セント・リトルエンジェル島の罰。

 事の発端は、ネットに上がった小さな動画ファイルだった。

 画質は荒くサイズも小さい、しかもダークウェブ上に存在して痕跡を辿れない。


 けれど、その動画は明らかに薬物を使った暴行事件だった。

 室内で意識が不鮮明の相手を凌辱し、部屋から攫う。


 そして警察では分類不能事件として分類され、関係者からも直ぐに忘れられた。


 だが次の年に起きたポルノ動画撮影における強姦致傷事件、通称ベッキー事件において繋がる事となる。

 被害者は人工肛門になる程の重症を負い、違法ポルノの一斉検挙で主犯格は逮捕。


 そこで分類不能部門の捜査官が例の動画を主犯格に見せ、更にまだ繋がりが有るのだと引き摺り出させた。


「見た事が有る場所、孤島、ビックパパ」


 この発言は違法に引き出し、俺とその捜査官だけが知る言葉だったが、実際に調べるウチにビックパパの存在が本物だと確定する事になった。


 未成年との違法デートクラブ、ビックパパへの繋がりは未成年だけだったが、内偵が始まった。


 だがガードが固く1年が過ぎた頃、突如として捜査打ち切りの知らせが入った。

 けれどそれは表向き、既に内調の調べで内部の幹部クラスが会員だと確定されており、撹乱の為の打ち切り宣言だった。


「ですので、部署異動で表向きはマル暴に配属されて下さい。店を用意してますから、君が店長ね、宜しく」

『はい、ですがもう1人補佐が欲しいんですが』


「だよねぇ、誰が良い?」

『分類不能担当の泰田慧を借りたいです』


「あぁ、良いね、人員削減は良い目眩ましにもなるし。じゃ、任せたよ勝谷紀凱きよし君」

『はい』


 そうして店を切り盛りし、ベッキー事件とビックパパの繋がりで浮かび上がった暴力団への監視が始まった。




《店長、吐いた方が良いですよ》

『ダサくない?下っ端の子に見られるとか』


《なら上で吐いて下さい》

『あぁ、そっか』


 店長を買って出て後悔しながらも、1年が経った頃、外国人の少年が面接へやって来た。


「何でもします、お願いします、お金が溜まるまで置いて下さい」


 見た目とは裏腹にペラペラの日本語。

 けど未成年だし。

 けど、ココらの店で綺麗過ぎるのも怪しまれるし。


 取り敢えず上に判断を仰いだ。

 が、コレが完全に失敗だった。

 彼にマイクロチップやGPSを埋め込み、歯にはマイクを仕込むと言う、囮にするにしても完全に人権を無視する方法が提案された。


『いや、まだ』

「そもそもだよ、彼は無戸籍だったんだ、明らかな不法入国者では無いけれど、その可能性も否定出来ない。なら、有効活用する以外に手は無いじゃないか」

《ですが》


「もう、綺麗事を言える状態じゃ無いんだよ。今年だけで行方不明の未成年者が何万人居ると思うんだい。20代で18,000、10代で15,000、それ以下の年齢でも1,500人だよ?」


《お言葉ですが》

「その内の未だに所在が確認出来て無い15%の子が何人被害者になり、果ては加害者に回ってるかも知れないか。そも所在確認前後に何か被害に遭って無い確証は無いだろう。しかも最低値でも常に15%だ。それを彼だけで救えるとしたら、彼にしか救えないとしたら、それでも君は否定するのかい」


《もし否定するなら、代案を、ですか》

「まぁ、そうなるよねぇ」


 全てを救えなくても、未然に防げるかも知れない、何割かを実際に救えるかも知れない。

 そう思うと正体不明の彼に犠牲になって貰う方法しか、思い浮かばなかった。


『俺にも姪が居て、慧にも姪が居て、それが被害に遭うかも知れないなら』

《出来るだけのフォローをしましょう、人生を賭して》

「まぁ、そこはウチもフォローするからさ、宜しくね」


 そうして、上の判断を飲んでしまった。

 先ずは保険証が使えるウチにと、健康診断へ行かせチップを埋め込み、歯医者で生体から発せられる微弱な電流を使ったマイクを仕込ませた。




 そして最低限ひらがなを覚えさせ、帳簿を使い能力を確かめている最中に、向こうから動きが有った。

 孤島に養成所を持つ事務所、クライスからレオナルドに声が掛った。

 経由は暴力団、間違いなく潜入出来る。


《ココで踏み止まらせる事も出来ると思う》

『将来の夢がヒモか愛人か偽装結婚の相手だぞ、漢字もまだで学歴も親も親戚も無し。試しに遺伝のデータベースを当たらせたけど、本当に家族も何も無い、ただの、女々しい安定志向の馬鹿だぞ』


《だが下手をすれば薬物に》

『上がフォローするって言ってんだし、少なくとも何処かの組織の庇護下には入れるだろ。国際事件になれば、アイツは証人保護プログラムで大手を振ってアメリカに渡れるんだし』


