魔法少女マン 〜殺戮魔法少女転生伝綺〜 

山猫計

プロローグ

魔法少女マン

 夜の繁華街に咲く火炎の花。

 略奪者はすでに目的を終えて、気まぐれに大きな爆発を起こした。

 

 逃げ惑う人々の雪崩なだれに降り注ぐ光の線。一人一人が、倒れていく。再起する者はいない。

 

 弓の主であり略奪者でもある少女は雑居ビルの屋上から狙撃していた。コスプレみたいな大袈裟な格好で派手なピンク色のツインテール。端麗な顔立ちだが隙のないメイクとネイルは夜遊びに慣れてるだ。


 彼女は魔法少女である。


 魔法少女の掟——

 “誰にも見られないこと”

 ——ピンクの魔法少女は居合わせた者たちを口封じ皆殺しにすることでその掟を守っていた。


 「ほーら死ね死ね死ね死ね、ザーコ、ザーコ」


 空虚な眼差しで至って作業的に放たれる虐殺の矢。断末魔やうめき声の四重奏カルテットが繁華街の地獄を彩る。


 「こんなもんかな。欲しいもん大金もゲットしたし帰りやすかー」


 目撃者の後始末を終え、ホストに貢ぐ資金も調達したところでピンクの魔法少女は弓を粒子に変えた。


 仕上げにスマホのインカメで自撮りしてSNSにささっと送信。胸元をわざと開けた谷間ちょい見せの写真でいいねを稼ぐ。そして屋上から夜の中に飛び込もうとした時、


 「おい待てよ〜」


 不意に後ろから面白そうに言う声がした。

 

 目を白黒させるピンクの魔法少女。振り返ると十字状のアンテナに佇む人影。満月を背に気怠そうに腰を掛けていた。


 そいつは知らない魔法少女。白い衣装にマチルダカットの髪型。邪悪に笑って、肉食動物みたいな荒々しい気配を放つ。


 「おいピンク野郎、人殺しパーティーか〜? オレも混ぜてくれよな! それで、お前も殺していいんだよなぁ? ハハハハハハハハ!」


 歌うように言い、怪物みたいに笑う。


 「だ……誰オマエ」


 漂う粒子を弓に戻して、構えるピンクの魔法少女。照準に映るそいつは常に火花を放ち、薪を火に焚べたみたいな音を纏う。紫と赤色のオーラを発して、あまりにも禍々しい。


 ——ウチ……こいつに勝てんの……?


 照準が捉えきれない。弓を引く手は震えて、初めて“魔物”と対峙した時以上に怯えている自分がいる。


 制御出来ない呼吸の乱れ、眩暈みたいに揺れる視界、心臓が外に出てきそうな激しい鼓動。


 瞬きをした一瞬——


 そいつは満月から消えて、視界外から飛び出してきた。


 「え」


 人の形を被った化け物が牙を剥く。

 殴り、蹴り、アッパー、踊るような連撃が繰り出されピンクの魔法少女は夜空に打ち上げられた。


 その間に白い魔法少女は十字状のアンテナを掴んで彼女よりも高く跳ねた。満月と重なって逆光する姿はまるで巨大な十字架——


 そして、


 「ほら、お前のだぜ!!」


 宙にいるピンクの魔法少女目掛けて十字状のアンテナを勢いよく投下。垂直の黒い線が彼女の心臓を貫通し、身体とアンテナが繋がったまま屋上の床に突き刺さった。


 串刺しのピンクの魔法少女は仰向けでだらんとして、搾りカスみたいな息と血を吐いた。


 逆さに映る視界——下からスっと現れた純白の蝙蝠こうもり


 白い魔法少女は屋上を踏みしめるようにしてゆっくりと近づく。


 ピンクの魔法少女は虫のような声で何か言葉を発していた。聞き取れないからその青白い唇に白い魔法少女は耳を傾けて、最後の言葉を聞いてあげる。


 「……オマエ……ホントに……魔法少女……?」


 魔法少女たちがよく死に際に言ってくる言葉だ。その問いに白い魔法少女はニヤリと不気味な笑みを見せ、


 「それはこっちの台詞だぜぇ?」


 繁華街の死体の川を指差して言った。


 それからピンクの魔法少女の声は途絶えた。

 屍と変わり果て、アンテナの十字架が彼女の墓になった。


 夜風が白い魔法少女を撫でて、夕闇の色の髪がなびく。雑居ビルの屋上からこのどうしようもない世界を眺め、煙草を出せば自分の発する火花で先が灯った。吸い口を噛んで紫煙を燻らす。


 夜に溶けていく煙を見送り、立ち去ろうとした時、唐突に斜めから差す光の柱に照らされた。


 細くて白い腕をかざして顔をしかめる。眼を刺す白光に舌打ちをして、光の柱を目で辿ると隣の鉄塔から差していた。


 ——その頃、眩しそうにする白い魔法少女のが全国のテレビに生放送されていた。


 『みなさん! 今見えているのが、まことしやかにその存在が噂されている魔法少女です! 魔法少女が今映っております! 魔法少女は存在したのです!』


 迫真の顔の若い男性レポーターが鉄塔からLive中継。望遠レンズで撮られた白い魔法少女の姿と、彼女をバックに興奮気味の若いレポーターの映像が交互に映し出される。


 『そして先程繁華街で起きた爆発騒動、昨日起動した最新の衛星カメラの映像では少女が——なんとを使ったとの映像が確認されております! あちらの少女がその容疑者なのでしょうか!?』

 

 Live映像に映し出される白い魔法少女は暫くすると幽霊のように消えた。テレビの前の人々が食い入るようにその瞬間に驚愕する。


 一旦レポーター側の映像に戻ると、今度は顔がはっきりみえるくらいに白い魔法少女がそこにはいた。


 レポーターとのツーショット。レポーターは驚きのあまり泡を吹いて気絶。


 腰を抜かしながらもプロ根性でカメラを回すカメラマン。白い魔法少女はカメラの正面を鷲掴みにしてレンズいっぱいに顔を寄せた。


 「おい、全国の魔法少女に告げる! 耳の穴かっぽじってよ〜く聞け。お前ら全員ぶっ殺してやるからな。一人ずつ確実に。例え南極に逃げようと突き止めて息の根を止めてやる。待ってろよぉ!」


 画面いっぱいに映し出される邪悪な笑顔。


 腰の抜けたカメラマンが「き……君は一体?」と問うた。


 白い魔法少女はテレビの前の人々に言う——


「オレか? オレは報復の殺戮者、正義の魔法少女マンだ!」


 殴りつけるように、高らかに名乗った。



 


 ――三度目の世界大戦を経験し疲弊しきった世界。


 皮肉にも戦争と公害は“魔物”の力を弱め、影なる討伐者、魔法少女たちによってついに絶滅した。


 魔物狩りの使命を失くし、己が欲望の為に持て余した力を振るい始める魔法少女たち。


 彼女らの暴走は物理法則を捻じ曲げて、ゆっくりと世界を終焉へと導いていた。


 その中で微かな希望――或いは破滅が誕生した。


 ――名は魔法少女マン。


 彼女/彼は何者か。


 物語は魔法少女マンの誕生から開幕する――

 

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