月夜に咲く紅き百合
オウヅキ
プロローグ
「この子が良いわ」
机を挟んで右斜め前、金色の椅子に背もたれ、座る場所に赤色のクッション。王者が座るにふさわしい椅子に腰掛ける少女は、優雅に微笑みながら机の上にある一枚の写真を指差す。
「
そう聞くのは私の上司。この仕事を長く続けているベテランだ。彼はこれまでに何度も私たちの世界の人を
「ええ。その子が良いわ。出来るだけ早く渡してね」
少女は「楽しみだわ」なんて言いながら両手の指を合わせ軽やかに笑う。その様子に私は怒りと恐怖を覚えた。私たちの理解が及ばないところにいる少女。それに相対する、私の上司である一人の人間。彼はどのような気持ちで彼女たちと接し、今また一人の人間の子供を差し出そうとしているのだろうか?
「分かりました。それではこれで」
「ええ。よろしくね」
贄人決めが終わり、皆が席をたち出口に向かう。部屋から出る直前、少女の方をちらりと見た。
腰まである、長く、下の方がヴェーブしたきれいな黒髪。美しく整った顔。理想的なスタイル。そして、真っ赤に光る目に口もとに見えている牙。
明かりがあまりついていない薄暗い部屋にいる少女は、ぞっとするほどにきれいだった。
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