《アンタは本当にそれで良いのか》

『こんな店でも必死に役立とうとしてんだし、きっと大丈夫だろ。もう、そう思うしか無いだろ、5000人か1人かなんて計算しなくても、分かるだろう』


 こんな好機は無い、2度と無いかも知れない。

 仮に有っても、それが何年先になるか、その間にどれだけの犠牲が出るか。


 レオナルドに刺される覚悟で迎え入れ様と思う。

 どんな暴言を何日でも聞いて、殴られて刺されて、自殺に見せかけて死のう。


《事件が解決したら、レオの願いを全て叶える》

『おう、俺もそのつもり』




 そうしてオオカミの群れにレオを放り込み、1ヶ月が過ぎだ。


《楽しそうにしているな》

『止めてくれ、俺の番になったらしっかり聞くから』


 レオを送り出して直ぐ、暴力団員との諍いに敢えて巻き込まれ、店を閉店へと追い込ませ。

 以前から触れ散らしていた離島での生活を本格的に始動すると言って、クライスの施設が有る島へ慧を送り込み、俺は各地の離島を転々とし。

 今日から盗聴を交代すると言う日に、事件は起きた。


 健康診断を受けラムネを食った後、レオが嘔吐した。


《盛られたか》

『ごめんよ、レオ』


 そうして聞く事しか出来無いまま、今度は静かになって数十分後に何者かが部屋を訪ねて来た。


【レオちゃん、大丈夫かな】

【あぁ、店長さん】


 少しも声が似て無い筈が、俺がいつも呼ぶ呼び方で、レオが俺だと認識して。


【そうそう、君の店長さんだよ。可愛いねレオちゃん】

《コレは、和田会長だ》

『あぁ、音質良いな、コレ』


【いつでも、言ってくれたら準備したのに】

【そっか、君は同性愛者なのかな?】


【いえ別に、ですけど店長さんには恩が有るので、僕で良ければいつでもどうぞ、僕はクリーンなので】

【そっか、ありがとうレオちゃん】


 後悔しか無い。

 もう1日遅かったら良かった。

 優しくしなければ良かった。

 拒絶出来る様に仕向ければ良かった。


 痛いと呻く声に、喜ぶ男の声。

 聞くに堪えられないけれど、もう、聞くしか無い。

 例え物証は有っても、証人は多い方が良い。




 担当が違っても、反対すれば良かった。

 代案を無理にでも出せば良かった。

 勝谷さんをもっと説得すれば。


【おい、起きてるか】

【慧さん、寝てました。またノックも無しに入って】


 今度は俺と誤解して。


【したんだろ、店長と】

【ゴムはちゃんとしてたと思いますよ、そんな感じの感触がしたし】


【じゃあ次は俺だからな】

【良いですけど、準備が】


 血液なのか、キチンと潤滑剤が使われたのか、水音がして。


【この調子なら大丈夫だろ】

【ならどうぞ】


 もう痛みも感じないのか、ただ苦しそうに息を吐いては吸うだけ。

 それをよがっていると勘違いして、手荒くして。

 せめてもの救いはゴムを使って貰えてる事。

 せめてもの救いは、もう苦痛を感じていない事。




 俺と誤解したり、慧と誤解したり。

 果ては店で働いてる子に、常連客の女だったり。

 まるで俺らとの記憶しか無いみたいに、次から次に来る人間の相手をして。


 眠いと抵抗すれば殴られ、それにも抵抗すれば縛られ。


《せめてもの救いは、ゴムをして貰えてる》

『あぁ、そうだな』


 自分達は何をしているんだろう。

 無辜の子供を利用して、何をしているんだろう。


《勝谷さん、俺と勝谷さんの姪の為、5000人の人間の為なんです。耐えて下さい》

『おう、本当に辛いのはレオなのにな、ごめんな』


 酒に逃げ、薬に溺れる人間の気持ちが少し分かった。

 自分から逃げたいんだよな、罪と罰から逃げたいんだ、全部忘れたいんだよな。




 レオが開放された頃、勝谷さんを締め落として寝かせ。

 レオが起きた頃に起こし、怒られた。


《すみませんでした》

『ありがとう、助かった』


【あの、献上して、体も明け渡したら何か特典とか有るんでしょうか】


