【1枚羽根と御使い】 4月27日より。

【1枚羽根と御使い】


 居眠りをして、天界から転がり落ちた御使いが居ました。

 初めて地上を見た御使いは、余りに珍しい物に溢れている地上が楽しくて、天界へ戻ろうとはしませんでした。


 魔女、雷の神様、そして魔法使い。

 天界には無かった魔道具、そしてキラキラ光る綺麗な羽根を持った妖精達。


 それからはずっと森の中で妖精達と楽しく暮らしていました、春が過ぎ、夏が過ぎ、秋になる頃、妖精達は御使いの事を心配し始めました。

 この森の冬はとても厳しいもので、時には獣が人間を襲う事があるからです。

 そうして1人の妖精が御使いに提案します。


《後で素敵なプレゼントを渡すから、それを売って冬は村で暮らして頂戴ね》


 御使いは言われるがまま他の妖精が運んで来た、ピンク色のグラデーションが美しい羽根、真っ白い羽根、そしてオレンジ色の羽根を3枚受け取り、村へと向かいました。


 古道具屋に持って行きますが、キチンと揃ってないから安いお金でしか買い取れないと言われ、冬を越せるかどうかのお金と交換しました。


 そうして空き家や仕事を探していると、1人の村人に村の集会場を使っても良いと教えて貰いました。

 冬の間だけ、御使いはその村の集会場に住まわせて貰う事になりました。

 そこでお掃除やお料理をしたりと過ごしていると、村長がやって来ました。


「お金が無いなら、古道具屋に売った綺麗な羽根を森に貰いに行こう」


 食べる物にも困っていた御使いは、直ぐに返事をしました。


 枯れ葉舞う森へと、村長と共に入ります。

 そうして久し振りに会う妖精に挨拶していると、目の前で妖精が村長によって捕まえられ、羽根を捥がれてしまいました。

 怒った御使いは村長を殴り、捥がれた妖精の羽根を手に森を逃げ出しました。


 それから川を越え、山を越え、海を越えて、すっかり疲れ果てた頃。

 妖精の国がある事を知りました。

 隣の国の深い森の中、妖精は女王と共に幸せに暮らしていると。


 御使いは妖精の女王なら、妖精を甦らせてくれるのではないかと思い、妖精の国へと向かいます。


 また海を越え山を越え、そうして真冬を迎えた頃、ようやく妖精の国へと辿り着きました。

 そして女王の前に羽根を差し出し、御使いは言いました。


「どうかお願いします、妖精を甦らせて下さい」


 すると女王はニッコリ微笑んで頷くと、妖精の羽根を粉々に砕きました。

 御使いは怒りましたが、女王が話します。


《妖精の羽根を砕かねば、甦らせる事は不可能なのです》


 そう言って、指を指した先にある綺麗な花から、死んだ筈の妖精が生まれました。


 御使いは喜んでその妖精に話し掛けますが、妖精は答えません。

 そして代わりに女王が答えます。


《死んだ時の記憶は有りません、そして死んだ理由に関する事も、全て記憶から消えるのです》


 同じ様な死を迎えない為に、妖精の記憶が消えてしまう。

 そう教えられた御使いは、かつて妖精達と暮らした森へと向かいます。


 村の人間に狩られてしまうのを阻止する為、海や山を越えて行きました。


 そして秋の終わりが近付く頃、ようやく妖精の森へ到着しましたが、妖精達は何処にも居ません。

 もしやと思い村へ行くと、すっかり綺麗になった村の古道具屋に、見知った妖精達の羽根が飾られていました。


 怖くなった御使いは、再び森へと逃げ出します。


 悲しみの中、妖精達のお墓を作っていると、見覚えのある羽根を持った妖精達が近付いて来ました。


 他の妖精が危ないから近付かない様にと言っていた、その花の妖精達でした。

 ピンクのグラデーションの羽根、真っ白い羽根、そしてオレンジ色の羽根を持つ妖精達。

 その羽根は1枚づつしか無く、3人の妖精は支え合いながら飛んで来ました。


 まだ生き残っている妖精は自分達の花に隠れているけれど、逃げるにはオーロラの力が無くてはいけない、そして大勢で飛ばなくてはいけないのだと。


 だからこそ、村にある全ての羽根を砕いて欲しいとお願いしました。

 御使いは頷くと、真夜中の村へと戻ります。


 そして以前に自分が住んでいた集会場へと火を放ち。


 火事だー!火事だー!と叫びました。

 村中の人間を起こし集会場へ向かわせ、自分は古道具屋へと向かい、ガラス窓を割り、妖精の羽根を砕いていきます。


 何枚も、何枚も。

 犠牲になった沢山の妖精に謝りながら、沢山涙を流しながら、妖精の羽根を砕きました。


 そうしてオーロラが妖精達を運ぶ夜空を見ていると、砕いた妖精の羽根と数が合いません。


 きっと、何処か遠くへ売られてしまったのです。


 御使いは残った妖精の羽根を探しに、羽根の欠けた3人の妖精と、今でも花と共に旅を続けているのです。

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