手に入れたのは最弱ステータスと《おかしな》スキルだった。スキルを理解して現代ダンジョンの最前線を突っ走る!

水戸ミト

1章 冒険者に、俺はなる!

現代に現れた伏魔殿

まえがき

更新再開に伴い一話から読み直しながら加筆修正を加えています。

9/28 加筆修正、タイトル変更

―――――――――――――――――――― 


 現代における時代の転換点とは何なのか――


 その問いには世界中の学者が口を揃えてこう答えるだろう。

 世界に『ダンジョン』が出現したことだ、と。


 1999年12月31日の夜。

 いよいよ迫ったミレニアムイヤー2000年を前に日本中、いや世界中の人々が興奮の渦にあった。

 そして地球が2000年に変わった瞬間、具体的にはで2000年を迎えた瞬間だった。


 世界中をに地震が襲った。

 さながら地球そのものが揺れるがごとく。いや、それは比喩でもなんでもない。その瞬間、間違いなく地球という世界そのものが揺れたのだ。


 震度でいえば『4』相当のそれなりに大きな地震。地震大国と言われる日本にとっては多少大きいな程度の規模だった。

 しかしこの地震は世界中を襲ったのだ。それはもちろん普段は地震なんかと縁のない地域も含めて世界中を。


 震度1程度の地震すら珍しい地域などでは、その未体験の衝撃に『神の怒りだ!』『世界の終わりだ!』などなど本気で世界の終末の訪れを考えた人もいたほど。

 一方、他国からの攻撃か!? と警戒した国もあった。どこかの国が核ミサイルを発射していよいよ戦争が始まるのかと身構えた人々もいた。


 しかしながら、そんな人々の予想予感は悉く外れた。


 何故ならそれは、神罰でもミサイルによる爆撃でもなく――地上に現れたが原因であることが分かったから。


 その土地に住む人々のことなど一切無視して現れたそれらを、当時の国々は破壊しようとした。

 交通の妨げ、周辺住民の嘆願、様々な理由はあったがそんな用途不明な怪しい建造物をお優しく残しておく必要も無い。

 そして人の手による解体、重機による解体、果ては爆弾、爆撃による破壊という手段も取られた。


 しかし、その建造物たちは壊される事はなかった。

 

 それどころか、外部からどんな攻撃を加えようとも傷一つつけることすら出来なかったのだ。

 中には反応兵器を用いた国もあったが、それは徒に人の住めない地域を作りこそすれ建造物の破壊には至らなかった。


 そこでようやく外部からの破壊を諦めた国々は、今度は内部の調査に乗り出した。


 そうして分かったこと。それは――


 『建造物の中は怪物モンスターたちの巣窟であった』


 という事実だった。


 政府が隠そうとしたその情報は、建造物内に侵入した一般人によって明らかとされてしまった。

 重装備をした屈強な軍人が、生き物を容易く殺せる銃火器で武装した集団が……あっけないほど容易く殺される映像と共に。


 誰が呼び始めたのか、その建造物は後に――『ダンジョン』と呼ばれるようになった。

 しかしこれほど相応しい名前も無いだろう。


 入って来た人間を迷わせ、中で飼っている怪物によって殺させる。悪意があるのか無いのかすら分からない人間の理解を越えた人智の外にあるモノ。


 現代に現れし……伏魔殿パンデモニウム。 


 その存在が人々にとって恐怖の対象となるのにそう時間は掛からなかった。

 

