第36話 2人のコーディネート対決


「どう? お兄ちゃん」


 みなみとななえの二人が、お出かけの準備を終えてリビングに入ってきた。


「やっと終わったか」


 おれはそう言いながら振り返る。


 30分以上前に準備を終えていたおれは待ちくたびれていたわけだが、二人の姿を見てそんな不満も吹き飛んだ。


「あっ、か……」


 二人の可愛さに、言葉を失った。


 みなみはいつもと違う系統の洋服を着ており、なんだか女子大生のようにも見える大人びたスタイルだった。ななえがプロデュースしたのだろうか。


「ふふん! ななえさんからお洋服借りたんだ〜。どうかな?」


「いや、ああ、かわいいぞ。とっても。似合ってる」


 おれは多少テンパりながらも言葉をつむいだ。


「へへへ、ありがとっ! お兄ちゃん」


 ななえの方も今まで見た私服とは違って、ハイブランドのような高級な服だが嫌味な感じは一切ない。

 こちらも普段の制服姿からも想像できないような、非常に可憐な仕上がりだった。いや、普段も相当かわいいんだけども。


「ゆうだい。アタシはどうなの?」


「ああ、とってもかわいいぞ。うん、ビックリした」


 ななえはその体についた大きなマシュマロを強調するような服を着ていたので、おれの目は結局そこに釘付けになっていた。ビックリだ。


「お兄ちゃん!」


 みなみの釘を刺すような言葉が飛んでくる。


 午前11時くらいに家を出て、駅前の商業施設に向かった。




 おれたちが向かったのは、この地域のターミナル駅と一体化している大きなビルで、ファッション、グルメ、おみやげなどの専門店が立ち並ぶ中心地だ。


 おれたちがビルの中を三人で歩いていると、同世代のやつらの視線を感じた。特に男の視線が気になるのはおれが男だからだろうか。


 おれの両隣に並び立つ2人の女の子を交互にチラチラと見るような男たちの視線がすごく気になった。


 ななえは、言わずもがなファッションモデルとしても活躍しており、男女ともに注目を集めている。


 みなみは、ななえがコーディネートした大人びた服を着ているせいか、中学生には見えない風貌であり、ななえに引けを取らないくらい目立っている。


 この中でおれだけが、少し場違いな風貌をしているのかもしれない。黒のTシャツにベージュの綿パンというスタイルだった。




 エレベーターが止まったのはメンズファッションのフロアだった。


「おにいちゃん、買い物するよ!」


「えっ」


「ななえさんと話してたんだよ。お兄ちゃんの洋服を選ぼうって」


「どういうこと?」


 ななえが割って入ってきた。


「ゆうだいって絶対モード系が似合うと思うんだよね、アタシはさ!」


「モード系……はぁ」


 どんな服装だろう。ファッションのことに疎いおれはイマイチぴんときていない。


「いやいや! 絶対キレイめだって!」


 今度はみなみが声を上げる。


 キレイめってなんだ? オシャレっぽい服だというのはわかるが、モード系との区別がつかない。


「ゆうだいはモード系だよね!?」


「お兄ちゃんはキレイめで決まりなの!」


 二人が何かおれのファッションを巡って争っているのはわかった。


 ということで、二人がそれぞれおれの洋服を選んでくれることになったのだ。




 それから2時間ほど、3人で様々なお店を周り、おれはたくさんの服を試着させられた。


「ゆうだい、スタイルいいからなんでも似合うね。オシャレしないのもったいないよ」


 ななえがそう言って、褒めてくれる。


「そうか?」


 スタイルと言われても自分ではよくわからない。


「お兄ちゃん! 今度はこっちの店!」


「ああ、わかったよ……」


 結局、フロア内のほとんどの店を周り、その中からそれぞれが選んでくれたコーティネート一式を2セット購入した。


「なんでどっちも買うの!? 気に入った方を選んでよ!」


 と言って、みなみがぶーたれている。


「そんな、選べないよ。どっちも気に入ったんだ」


 みなみが選んでくれたキレイめな方は、普段着としても全然着れるくらいのカジュアルさもあった。


 一方で、ななえが選んでくれたモード系の方は、場所によっては気合が入りすぎていて不自然になるくらいに、パリッと引き締まった感じだ。


「モード系なんて、そんなカッチリした服はお兄ちゃん似合わないと思うなー」


 みなみが、ななえに聞こえるように、わざと声を張り上げて言う。


「そうかなあ? 本当にカッコいいオシャレ男子なら不自然じゃないけどなー」


 ななえはそう言って、反論した。


「なあ、遅くなったけど、そろそろ昼食にしないか?」


 ずっと洋服選びで腹ペコだったおれは、そう提案した。その場の流れを変えたいという気持ちもあった。時刻は14時を過ぎていた。

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