第31話 クラスの注目の的になる
「おっはよー」
教室に元気に入ってくるななえの姿を見て、教室中が一瞬静まり返る。
「えっ、如月さん!」
「お、おはよー、如月さん」
「もう大丈夫なの?」
女子たちが口々に心配しながら、ななえに駆け寄っている。
「ぜーんぜん、大丈夫だよ。みんなー! 心配してくれてありがとっ!」
おれには、ななえが空元気に振る舞っているように見えた。
席に向かって歩いてくるななえと目があった。すると次の瞬間ななえは驚きの言葉を口にする。
「ゆうだい! おっはよー!」
教室で下の名前を呼ばれておれはビックリした。
「お、おは……っておい!」
「アハハッ! いいじゃん別にぃ」
教室中がざわついた。
ななえが特定の男子を下の名前で呼ぶことはない。というか男子に個別に話しかけることも今までなかったことなのだから。
前の席に座っている、茶髪の陽キャが振り返っておれとななえを交互に見てくる。えーっとたしか、彼は一ノ瀬くん。
そして、教室のあちこちから声が聞こえてくる。
「え、如月さん、アイツと仲いいの?」
「誰だっけ、しの……みやくんだっけ?」
「隣同士になって急接近?」
教室を見回すと、主に女子たちからは羨望の眼差しを向けられて、男子たちからは敵意のこもった視線を向けられている。気がする。
「如月さん、教室では名字で……」
「いいじゃん、だって呼びたいんだもん。ゆうだい!」
おれとななえのことを見ていた一ノ瀬くんは、不機嫌そうな顔になり前を向いてしまった。
「大丈夫なの? 学校きても」
「別に体はなんともないからねー。昨日ごめんね。警察の話が終わったあと、すぐに親が迎えにきて連れてかれちゃった。こっぴどく叱られたよ」
「親に? いろいろ言われた?」
詳しく話を聞きたかったが、昨夜のニュースの興奮を抑えきれないクラスメイトたちが、ななえの元に集まってきてしまい話は中断された。
「ねーねー、如月さん!
「ネット記事に書いてあることどこまでホント?」
クラスの女子たちが気になっているのは、ストーカーの侵入事件ではなく、ジョニーズアイドルの家族バレスキャンダルのほうだった。
「ごめ〜ん、ノーコメントでー!」
ななえはハッキリとは言わずにバツが悪そうに両手を合わせている。おいおい肯定するわけにいかないだろうが、否定もしないのは逆効果だぞ。
「ノーコメントってことはやっぱり!?」
「きゃ〜! スゴーイ! 美男美女兄妹じゃん、やっばぁ!」
「あんまり、言わないで! ホントに! あとサインとかもムリなの。ごめんね……」
「うんうん、私たちは如月さんの味方だからね!」
「ねーね。如月さん。ストーカーの犯人逮捕した高校生って誰? ネットでは男子高校生って書いてあったけど」
ななえは答えづらそうに一瞬黙ってしまった。そして横目でおれをチラッと見てきた。
すると、嫌でも女子たちの注目はななえの視線の先にあるおれに向かう。
おれは傍観者を決め込んで見ているつもりだったが、なんと女子たちの話題の矛先はおれにも向けられてきた。
「えー! もしかして、四宮くん! ウッソでしょ?」
「スゴーイ! どうやったの! なんでなんで!?」
「いや、おれは……」
「ゆうだいが助けてくれたんだよ。だからアタシの命の恩人!」
ななえがそう言うと、いっそうみんなからの追求が激しくなる。
「ガチですっごいじゃん!」
「くわしく教えて教えて!」
おれとななえの席の周りには、いつのまにかクラスメイトたちの人だかりができていた。
まずい。なぜか注目を集めてしまっているようだ。このままじゃおれの平穏な高校生活が苦難なものになってしまう。
結局みんなには、事件のことはざっくりとしか説明しなかった。犯人が向かってきたところをなんとか組み倒して抑え込んだ、というような感じだ。
犯人のことは本当によく知らないし、ナイフを出して奇声を上げていたなんて言うと刺激が強すぎると思ったからだ。
学校が終わって、おれとななえはいっしょに帰っていた。
ななえはいやに大きな荷物を背負っている。今日そんなに持ち帰らないといけない教科書あったかな。
「刑事さんに言われたんだけどさ」
「うん、うん?」
ななえとはさっきまで学校のことを話していたが、唐突に事件のことを喋りだした。
「あの犯人さ、アタシがリンスタにあげた動画から部屋を特定したみたい」
「マジ?」
「うん、窓から東京スターツリーがバッチリ写ってたから余裕で特定できるだろうって。刑事さんに今後は投稿する時は注意するようにって言われた。親にもさんざん言われちゃった」
「そっかー……、大変だったな」
「うん、昨日はそれでいっぱいいっぱいでLIME返せなくてごめんね。心配してくれてありがと」
「いや……うん。心配だった」
「でもホント、かっこよかったよ。ゆうだい」
「えっ?」
「犯人と戦ってくれて嬉しかった。壁壊したのはちょっと引いたけどねー」
ななえはそう言って笑った。
「あの時はもう夢中だったよ。壁が薄くてちょうどよかったって感じ。あれって結局請求されるのかな? なんか言われた?」
「親が言ってたけど、マンションが入ってる保険で直すだろうから心配しなくていいってさ。そういえば、お父さん。ゆうだいにもお礼がしたいって言ってたかな」
「え、お父さんが?」
「うん。お父さん、今度会ってくれる?」
「ええぇ! それは……なんか緊張するな……」
「なんで? ただ会うだけじゃん。それよりさ……」
「ん?」
「今日、ゆうだいの家にいっていい?♡」
「へっ?」
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