第15話 A級ダンジョンと目玉

「嬉しいよ。ペルーサとダンジョンへ行くことができて」


 薄気味悪い笑顔のディラン。




 「これから行くダンジョンはどんなダンジョンなんですか?」


 「A級ダンジョン【黒い瞳の洞窟】だよ」


 「A級ですか……」


 「まあゴーレムを倒したペルーサにオリビアもいるんだ。大丈夫だよ。別にダンジョンの攻略が目的じゃない。ペルーサの腕前を確かめたくてね」


 (相変わらず僕を怪しんでいる。監視されていると思った方がいいな)




「むやみにディランの前では力を使わないようにしろよ」


 オリビアさんが耳打ちする。







ダンジョンに到着した。不気味な雰囲気のダンジョンだ。




僕らは洞窟に入る。魔獣の気配はそこら中に感じる。


僕たちはオリビアさんが先陣を切って進んでいく。


「気を付けてくださいね」


「ああ! これも訓練だよ!」




さっそく、魔獣がオリビアさんに襲い掛かる。


「はぁっ!!」


 次々と魔獣を斬っていくオリビアさん。実戦を見るのは初めてだが流石の腕前だ。


 「ペルーサ! できるだけ私が魔獣を倒す。逃がした魔獣は後ろからサポートしてくれ!」


 「はい!」


 今日のオリビアさんは気合が入っているようだ。ほとんど1人で魔獣を斬り伏せていく。


 たまに斬り損ねた魔獣は僕が魔法で倒す。


 ……あまり魔獣は強くないな。これならディランに監視されても上手く切り抜けられるか?


ディランは後ろから不満そうに僕らを監視している。










 オリビアさんの活躍もあり、ダンジョンに入って数時間でボスの間の近くまで来た。


 「はぁはぁ、おお。もうボスの間じゃないか?」


 「そうですね……」


 (おかしい? いくらオリビアさんが強いとは言え、A級の魔獣がここまで弱いかな?)




 ゴーレムのダンジョンはボスの間まで数週間かかった。魔獣ももっと強かった気がするが?




「不思議そうだなペルーサ」


 僕の心を見透かしたようにディランがつぶやく。


 「ダンジョンのランクはな、魔獣の強さだったり、ダンジョンの長さ、ボスの強さなんかできるんだよ」


 「……ということは、、ここのボスは相当強いってことか……?」


 「そうだねぇ、よかったよ。あまりに魔獣が弱くて全然ペルーサの本気が見れてないからさ」


 不敵な笑みのディラン。




 「さあ、この勢いでボスも狩るとするか」


 「待ってオリビアさん!!」


オリビアさんを静止し、ボスがゴーレムより強いレベルかもしれないと話した。




「……そうだろうな。私も調査団だ。それは感じていたよ。じゃなきゃ私の剣がA級ダンジョンの魔獣に簡単には通用しないよ」


 少し寂しそうなオリビアさん、余計なことを言ってしまったな……




 「だからペルーサ! ここのボスも私1人で戦わせてくれないか?」


 「えぇ!?」


 「もちろん簡単に倒せるボスじゃないだろう。すまないが危なくなったら助けてくれよ?」


 「わかりました……無理しないでくださいよ」


 「というわけだ。ディランも分かったな?」


 「ええ。私はなんでも構いませんよ」


 (……)







 僕らはボスの間へ入る。




部屋の中央には巨大な真っ黒な鬼のような姿をした魔獣がいる。魔獣【黒い瞳】だ。


 禍々しいオーラを漂わせている。




 「それじゃ手出しは無用だからな」


オリビアさんはそう言い、剣を抜いた。




 黒い瞳と距離をとり睨み付けるオリビアさん。


 全身が真っ黒でどこを見ているのかも分からない。




 オリビアさんが一気に駆け寄り斬りかかる。


 「はぁっっ!!」




(よし! オリビアさんの得意な形だ。これは決まる)




 その時、黒い瞳の全身に目玉が現れた。




 「なにっ!?」


黒い瞳は斬撃を受け止める。




(どうして? 一瞬オリビアさんの剣のスピードが鈍ったような?)




