第11話 美波かなたの身バレ
「雄大、昨日はごちそうさまでした。お前、みなみちゃんと本当に仲良いんだな。羨ましいぜ」
次の日、おれはマサヒロと食堂で昼飯を食っていた。
「みなみも晩ごはん美味そうに食ってくれて喜んでたぜ。また呼んでくれってさ」
「ホ、ホントか! それってあれか? フラグってやつか?」
「お前、人の妹をどんな目でみてんだよ」
「冗談だよ」
「隣、いいかしら?」
急に女性の声が割り込んできて、おれとマサヒロは絶句した。そこには如月さんが昼食を持って立っていた。
「えっ、ど、どうぞ」
「どうも」
如月さんは、マサヒロと向かい合わせに座っているおれの隣に腰を降ろしてきた。ただイスに座っただけだが、彼女の動作はとても美しかった。
「中川くんだっけ? 四宮くんと仲良いんだ?」
「あ、あああうんうん!」
マサヒロは挙動不審気味にそう答える。名前を覚えてもらっていて嬉しいのかもしれない。
如月さんは、「へえ〜」と言っておれの顔を見てくる。
おれは「まあ……」とだけ答える。
なぜに、このテーブルに座るのか。
陰キャ男子二人と、とびっきりの美少女が同じテーブルを囲んでいる状況だ。なんだか周囲の生徒たちの視線を感じる気がする。
「二人は、共通の趣味とかあるの?」
会話の主導権を自然に持っていかれたおれとマサヒロは、お見合いのごとく聞かれたことに答える。
「アニメと、マンガかなー。アハハ、如月さんは今期は何見てる?」
空気の読めないアニメオタクは、当然のように如月さんにアニメの話題をふる。
「え、今季? ごめん、どゆこと?」
マサヒロ、よくないぞ。言葉というのは相手に伝えるためのものだ。
「はは、気にしないで。如月さんは趣味とかあるの?」
おれは、如月さんの話を聞く方向に持っていこうとした。おれたちの趣味を掘り下げられたところで何ら生産性はない。
「うーん、最近は配信アプリとかよく見てるかなー。ライバースクエアってアプリわかる? そのアプリ使えば誰でもVtuberになって配信できるんだよね」
おれは、一瞬ドキッとした。まさか如月さんからその単語が出てくるとは思わなかったからだ。
妹のみなみが利用しているのが、まさにライバースクエアというアプリだった。
「俺も知ってるよ。流行ってるよね。たまに見てるし。雄大は?」
マサヒロも知ってるのか。というか見ているのか。
「おれは、そんなに見ないかなー。如月さんスポーツとかやるの?」
おれは、ムリヤリ話題を転換させた。
みなみがアプリでVtuberをやっている手前、身バレを恐れてこの手の話題は避けたいところだった。
しかし、如月さんは思ってもみない返しをしてきた。
「美波かなた、って知ってる?」
「ブホッ!」
おれは、飲んでいた味噌汁を噴き出しそうになった。
突然、聞き覚えのあるその名前が出たことにおれは焦りしかなかった。しかし、ここで
「えっ、なんて?」
頼む。聞き間違いであってくれ。
「
ダメだ。如月さんは、今度もハッキリとそう言った。
「俺も知ってるよ。美波かなた。配信頻度は少なめだけど、けっこう人気になってるよね。ランキングも上位だし」
まさかのマサヒロも知っていたことに驚いた。
「い、い、いや、そんな有名なの? おれは知らないけど」
おれは、動揺しまくりながら誤魔化した。
如月さんは、おれの目を見つめてくる。
え、なんか疑われてる?
「知らないかな? まあ有名なのはその界隈だけだよね。YouTubeとかなら別だけど、ライブアプリだし、個人でやってる子だから」
如月さんがそう言うと、マサヒロもうんうんと頷いている。
「よかったら今度見てみて、二次元のアバターの仕草が可愛くってね。四宮くんもそーゆーのけっこう好きなんじゃない?」
「う、うん、わかった」
放課後、マサヒロは今日は用事があるということで、おれは一人で帰っていた。
まさか、マサヒロも如月さんもライバースクエアを見ていて、『美波かなた』のことを知っているとは驚いた。
世間は狭いというのはこのことだ。
「四宮くーん」
ふいに、後ろから声をかけられる。声の主はすぐにわかった。
如月さんだった。
「やっほ、方向一緒なんだね」
「そ、そうだね」
如月さんが追いかけてくるなんて、これは一体なんのフラグなんだろうと、身構えていると彼女は思いもよらない言葉を口にした。
「ね、四宮くん。美波かなたのことホントは知ってるんじゃない?」
「え、いや……」
彼女が、何か疑っているのは明白だった。
「この前カラオケで会ったじゃん? あの時、四宮くんが妹と話してるのちょっと聞いちゃったんだよねー。ドリンクバーのところでさ」
「あ、マジ……そうだったんだ……」
カラオケ屋で、みなみが『美波かなた』の話題を出した時、聞かれていたようだ。
そして、続けざまに彼女の発したことばで、おれはさらに動揺した。
「四宮くんの妹の名前って、確か『たなかみなみ』だったよね……逆から読むと……ね?」
間違いない。如月さんはおれの妹がVtuberであることを確信していた。
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