第24話 買い物とスライム

 「ペルーサ君、ちゃんとお金は持ってきた?」


 「はい……」


 「とりあえず武器屋に行ってみましょうか」


 「なにか良い訓練用のアイテムはあるかな?」


 僕、グリンダさん、オリビアさんの3人は街へ買い物に来ている。


僕が壊したグリンダさんの杖とオリビアさんの訓練用のマシーンを買いに来た。




 「いらっしゃい。お、グリンダか! 久しぶりだな」


 「こんにちは店長」


 「お知り合いですか?」


 「ええ。いつもここで道具を買ってるの」


 「今日は何を探してるんだ?」


 「実はね……」


 グリンダさんは壊れた杖を店長に見せる。




 「え? 割れちまったのかい?」


 「そうなのよ……誰かさんに蹴っ飛ばされて」


 グリンダさんが僕を睨み付ける。


 「いやぁ……」


 「アンタが蹴っ飛ばして壊したのかい? 信じられないね。この杖は良い木で作られた杖でなかなかの品だよ」


 「え? そうなんですか?」


 「そりゃ王宮魔法使いのグリンダが使うくらいの杖だからな」


 「へー……」


 (やっぱりグリンダさん結構スゴイ魔法使いなんだな。カノン様の護衛をするくらいだからな)


「そんな良い杖をペルーサ君は壊しちゃったのよ? 信じらんないわ!」


 「……でもあれはグリンダさんが本気でくるから……」




 「ん? ペルーサだって?」


 「はい?」


 店長が僕を見る。


 「アンタがペルーサかい? へー、ホントに子供じゃないか!」


 「あの、僕のこと知ってるんですか?」


 「最近この街じゃ話有名だよ! A級ダンジョンをバンバンクリアして裏切り者だったディランを倒して姫様を守った英雄だって」


 「すごいじゃないペルーサ君! さすが私の師匠だわ」


 「ははは……」


 「それで店長、今日はもっといい杖を探してるのよ! なにかあるかしら?」


 「お! それならちょうどいい杖があるぞ!」




 店長はお店の奥から1本の杖を持ってきた。


 「これは伝説の木ハイぺリオンから作られた杖だ! なかなか入ってこない逸品だぞ?」


 見るからに高そうな杖が出てきた……




 「きゃーー! 良い杖ね! 高級感が素晴らしいわ! ペルーサ君!これにするわ!」


 「……おいくらですか?」


 「これは100万Dだ!」


 「ひゃ、100万!?」


 「ありがとうね! ペルーサ君!」


 (100万!? ゴーレムを倒した報奨金で足りないことはないけど……)




 「お、なんだ? グリンダが買うんじゃないのか?」


 「ふふ、今日はペルーサ君に買ってもらうのよ!」


 「かーっ! 若い男に貢がせるなんて悪い女だねー」


 「ふふ、ホントに悪いのはペルーサ君だからね」


 グリンダさんが僕を睨み付ける。


 「わ、分かりました。買いましょう……」


 「きゃーー! ありがとう!」


 僕に抱き着くグリンダさん。




 「……よく分からんが英雄も大変なんだな」


 店長は憐れむような目で僕を見る……




 「そっちの女剣士さんは何を探してるんだ?」


 「ん? 私はなにか訓練の役に立つようなアイテムがあればと思っているのだが」


 「ほう! それなら面白いアイテムがあるぞ?」




 店長は4本の輪っかを持ってきた。


 「これは?」


 「これはウエイトリングと言ってね、手足に輪っかを付けてその辺の剣で素振りしてごらん」


 言われた通り両手両足にウエイトリングをつけるオリビアさん。


 お店の剣で素振りを始める。


 『ブン! ブン!』


 「……特に変わりは無いようだが……ん!?」


 突然、オリビアさんの素振りのスピードが遅くなる。


 「おお! なるほど! このリングがだんだん重くなっていくんだな?」


 「そうだ! 最大100キロくらいまで重くなるぞ?」


 「気に入った! ペルーサ! これにするよ!」


 「……店長、これはおいくらで?」


 「これは30万Dだよ」


 (30万か……なんだろう? 高いけど安いな……麻痺してきてるぞ)


