにあるラーメン屋までだべりながら歩く。俺は話に加わらず、みんなの後ろをついていきながら話を聞く。
「なー、この間の健康診断でさー俺身長めっちゃ伸びてたから」
「マジかよ、まだ伸びるとかお前新人類じゃね。今なんセンチあんだよ」
「今は190くらいだな2メートル言ったら俺、新人類になるんじゃね?」
「新人類だったらなんかもっと他に使えるんだろ?いいよな、あー俺もなりてぇ」
「どんな能力欲しい?俺は火を操るとかどうよ」
「いやいや、それなら透視能力を得てだな」
「あはは、バカだろ。なぁ、睦実はどんなのが欲しいんだよ?」
顔だけこちらに向けながら訪ねてくる
「足が早くなれば便利そうだよな」
「睦実は、遅刻も多いから足が早くなればマシになるかもな」
裕樹がそう言って晴人も頷く。確かに俺はかなり遅刻するし何度か留年の危機に陥ったこともあった。でも、自分にもしすごい力があったなら、俺は、いや俺たちは
「それもあるけどさ、次の大会やっぱりいい成績残したいだろ?俺たち最後の大会だし」
一瞬静かになったから、裕樹や晴人たちを見る。ちょっとくさいセリフだったかもしれない。
「そうだな、じゃあ俺も超足早くなるわ。ちなみに睦実よりも早く」
「俺もー」
「んじゃ俺も」
「こんだけ足速いやついたら間違いなく全国優勝できそうだな」
晴人に続いて裕樹たちも手をあげていく。それを聞いていた部長の太一もははっと笑った。気がつけばラーメン屋の前まで来ていて曇りガラスでできた引き戸に手をかけた。
「ま、そんな力なくても全国行こうぜ!だろ?睦実」
「カッコつけんな晴人」
「裕樹は俺に対してだけあたりがキツイ!」
「晴人、裕樹、全国行こうな」
そんなことを言い合いながら、いつもの焼豚と煮卵入りラーメンを食べる。ここのラーメンはいつも美味くて部活帰りに食べてから家で晩御飯も食べる。成長期になってからすごくお腹が空くようになったし、そのぶん運動もするからいくらで食べれる気がする。
「ご馳走様でした」
「マジで美味かったな」
「大将のラーメンマジで世界一だよ」
初めは無愛想な大将も今では気の置けない仲になった。ありがとよっと気さくに声をかけられて俺たちはラーメン屋で分かれてそれぞれの家に帰る。これがいつものルーティーンで、家に着くまでいつもどおりだった。
家の前に黒色の外車が止まっていてなんだか嫌な予感がする。家の電気はいつもどおりついているし、もしかしたら親戚の人のものかもしれない。
「はは、いや、それならナンバープレートあるよな」
俺の家族を含め親戚はみんなナンバープレートは誕生日がいいという人たちだし、そもそもナンバープレートなしで公道って走れないんじゃなかったっけ?そんな不確かな記憶と共にとりあえず、家の玄関を開ける。見たことない黒い革靴と黒のピンヒール。
「た、ただいまー」
しんっと静かな家からは返事がない。普通なら母さんの声が聞こえるはずだ。いつもの家の異様な雰囲気に無意識に息を止めると微かに声が聞こえる。耳をすませるとそれが母の啜り泣く声だと聞こえて靴を脱ぐのも忘れてリビングに向かう。
「母さん!どうし」
言葉は続けられなかった。スーツを着た若い男性と女性はまるで機械のように母さんと父さんを見つめていて、父さんは何かに耐えるように俯いて母はハンカチで目元を押さえている。そしてテーブルの上に置かれているのはアタッシュケースに詰められた札束だ。
「は?何これ?なんかの撮影?」
俺がやっと口にできたのはそれだけだった
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