黒い瞳はオリビアさんを掴む。片手でオリビアさんの体を握りつぶすほどの強大な手だ。




「ぐわあああ」




 「オリビアさん!」


 僕はとっさに炎魔法を放つ。


「グオォォォ」


炎に燃える黒い瞳はオリビアさんを手放し、部屋の奥下がっていく。




 「オリビアさん! 大丈夫ですか?」


 「……ああ、すまない。偉そうなことを言っておきながらすぐ助けてもらうなんて……」


 悔しそうなオリビアさん。




 「もう一回……私にやらせてくれ」


 「でも……」


 「1つ分かったんだ。あの魔獣の全身に目玉が出てくるとこちらの視力が奪われるようだ」




 (なるほど……それで斬撃が鈍ったのか)




「視力がなくなるのは一瞬だ。分かってさえいれば対処できる」




オリビアさんは再び剣を構える。次の一撃が限界だろう。


 「はぁっっ!! くらえっ!」


 斬りかかるオリビアさんに黒の瞳はすかさず目玉を出し、視力を奪う。


 (またか……)


 しかし、オリビアさんはいつものように軽やかに舞う。何千回も訓練してきた動作だ。


 オリビアさんは迷うことなく剣を振り下ろす。




 「うおぉぉぉ」




 剣が黒い瞳の目玉に突き刺さる。


 (いける!) そう思った瞬間、




 『パリンッ』




オリビアさんの剣が砕けた。


 視力を奪われ何が起こったのか理解していないオリビアさん。


怒り狂った黒い瞳は殴りかかる。


 「ぐわぁあ」




 「くっ!」


 【瞬間移動】


僕は瞬間移動でオリビアさんを抱えながら部屋の中で逃げ回るがすぐに黒い瞳に追いつめられる。




 【シールド魔法】


 盾を出し魔獣の攻撃を抑える。


 ぐったりとしたオリビアさんに回復魔法をかける。


 「大丈夫ですか? オリビアさん!」


 「うぅ、すまない」


 「あいつを倒したらちゃんと回復魔法をかけます。とりあえずここでおとなしくしててください」




 僕はオリビアさんから離れ、黒い瞳に攻撃する。




 【炎魔法】


 さっきはあまり効かなかったが足止めくらいにはなるだろう。


 【雷魔法】


 電撃を飛ばし攻撃する。


 あまり効果はないようだ。


 (くそ! 魔法が効かない魔獣なのか?)




 それなら……【肉体強化】


 僕は全身を強化し黒い瞳に殴りかかる。




 「危ない!」


 オリビアさんが叫ぶ。


 その瞬間、黒い瞳の全身に目玉が浮かび上がる。




 「! しまった!」


 うっかりしていた。あれだけオリビアさんがやられるのを見ていたのに……




 僕は視力を奪われた。こうなっては攻撃できない。。


 立ちすくむ僕を掴む黒い瞳。


 「ぐあぁぁ」


 肉体強化のおかげでなんとか握り潰されずにすんだ。




 (どうする……目玉が出てるうちは近づけないのか……まてよ? 目玉?)


 僕はイチかバチかの賭けに出る。




 「おい、、黒い瞳……その目玉でしっかり見てろよ……」




 【光魔法】




 僕は自分自身を光魔法で強烈な発光をさせた。




 「ギャーーーー」




黒い瞳はうめき声をあげている。無数の目玉でこの光を見てしまったのだ。眩しくてしょうがないはずだ。




 黒い瞳は堪らず目玉を閉じる。


 僕の視力も元に戻った。




 (よし! 今しかチャンスはない!)




 【肉体強化・全力】


 体を抑えている黒い瞳の指を吹き飛ばした。


 僕はすかさず殴りかかる。


 「うおぉぉお」


 強烈なパンチを黒い瞳の顔面に叩きこむ。




 「ギャーーーー」




顔面を砕かれ、黒い瞳は倒れて動かなくなった。そして全身が煙のように消えていく。








 「はぁはぁ、よし、倒せた……」




 「すごい……よくやったペルーサ!」


 オリビアさんも無事のようだ。




 黒い瞳は消え去り、宝玉が落ちていた。


 これがこのダンジョンの宝物か?




 「いやーお見事!」


 拍手をしながらディランが近づいてくる。




 「……あなたはなんであんな状況でも助けてくれなかったんですか?」


 僕を怒りをあらわにディランに言う。




 「すごいよペルーサ。ゴーレムを倒したのは間違いないだろう。疑ってすまなかった」




 こんな時でもニヤニヤ笑うディラン。




 「なあペルーサ。俺たちの……いや、デーモン様の仲間に入らないか?」




 「えっ!?」


 呆然とする僕。やはりディランは敵だった。


それもカノン様に呪いをかけたデーモンの仲間?




 すんなりこのダンジョンを脱出できそうにはない。

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