 勝谷さんが目を見開いて、明らかにショックを受けてる事が分かった。


『心を壊しちゃったかもだね』

《彼は頭が良いから、馴染む為に敢えて言ったのかも知れません。今の心配は自殺です》


『あぁ、そうだね』


 クルーザーまで足が付かない様にと車で連れて来させられた以上、ココで海に沈められたら完全に行方不明者のままになる。

 レオも、他の子達も。

 けれど、それを止める手段は一切無い。

 もう施設の人間か、島民にしか何かをする術は無い。

 ただひたすら祈るだけ。

 どうか、誰も死にません様に。




 少ししてレオの役割が決まった、和み班と呼ばれるグループで補佐役を務め。

 デートクラブではスカウト役。

 もうそこまででも十分なのに、体まで。


《勝谷さん、都内に戻りましょう》

『いや、俺は少し残るから、そっちを宜しく』


《償いきるまで消えないで下さいよ》

『おう』


 レオが無事に戻れるまで、どんな事が有っても死ぬワケにはいかない。

 ただ、一目で良いからレオを確認したかった。

 遠くからでも、どれだけ怪我を負っているのか確認したかった。


 そうして実際に船着き場を遠くから見て、後悔した。

 夏だと言うのに長袖で、風邪だからとマスクをして。

 島民は不審がるも何も声を掛けず、そそくさと逃げる様に軽く会釈し通り過ぎる。


 もう、ココの島民も共犯だろう。

 見て向ぬふりで、阿って。


 もし神様が居たら。

 それこそソドムとゴモラみたいに島を燃やし尽くして欲しい。

 今すぐに、俺ごと。




 レオが都内に戻り半年が過ぎた頃、レオの誕生日会がグループ内で開かれた。


《この分も祝いましょう》

『もし許してくれたらね』


 島から戻って以降、勝谷さんの髪には白髪が混ざり始めた。

 前髪に少し、それを抜いては線香の様に並べて。


《禿げますよ》

『祖父フサフサ』


 知り合いの精神科医に相談すると、軽度の自傷行為だろう、と。

 酒もタバコすっかり止めて、食事にも気を使って。

 傷付く為に生きている、贖罪の為に生きている、俺も、勝谷さんも。


《酒も断ってますから、薬物の心配は無さそうですね》

『そうだね』


 真面目な面を見れば見る程、罪悪感が膨らんでいく。

 ただ無戸籍で容姿が良いだけで、俺らの店に訪ねただけで、ココまで。




 レオは薬も酒も断り続け、病院を定期的に受診し、健康には問題が無いまま1年半が過ぎた頃。


「ガサ入るから、付きっ切りで宜しくね。動ける様にも車を渡しておくから、もう少し辛抱してくれ」

《はい》

『了解です』


 一方の慧は1年が過ぎた頃からチックが出始めた、本人は完全に無自覚なのか目をギュッと瞑る様になった。

 最初は音声を聞いている時に偶に出て、最近だとちょっとした疲れやストレスで出る様になってしまい、流石に指摘したが目が痒んだと言い訳して来た。


《髪》

『目』


 そうしてお互いに何か症状を出てる時に、指摘し合って改善を図ったが。


 2年目には諦めた。

 コレが治るのはレオが無事に戻った時。

 生きて戻って来たら、俺らの症状は良くなる。

 今度はそうお互いに言い聞かせ、励ます様になった。


 そして奥深くまで調べていた記者は証人保護プログラムを受け、情報提供をしてくれた事で事態は好転した。

 幹部クラスが関わっている証拠を彼は持っていた、そしてビックパパから養成所やベッキー事件との繋がりが明らかとなり、後は更なる情報収集と内調が行われるだけとなった。




 レオが都内に戻って3年目、勝谷さんの前髪が白くなって2年目。

 ついていけなくなった幹部クラスが、とうとう和田へ提言したが。


【有り得ない、回しは俺の生き甲斐。それに、回しによって連帯感を高める、そうすればヤる気が出る、それがイベント成功の秘訣なんだし。参加するかどうかで、1人前かどうか見極めるんだから、有り得ないね。それにさ、もう4月だよ?新入生も来る4月は撃てるんだから、うん、有り得ないね】