「じゃあ杖とウエイトリングをください……」


 僕は報奨金の封筒からお金を支払う。あんなにパンパンだった封筒がすっかり薄くなってしまった……




 「お買い上げありがとう! 最近なかなか売り上げが悪くてね、助かるよ」


 「あら? 武器売れてないの? そういえばいつももっと混んでる気もするけど」


 確かに客は僕ら3人だけだ。


 「いやー武器は売れるんだけどね、最近ガラの悪い男がこの辺の店によく来るせいでお客さんが減っちゃってね……」


 「まあ! ひどいわね! どんな男なの?」


 「買った武器が壊れたから交換しろとか怒鳴って来てね。クレーマーだよ」


 「そうなんですか……」




 『ガラガラ』


 「おい親父! 買ったばっかりの剣がもう壊れたぞ? 返品してくれ!」


 「あー! あいつだよ」


 「どうなんてんだよ? もうこんなに剣がボロボロだぞ?」


 「どうなってんだって……どんな無茶な使い方してるんだお前は!」




 「ちょっとあなた? クレームはやめてもらえるかしら?」


 グリンダさんが男に怒り出す。


 「なんだこの生意気な姉ちゃんは? お、なかなか可愛いじゃねぇか! 彼女にしてやろうか?」


 (……どこかで聞いたことある声だな……)


 「私が……あんたみたいなゴリラの彼女!? 冗談じゃないわよ!」


 グリンダさんは男に杖を構える。


 「ちょ、ちょっとグリンダさん! こんなところで魔法なんてダメですよ!」


 「離して! ペルーサ君!」


 「!! ぺ、ペルーサ!?」


 「え?……お、お前はゴンザレス!?」


 なんと、街で暴れまわっているクレーマーはゴーレムのダンジョンで僕を置き去りにしたゴンザレスであった。




 「てめぇ! 病院でも散々な目に会わせてくれたな!」


 「ああ、入院してた迷惑な男か」


 オリビアさんも思い出したようだ。




 「なに? このゴリラはペルーサ君のお友達なの?」


 「いえ……むしろ真逆ですね」


 「そう、なら遠慮はいらないわね」




 ――召還魔法――


 グリンダさんはスライムを召還した。


 「スライムだと? なめやがって!」


 ゴンザレスは次々とスライムに殴り粉々にする。




 「ペルーサ! てめぇにはやり返してぇと思ってたんだ! いつも巨乳の良い女ばっかり連れて偉そうにしやがって!」


 「まあ! 良い女ですって?」


 少し嬉しそうなグリンダさん……


 「覚悟しろ! ペルーサ!」


 ゴンザレスは僕に向かってくる。




 「ペルーサ君、あのゴリラを店の外に吹き飛ばせるかしら?」


 「? はい」




 ――風魔法――


 「ぐっ!」


 ゴンザレスは店を外に吹き飛ばす。


 「きたねぇぞ! 勝負しやがれ!」


 大声で叫ぶゴンザレス。辺りには大勢の人が集まってくる。




 「もういいわペルーサ君。ああいう馬鹿はね、街から出て行ってもらわないと解決しないのよ」


 「は、はぁ……」




 「ペルーサ! 出てこい!」


 その時、ゴンザレスの服が溶けていく。


 「な、なんだぁ!?」




 「なるほど、そういうことか……」


 何かを思い出したかのように恥ずかしがるオリビアさん。


 「そうよ。さっき殴ったスライムの体液が体にかかってるの」




 あっという間に集まった民衆の前で裸になるゴンザレス。


 「ひーーどうなってんるんだ!?」


 「あらあら、ゴリラみたいな体なのに貧相なアソコなのね」


 「ちくしょーー」


 股間を隠しながら街の外へ逃げていく。




 「ふふ、これでもうこの街には寄り付かないでしょ?」


 「恐ろしいことしますね……」




 「いやー助かったよ! あの男には街の人がみんな困ってたんだ」


 「またあのゴリラが来たら呼んでちょうだい」


 「……グリンダさん、楽しんでませんか?」


 「ふふ、ペルーサ君にもいつかスライムと戦ってもらうわね」


 「勘弁してくださいよ……」







 武器屋の店長に感謝され店を出る。


 「ありがとうね! ペルーサ君」


 「ありがとうな! 大事に使うよ!」


 グリンダさんもオリビアさんも気に入ったアイテムが買えて満足のようだ。


 「気に入ってくれてよかったです。カノン様には一緒に住んでたこと黙っててくださいよ? それと早く引っ越しお願いしますね」


 「あら、冷たいわね! 分かってるわよ! でも杖のお礼しなきゃね」


 おもむろに胸のボタンを外しだすグリンダさん。




 「もうお礼はいいですから! どうせまたお礼の分の口止め料を取る気でしょ!?」


 「あら、バレてるのね」


 「いい加減にしろ! グリンダ」


 オリビアさんに怒られるグリンダさん。




 とりあえず2人の引っ越しまでこのまま平穏に過ぎてほしいな……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る