第22話 若返りに効く薬毒4

「ハナ!」

 とハヤテがハナを呼んだ。

 ハナは肩をすくめる動作をしてから襖を閉めようとした。

 薄っぺらい煎餅布団で横になっていた方がましだと思ったからだ。

 だが、にゅうっとハヤテの腕が伸びてきて、ハナの身体を掴んだ。

 身体は大広間の奥にいながら、ハヤテの腕はにゅううとどこまでも伸びる。

 ハナを掴んだハヤテの腕はま持ち主の方へ縮み、もとの腕の長さに戻った。

 捕まれたハナの身体は一緒に広間の奥へと運ばれた。

「どけ」

 とハヤテは両隣に座る女を追い払って、ハナを膝の上に抱いた。

「何よ、薬師様、幼女が好みなんか? おらたち、せっかく若返ったのによお」

 と右側の女が不平をもらすと、

「あれま、薬師様が一向にそん気にならねえのは、おらがいろっぺぇ過ぎたか。こんな毛も生えそろってないようなガキんちょがええだか。そーんな顔色の悪い、しなびたばーさんみたいな幼女がええだか」

 と左側の女も言った。

「いけ」

 とハヤテが言い、女達はしぶしぶ立ち上がった。

 また男達の方へ混じろうと足を向けたが、こてんこてんとふたりとも足がもつれてこけた。

「もう酔ったのかい」

「おめえこそ」

 と二人の女はげらげらと笑いこけて、その場に寝転んだ。

 そこへ新たな女と楽しもうと、男が豊満な身体へ乗りかかる。


「ハナ」

 とハヤテが言い、見上げたハナの唇へハヤテのそれが重なる。

「む」

 鬼の唇から濃厚な人間の生気が溢れだし、弱りきったハナの身体へ染みこみ。

 しわしわだった肌に潤いが戻り、細胞が活性化する。

 肉が戻り、弾力がつく。シミが消え、真白い肌に変化する。

 生気の無い瞳に光が戻る。

 徐々にハナの身体に戻った妖力が彼女の黒髪の間に鬼の角を再現する。

「あの人間の生気?」

「ああ」

「あの人間、死んじゃうんじゃ?」

「かもな」

 ハヤテに生気を奪われた女はあんあんと淫猥な声を上げて快楽によがっている。

 ハナの目にはみるみるうちに、女の肌の張りが消えていくのが見える。

 ぷるんとしていた乳も尻もが弛み、肉の張りも消えていく。

 それに引き換え、ハヤテの腕の中のハナは綺麗な少女に戻っていた。

 艶のある髪、肌、生気、妖気。

 だが、それも数時間のものだった。

 人間の生気を奪うくらいではハナの蘇りも一瞬の事だった。

「残らず啜れ」

 再びハヤテがハナの身体をきつく抱き締め、唇を重ねた。

 この熱気の中でもハヤテの唇は冷たく、首筋に触るその指も氷のようだった。

「ハヤテ……もういいよ、こんなの一瞬だし」

「なら、喰え。ここにいる人間を残らず喰え。お前は人を喰らわないから、半鬼になっても身体が貧弱だし、命が尽きるのが早いんだ」

「この村は大事な客なんでしょ?」

「構わんさ。お前の餌になるなら、喰らい尽くしてもいいぞ」

「ううん」

 とハナが首を振った。

「何故だ」

「食べたくない」

「喰らうんだ! 死にたいのか!」

「もういいよ……次はあたしも鬼の子に生まれたらいいのになぁ」

 と言った。

 それからハヤテの胸に頭を預けるようにもたれかかり、目を閉じた。

 その途端に黒髪が白髪に変わり始めた。髪も肌も艶が無くなり、肉が消え、シワ、シミだらけの姿に変化する。

 ハヤテはハナをぎゅうっと強く抱き締めた。

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