 もう既に海外の警察とも連携している中で、決定的な発言をリアルタイムで聞かせられる事が出来た。


 そしてレオの証人保護プログラムも確約が取れた。

 後はもう、勝谷さんと迎えに行くだけ。


《後はもう、自殺されない様にするだけ》

『それと、殺されない様に、な』




 薬は使って無かった筈だけど、副流煙は吸っていたし、コレは幻覚だろうか。


「店長と慧さんが見える」

《おう》

『だよね、だってココに居るし』


「あぁ、本当だ、白髪が凄い」

『コッチも色々有ってね』

《少し、話を良いか?》


「うん、はい」


『俺らは警官、君を盗聴器にしてオオカミの群れに放り込んだ』

《本当に、すまないと、思っている》


『ごめん』


「盗聴器に、する?」

《歯医者に行っただろ、その時に最新型の盗聴器を入れた》

『店に受け入れたのは君が元は無戸籍だったから、本当にすみませんでした。何をしても償う、許さないで良い、悪かった、ごめん』


「え、じゃあ、役に立てたんですか?」

《勿論》

『未来の被害者も考えたら、君は何万人も救った。俺は、君を犠牲にしてそれを選んだ』


《俺ら》

『お前は反論しようとした、けど俺は反論しようともせずに』

「コレはあの、ドッキリとかじゃなくて?」


《それで心が穏やかになるなら、それでも構わない》

『それと、証人保護プログラムって分かる?君は適応される事になった』


「あぁ、記者さんみたいに殺されちゃうかもなんですね」

《まぁ、あぁ、そうだ》

『英語は出来るし英字なら問題無いなら、行くべきだと思う』


「お2人はそれで、どう償うって言うんですか?」

『任せる、何でもしてくれて構わないし、何でもする』

《俺も、ずっとそのつもりだった》


「慧さん、チック出てる」


《あぁ、目が痒くてな》

『レオが誕生日の時位に』

「レオちゃん」


『あ、あぁ、レオちゃん』

「店長さん」


『アレは潜入捜査みたいな事をしてただけ』

「じゃあ店長さんに戻って下さいよ」


『あぁ、うん』

「それと慧さんは調理場で働くスタッフ」

《おう》


「それで、それで、本当に役に立ったんですか?」

『おう』

《どうしたら信じてくれるんだろうか》


「映画とかだと、免責事項の書類とか。あ、後は実数、救われた人の数が知りたい」

《分かった、直ぐに用意させる》


『ごめんね、本当に』

「僕は被害者だけど、加害者ですよ?どうして泣くんですか?」


『だって君はそうするしか、生きられなかったから』

「でも、別に僕が嫌いだから送り込んだんじゃ無いんですよね?」


『無い、それは無い。もう、完全に天秤にかけた、君と5000人を、天秤にかけた』

「漢字も書けなかったのに、僕がこうなるって信じてくれたんですか?」


『祈ってた。生きてて欲しいって、最後まで無事でいて欲しいって、祈ってた。それしか、出来無かった』

「いつも?」


『最初に薬を盛られたんだと分かった時は、コンドームがされてます様に、暴力を振るわれません様に、早く終わります様に』

「ごめんなさい、勘違いして。呼び方が一緒で勘違いしちゃって」


『良い、俺が悪い。責めてくれよ』

「だって、役に立てたなら」


 帰れるかも知れない。

 けど、帰ったら記憶が消える。

 帰ったら、また転移者様を妬んで、罵って、八つ当たりして。

 もしかしたらテロだって起こすかも知れない。


 どうしよう、帰れるなんて思って無かったから。


《良いか、先ずは免責事項を》

「あの、例えばの話なんですけど。最近流行ってる異世界転移モノって、知ってます?」

『まぁ、広告では目にするけど』


《俺も、その程度だが》

「それで、転移して、戻る条件が有るとして。その条件が役に立つ事だったら、僕は異世界に戻れるんです。それで問題なのは記憶、記憶が消えて戻れるかも知れないんですけど。僕は、凄い性格が悪くてココに飛ばされたから、戻るかどうか悩んでるんです」


『記憶を消したいの?』

「その逆なんです、戻ったらまた愚かな僕に戻るのが嫌なんです」

《それで、戻りたくは無い、のか?》


「そうなんですよ、戻りたく無いけど、ココには家族も居ないし。こんなんじゃ結婚も無理だろうし、僕には何も無いから、守って欲しいけど、加害者だし」

『あ、そうだ免責事項』

《少し落ち着いてコレを読んでくれ》


「あ、はい」

『何か、飲み物を持ってくるわ』

《はい》


「全部、聞かれてたんですかね?」

《すまない、交代しながら全て聞いていた》


「え、トイレも?」

《そこは音がしたら外してた》


「あぁ、凄い恥ずかしい」

《それ以外も、性行為も聞いていた》


「それは何か重要な情報を漏らすかもだから、ですよね」

《あぁ》


「ならそれは良いんです。けど、この知り合いと連絡が取れなくなるって」

《俺らは警察関係だから可能だが、制限は掛かる》


「じゃあどう償うんですか?」

《レオがココに居る間に、出来るだけの事を叶えるつもりだ》


「3人でどうにか一緒に居られませんか?」


《あぁ、ちょっと相談してみる》


 僕を売ったんじゃなくて、なんなら帰る手伝いをしてくれた。

 なら、僕もお礼を。


『よし、レオちゃん、慧と結婚しなさい』

「え?」

《俺が勝谷さんの養子になって、レオと結婚すれば家族になれる。それで3人でアメリカに行く》


「子供が出来無いんですよ?」

《別に俺は》

『体外受精って知ってる?少なくとも俺らに女の親戚が居れば、レオちゃんとの子供は不可能じゃ無い』


「犯罪者ですよ?」

《コレにサインすれば元、だ》

『その前に被害者なんだし、情状酌量って分かる?君は脅されて、加担させられてた、分かる?』


「あ、それで実数は」

「ちょっと良いかな」

《はい》

『この方は俺らの上司』


「そう、君をオオカミの中に放り込む案を出して、実行させた主犯格だ」

「ありがとうございました、こんな僕を役立てようとしてくれて」


「うん、精神鑑定受けない?」

「それは嫌です、最初、何も分からない時に、相談に行った時に面倒だからって、閉鎖病棟に入れる相談をお巡りさんとお医者さんがしてたので、入れられるなら死にます」


「そうか、じゃあ、君が正常で死にたく無いんだと仮定して、この被害者の実数は意味が有るのかな?」

「有ります。僕が加害した人を引いて、やっとちゃんと実数になるので」


「名前は覚えてるかな」

「はい、日記に、鏡文字で良ければ」


「じゃあ、提出して貰って良いかな」

「はい」




 勝谷さんと俺と上司の目の前で、レオが何処に隠していたかを内緒にする、部屋のマイクもカメラも全て切る事を前提に、日記を提出して貰う事になったのだが。


「いやぁ、老い先短い僕としては、手品って事にしておきたいなぁ」


 レオが昔から使っていた空の筈のカバンから、日記に現金、切手にトレーディングカードが容量を超えて出て来た。


「あの、コレを被害者の方に渡せないですか?」

「別にそれは黙って持ってても良いんだよ、僕らはどうしたって黙ってるしか無いんだし」


「いえ、コッチが僕の本当のお金です。コレは犯罪で得たお金だし、守って貰えるなら要らないです」

「そうかぁ、でも仮にだよ、僕からの餞別が有ったらちゃんと受け取って欲しいんだけどねぇ」


「良い事のなら貰います、あ、宝くじは良いですか?」

「それはもう本当に大丈夫だよ、当たってると良いね」


「はい」

「うん、少しだけど読めた。コレは証拠品として預からせてもらうけど、万が一が怖いから書類にサインしてくれるかな」


「あの、本当に良いんですか?事実上の無罪で」

「君が無罪になってくれないと、僕らの気持ちが有罪のままなんだよ。自分勝手なのは百も承知だけれど、僕らの罪悪感を解消する為にも、君にはコレから凄く幸せになって欲しいんだよね」


『俺らにも幸せになる為の協力をさせて欲しい』

《何でもする、犯罪以外》

「こんなポンコツと家族になっちゃうんですよ?」

「あ、でも無理に家族になる必要は無いからね。君の好きな様にして良いんだよ」


「え、じゃあ、結婚したいですか?」

《レオが幸せになるなら》


「そうなると、店長は僕のお父さん?」

『まぁ、それでレオちゃんが幸せになるなら』


「じゃあ、コレ、受け取って下さい」

「分かった分かった、受け取るよ」


 コレは本当に事件が国際化していたお陰で、レオの2冊の日記が直ぐにも解読され、一定の証拠能力が有るとして採用される事になった。

 先ず1冊目はレオの金の流れが完全に記載されていて、2冊目にはその日に何をしたのか全てが書かれており、GPSの位置も相まって事件の証拠としてかなり補強される事になった。


《マメだな》

「最初は僕のこの変な状況を書いて本にしようと思ってたんです、けど日記と面白おかしくかくのは違うから。だから出来るだけ詳細に書こうと思って、そのまま、ズルズルと」

『この金の流れも、レオのだ』


「レオちゃん」

『レオちゃんのだけだけど、2冊目の日記の補強にもなるし。コレはどうして書いてたの?』


「帳簿のが、家計簿みたいに役立つかなって。それで、ズルズルと」

『いや、うん、凄く役に立つ』


「本当ですか?」

《おう、完璧な証拠品だ》


「こんなのが役に立つなんて。本当に、何が役に立つか分からないんですね」

《そうだな》

『だね』


 そして証言能力の確認の為、先ずは薬物の影響下では無いかの確認がなされる事に。

 先ずは警察官の立ち合いの元に血液や毛髪、尿が採取され、FBIでも証拠として保管される事になった。


「精神科医の鑑定って、本当に信用出来るんですか?」

『向こうでも受けて貰うし、あの集団に絶対に関わって無いだろうってのに診て貰うから大丈夫』

《FBIからも認められたのが呼ばれてる、録画と録音もされるから大丈夫だ》


「一緒には無理なんですか?」

《俺らの影響が無い事も大事だからな》

『慧が外に居て音を聞いて、俺はカメラを確認してる、良い?』


「それなら、はい」




 レオの臨時の鑑定は、逆に問題無し。

 役に立つ、役に立った事が相当の支えになったらしく、元の育ちの良さと強さ、日記を通して明確な客観性を得られていたからこそ、不安な要素は殆ど無いらしいが。


 寧ろ、俺と慧が疑われる状況になり、面談を受ける事に。


『肉体関係も好意を示す様な事も、連絡を取り合う事も何もありませんでした』

《凄い依存されてますし、仮に向こうへ行ってもかなり依存されますよ?》


『歪だとは思いますが、それが俺の望みなんです』

《好意が有るんですか?》


『好意と言うか、家族として見る感じでしょうか。性的欲求なら無いです』

《償いが終わり、彼がアナタを手放すとなったら》


『それが適切な状況判断だと確定したら、どんな形であれ仕事に復帰したいと思います』

《逆に、依存しているとは思いませんか?》


『友人であれ仕事であれ趣味であれ、全く依存しないのは不可能では?』


《そうですね。分かりました、面談は以上です、お疲れ様でした》

『あの、質問を1つ良いでしょうか』


《はい、どうぞ》

『先生は離れるべきだと思いますか』


《立場上、警察官の方へは被害者へ肩入れするなとは言いますが。それは時と事情によると思うんですよね、双方の悪質な利用を防ぐ、なら悪質な利用とは何か。そも家族として必要とされる事自体は至極健全で、今回はお互いの為になる可能性が有る。なら家族とは悪質な利用なのか、それも状況次第。なら被害者と元警察官が健全な家族を築く事が悪質な利用となるなら、世界中から救われたお姫様と王子様の本を消しさらなければならない、そしてその間に芽生えた恋心も否定して、正しい恋愛観のみしか許されなくなる。それって結局は異常ですよね、なら異常では無い、けれど大多数では無い。そう正しいかどうか常に判断されるが耐えられるなら、別にどうしたって良いんじゃないでしょうかね》


『ありがとうございます』

《いえ。コレは独り言ですが、カウンセリングは受けて下さいね。実は依存度合いはアナタ達の方がヤバいんで、客観性を保つ努力をして下さい》


『はい』


 同性愛者では無い状態での養子縁組。

 だが未成年の加害者が保護監察官と養子縁組をして出所してる場合も有る、その事を盾に了承させ、出国直前に養子縁組を実行する事になった。

 が、出国前に慧とレオの自治区でのパートナーシップの宣誓をしてから、と言う事になり。

 書類がFBIに提出されてから、免責事項へのサインをし、証人保護プログラムが開始される事になった。




 加害者なのに、ホテルのベッドで寝れる。

 暖かいご飯が食べれて、自由に出来る。


《不自由だろうが》

「島より全然自由だから大丈夫なのに」


 こう言う話をすると慧さんにチックが出てしまう。


『慧、目』

《あぁ、すまない》

「前半は特に楽しかった方の思い出ですからね?大丈夫ですからね?」


 こう言っても、チックが収まらない。


《すまん》

「触ってみて良いですか?」


《おう》

「僕は本当に性格が悪くて、恵まれた最高の環境に居たんです、それこそ天国みたいな場所でした」


《おう》

「それなのに妬んで、羨んで、八つ当たりして。本人には直接は言って無いけど、否定する様な事を沢山書いたんですよ、それでココへ捨てられた。天使で言うなら堕天使です」


《おう》

「最初は罰が当たっただけだって思ってたのに、今度は自分が辛くなったらクソな世界だから加害者になっても良いって思ってて、それで連行されてから、また罰だったんだって思って。それ位に利己的で、僕はクズなんです。役に立ったって言って貰えただけで喜んで、もう半分は許されちゃってる気になってる、クソなんです。だから僕への罪悪感は逆にプレッシャーになるから、どうにか消して貰えませんか?」


《直ぐには無理だな》

「僕に友達とかかが出来たら和らぎませんかね?」


《それなら、多少は和らぐと思う》

「もし向こうでも治らなかったら離婚します、そんな状態で一緒に居るのは健全じゃ無いから、向こうで結婚したら離婚届を書いて僕に渡して下さい」


《断る》

「なんで」


《預けるなら勝谷さんに》

『きよしさん、な』


《書くが、勢いで出されても困るから、きよしさんに預けたい》

「うん、そうします」

『おう』


「それと恋人を作る件なんですが、暫くは僕に分からない様にお願いします。もしかしたら家族を取られるかもって嫉妬を起こすかも知れないので、僕が環境に慣れるまではお願いしますね」

《いや、この数年は特に求めても無かったんで大丈夫だと思うが》

『だね、でも出来たら出来たって言って、分からない様にする』


「はい、後は、もう寝て良いですかね、もう眠くて」

《おう》

『おやすみ』


 そうして眠って僕は安眠だったけど、きよしさんが魘されて起きた。


「悪夢ですか?」

『あぁ、うん、大した事無いから大丈夫だよ。起こした?』


「いえ、健康には早寝早起きが1番なので。寝直しますか?」

『いや、このまま起きるよ、おはよう』


「おはようございます」


 最初は帰りたいと思ったけど、きっとこのまま帰ったら2人が傷付いたままになる。

 そして僕は無神経な馬鹿に戻って、役立たずどころか害虫になるかも知れない。


 もし選べるなら、僕が帰っても大丈夫な位に2人が回復したら帰る。

 それでもし帰還の問い掛けが回復前だったら、ココに居ても良いって事だって勝手に思って、2人のお世話になる。

 だって僕は弱くてポンコツで、クソでクズで加害者で、被害者だから。




 慧と家族に挨拶しに行くと、予想外の反応をされてしまった。

 本当に卵子提供を承諾して貰えてしまい、俺らが元気になるなら安いモノだと言われて初めて、自分達が如何に酷い状態だったかを認識させられた。


 そうして海外へ到着し、前と同じ様に店長と調理師、そして配膳係として生活する事になったのだが。

 ココの人間に合う料理なんぞは知らないワケで、メニューだなんだと、仮の住まいで永住への準備をしているのだが。


「エドがレシピくれたよー、ウチの味だ、絶対変えるなって」


《レシピが英文はマジで、しんどい》

「読んであげるから頑張って」

『おう、頼りにしてる』


「えへへへ」


 俺と慧で話し合った結果、レオは堕天使だと言う結論に至った。

 頼られると凄く喜ぶ、役に立ちたがる天使だったけど、周りが優秀過ぎて自信を無くして嫉妬して、八つ当たりが神様にバレて地上に堕とされた。

 しかも天使だった、堕天使だとバレるとイケない制約が有る。


 そう、天国にしてみたらココは異世界も同然、しかもかなりクソ。

 そしていつかレオは天国に戻るかも知れない、いつか許されて天国に戻る為の試練をこなしたに過ぎないと、思い込ませてくれてる天使。

 そう思うと意外にも辻褄が合って、レオは何もおかしく無いんだと思える。


 何ならおかしいのは俺ら、俺らと、この世界。

 あんな犯罪組織を生み出して、簡単に壊せなくて、民間人まで犠牲にして。


 裁判だって進みが遅いし、コッチでは関係者が刑務所で殺されるし。

 いや、それに関しては正直嬉しい。

 俺も何か力が有れば、あの島を消滅させたい位なんだし。


《ボーっとしてないで手伝って下さいよ》

『あぁ、うん、うどん踏んでおく』

「ふふふ、食べた後に教えたらアルが驚くんだろうなぁ、足で作ったのかって」


『ワインだって足で踏んで作るのにな、柔軟性が足りないんだよアイツ』

《納豆を食べさせましょうか》

「それは本当に止めてあげて、流石に可哀想だよ」


『チーズとそんなに変わらないでしょうが』

「違うよ、全然違う」

《チーズは乳酸菌、納豆は納豆菌。しかも麴菌って国菌と言われていて、日本独特の麴カビ菌なんだそうですよ》


『もし異世界なら、ココだと日本酒の密造は不可能なのかなぁ』

《泡盛はマジで無理そうですね、日本にしか菌が無いそうですから》

「そんなに飲みたい?」


『いや、果ては醤油だ味噌だを作れれば金が浮くじゃん?』

《コレ面白いぞ、種麹、もやし屋のマンガだ》

「あー、コレがそうなんだ、醸すぞー」


 頭が良過ぎても警戒されてしまう、けど知識や常識は得たい。

 その結果レオが選んだのはマンガだったらしく、俺らも知れなかった空白の時間は漫画喫茶でマンガを読み、電子書籍でもマンガを読んでいた。

 だからこそ、ただのオタク外国人として認知され、安全圏に居られたらしい。


 そのレオに話を合わせる為、俺らは電子書籍でマンガを共有する事になったのだが、目にくる。


『オッサンは紙媒体が良いな、目にくる』

「また引っ越すかもなんだから、絞らないと」

《アレはもう使えないのか?》


「あのね、アレって対価が必要なんだ、悪夢と性行為。店長と慧さんずっと悪夢見てたのに急に収まったでしょ?僕がカバンから中身を抜いたからなんだ、だから使うには対価が必要だから、今は封印してる」


《性行為》

『それってレオちゃんが性行為をすれば良いのか、俺らでも対価の支払いになるのか、どっちなんだろう?』

「多分、僕だけかもだし。悪夢って辛いから見て欲しく無いから、あんまり試したく無い」


《にしてもだ、とこまでが性行為なのか、誰からの対価でも良いのかは確認するべきだろう》

『そうだよね、安全に物を隠せるって重要な事だし』

「今はもう不安が無いから別に」


《いや、よし、頼んでみるか、エドに》

「え」

『そ、え?エドとすんの?』


《いや、レオの相手をする場合を想定して、正規の男娼を頼んで貰おうと思って言ったんだが》

「あぁ、そっちね、無理にそうしなくても良いのに」

『でも継続して供給が必要ならまぁ、そうなるよね』


《本での勉強には限界が有るしな、コレとか》

『お前、BLて、フィクションだろうよ』


《かと言って人間から話を聞けば真実を得られるかと言ったら別だろう、本が全て嘘で出来てるとも限らないなら、有用な証言の1つだ》

『だとしても、現実と混同すんなよ?』


《下準備が必要な事位は分かっているし、それが描かれていないからと言って準備をして無いとも限らない。が、どう考えても準備無しならヤオイ穴、ただそれだけで。それを逆に、どう混同するんだ?》

『いや、混同するとは思って無いけど、念の為に言っただけだよ』


《俺の情報処理能力を疑われる何かが》

『無い無い、驚いて一般論を言っただけ』


《なら良いんだが》

『真面目なんだよなぁ』

「店長もね。本当にカバンが使えなくても良いからね、本当に大丈夫だから」


 遠慮されているワケでも無いのは分かった。


 ただ、レオは俺らよりは若くて、当然の様に性欲が有る筈で。

 そうなるとレオの解消を念頭に置くべきではとなり、慧とどうするべきなのかを相談する事に。


《天使に性欲は無いだろう》

『あぁ、確かに』


 そして対価の支払いを其々に確認してみたが、レオだけが支払えると言う結論になってしまった。

 思い込みにせよ、全てはレオ次第と言う事になった。




 それから半年後、きよしさんは免許を取得し、俺は調理師等の必要な資格を取得し。

 レオは大学の通信講座で大学生として生活しながらも、アメリカの比較的偏見の少ない場所のダイナーで、俺らと働いている。


 気候も匂いも何もかもが違い、それこそ異世界に転移した様に、前とは全く違う人生を歩んでいる。


「あ」

《どうした》

『レオちゃん?UFOでも見た?』


「戻らないです、残ります」

『ぅうん?』

《アレか、前の言ってた帰還の条件か》


「はい、やっと、役に立ったんでずねぇ」


 大泣きして何を言ってるのか分からなかったけれど、落ち着かせて聞いてみるに。

 今さっき、元の世界に帰るかどうかを聞かれたらしい。


 救ったかどうかずっと半信半疑だったのが、今やっと、信じる事が出来たらしい。


《救ったって、まだ信じて無かったのか》

「だって、ポンコツだし、加害したし、僕は何もしてないし」

『俺らにとっては、色々としてくれた人間なんだよ。俺らは途中まで準備しただけ、実働はレオちゃん』


「でも、だって、僕は、えっちとかしただけだし」

《いや、それもそれで正式に仕事としてる人も》

『ねぇ、本当に残って良かったの?』


「だって、本当に凄く性格が悪かったんですよ?」

『それ、全部話してくれない?凄く気になってたんだよね』

《あぁ、先ずはココへ来た時から頼む》


「それは、良いですけど、マジで信じてくれる?」

『うん、何なら本にして出すよ、ファンタジーとして』

《審査に通る程度に濁して下さいよ、証人保護プログラムの規約が有るんですから》


『あー、強制的にエド達に読ませられるのか、感想も聞けるし良いかもな』

「一応、本当なんだからね?」

《おう。それで、最初は何処で目覚めたんだ?》


「最初は……」




 俺はダイナーの経営の合間に、贖罪の為にもとマジで必死にレオとの事を書いて。

 捜査官達に読ませて、それからネットに掲載して。


 数年して本になった。

 そうして儲けた金はレオの希望通り、被害者基金へと全額回し。


 子供を作るまでに更に数年が経ち。


 やっと、慧とレオと普通に近い家族になった。


『お祖父ちゃん、コレ読んで』

『あぁ、椿は白椿が好きだねぇ。はいはい』 


「ハイは1回にしてよ、きよちゃん」

『はーい』

《レオ、ノエルがまたミルクを吐いたんだが》


「飲むの下手なのかもなぁ、よしよし」


 マリアは俺の姉の卵子とレオの子、3才の椿は慧の姉の卵子とレオの子。


 この子達を作る切っ掛けになったのは、主犯格達の量刑が確定したから。

 本当の家族になりたくて、俺と慧で頼み込んだ。

 それで出た条件が、区切りが付いたら、と。


 捕まれば事件が終わるワケじゃない、最低でも俺らとしては、正しく裁かれて刑に服す事が1つのゴールだった。

 そのゴールを経て、やっと家族を新しく作る事に同意して貰えた。


 そして次は同じ様な事件が起きない様にする事が目標となり、通過地点には量刑、軽過ぎるとなれば法改正、法整備へ。

 他にもまだまだ、被害者から加害者に転じた場合の情状酌量の適応具合に量刑の是非、未成年の加害者の氏名公表の有無、被害者への誹謗中傷への罰則。


 改善点を出せばキリが無いが、少なくとも1つのゴールは有る。

 同じ犯罪を起こさせない、起きても直ぐに対処出来る様にする。


 けど、コレらは綺麗事、俺の中では一貫してる事が有る。

 過去の偉人が遺した言葉「野獣に人権はない」、それを大前提として法整備が進んでくれれば、少なくとも俺に不満は無いが。

 もっと本音を言うなら、少しでも再犯の可能性が有るなら、一生ぶち込んでおいて欲しい。

 本当に反省しているのか科学的で客観的な判断が下ってこそ、ココの様な更生プログラムみたいなのを。


「きよちゃん、眉間」

『あぁ、おう、つい感慨深くなっちゃって。講演会の中身を考えてた』

《程々にして下さいよ、前回だって過激だと言われてるんですから》


『被害者だった事が有るヤツだけが投げた石しか、当たらないから大丈夫』

「僕は良いけど、敵だけは作らないでね」

《そうですよ、平和が1番なんですから》


 慧のチックは治ったけれど、俺の白髪は進行したままで、文字通り本当にお祖父ちゃんみたいになってしまった。


 そしてもう、誰も被害者にならない様に、いつまでも何処までもこの本が届く様に。

 ノンフィクションファンタジー作家として、外国で高校を回りながら宣伝し続けている。


『この高校の皆はもう知ってるかな、セント・リトルエンジェル島の話を』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る