 しかしそんな恐怖が支配する空気も長くは続かなかった。


 切っ掛けは日本のテレビ番組で流された一本の動画。


 画面の中で戦う迷彩服の人間は、恐ろしい怪物を相手になんと刀を持って立ち向かっていたのだ。

 それを見ていた誰もが『その男が殺される』という同じ結末を思い描いた。

 しかしその予想に反して結果は全く異なるものとなった。


 迫りくる怪物を自衛隊の男は、一刀のもとに斬り伏せてみせたのだ。


 また次の瞬間には別の自衛隊の男が掌から火球を発射して怪物を焼き尽くした。

 他にも何人もの自衛隊の人間が次々と人間離れした動きと、まるで物語の魔法のような攻撃を繰り出して次々と怪物たちを屠っていったのだ。


 それは、人類が怪物モンスターに狩られるだけの種族ではない。

 お前たちを狩れるだけの力をもった種族なんだぞ、と。


 そう広く世界に知らしめることになった。


 これによって明らかとなったことがある。

 それは、人間はダンジョンに入ることでが出来るということだ。


 まるでゲームの中の存在のように自分自身のステータスを数値化し見ることが出来るようになる。


 そしてもう一つ大切なのはその時に必ず――こと。


 自衛隊たちが使った人間の範疇から逸脱した動きも、魔法のような攻撃もこのスキルによって齎された力だった。 

 これらによって人類はその伏魔殿、ダンジョンで戦うだけの力を手に入れる事が出来たのだった。





 そして時は流れ現在――


 日本にあるダンジョンにて。


 一組の人間たちが魔物との激闘を繰り広げていた。


「ぐっっっ!? 中々重い攻撃すんじゃねぇか。だが、耐えられねぇほどじゃねえ!!!」


 身体をすっぽり隠すほどの大楯を持った男は、受け止めた攻撃の勢いを逆に利用して怪物モンスターの巨体を弾く。


「ブモモォォォォォ!!!」


 そのモンスターの姿は御話の中に登場するミノタウロスのようだった。

 鋭い角を構えた牛頭。しかし二足歩行をしており手には巨大な戦斧が握られている。筋肉質な身体は3mもある巨体であり、見る者に威圧感を与える。


 ミノタウロスも、そしてそれに対する人間たちもその身形はボロボロであった。


 大楯は一部が欠けており、身に纏う防具もあちこちに罅が入ったりしている。

 一方のミノタウロスも身体のあちこちに傷を作り、武器たる戦斧も刃先が欠けていた。


 今はこの戦いは最終局面。

 勝者が決まるその瞬間が目前に迫っていた。


 攻撃を弾かれたミノタウロスは思わずたたらを踏むが、すぐさま体勢を立て直し再び大楯を構える男に戦斧を振り下ろそうとする。


 しかしそれは叶わない。


 何故なら男は一人ではないからだ。


 男の後方にいた身の丈程の杖を持った女が直径1mはあろうかという巨大な火球を放つ。

 すると大楯の男はそれが分かっていたかのように横に避ける。

 火球はミノタウロスに直撃しその身体を焼き尽くさんとする勢いで燃え上がった。


「モォォォォォォォォォ!!?」


「ナイスタイミングだ! これでかなりのダメージが入ったぜ!!」


「油断しないで!! 私ももう魔力が残ってないから次はないわよ!! そろそろ決めないとマズイわ!!」


 そういった魔法使いの女は、膝から崩れるようにその場に倒れる。その隣には同じく杖を持った回復役を担っていた女も倒れていた。

 二人とも呼吸は荒いが顔は真っ青になりとても戦えるような状態ではない。

 本人が言った通りこれ以上の援護は期待できそうになかった。


 だが、大楯の男の瞳にはこんな状況でも諦めの色は浮かんでいなかった。

 それどころか、ニヤリと口端を釣り上げてみせる。


「安心しろ……止めの一手は――準備完了みたいだ」


 そう呟いた大楯の男はミノタウロスのその先を見つめていた。


 そこにいるのは剣を構えた男。その体勢のまま目を瞑り集中している様子だったが、次の瞬間手に持つ剣が輝きを放ち始めた。


 ミノタウロスもそれに気付き感じた危機感のまま剣の男に襲い掛かろうとするが、それを邪魔する存在がいた。


「そっちには行かせない、よ!!」


 全身を覆う長いコートを纏った斥候役の男がミノタウロスの足を斬りつけて注意を逸らす。


 それに怒ったミノタウロスが邪魔な虫を払うように戦斧を矢鱈目ったらに振り回す。

 斥候の男は離れ際に置き土産とばかりに爆弾付きのナイフを投擲してミノタウロスに投げつける。


 眼前で爆発したそれはミノタウロスにダメージこそ与えられなかったものの、少しの間視界を奪う事には成功した。

 そしてその数秒がミノタウロスの運命を決めた。


「ブモォ……?」


「僕達も限界だからね。これで確実に決めさせてもらうよ」


 剣を構えていた男がゆっくりと目を開く。


 その視線は真っすぐにミノタウロスを射抜き、ミノタウロスを一瞬とはいえ硬直させる程に迫力を伴っていた。


 それは一瞬だった。


 そこにいたはずの剣の男の姿が掻き消える。


 次の瞬間、現れたのは――ミノタウロスの懐だった。


「これで、終わりだぁぁぁぁぁ!!!」


 一閃――


 ミノタウロスの身体が上下に真っ二つに斬られる。

 

 地面に崩れ落ちるミノタウロスの身体。誰も声を上げずにいること少し、ミノタウロスの身体が光る粒子状に分解されて消えてしまった。


 それはミノタウロスの死と、彼らの勝利を意味していた。


「「「か……勝ったあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」


 自分達の勝利に大いに喜ぶ彼らは部屋の中央に出現した宝箱を開けて更なる大喜びをした。

 そして多くの成果と共に彼らは意気揚々とダンジョンから地上に帰って行ったのだった。





 一方、同じく日本にある別のダンジョンでは……


「た、助けてくれ……り、リーダー……っ――」


 助けを求めた男は呆気ないほどに容易くその命を散らした。


 男の命を奪ったのは、西洋では『ドラゴン』と呼ばれる姿のモンスターだった。

 ダンジョンにいた彼らの前に現れて次々と男の仲間の命を奪っていった。そしてその場に存在する人間は男だけになってしまった。


 全身を包む鮮やかな赤い鱗はあらゆる攻撃を通すことなく、見上げる程の巨体から繰り出される攻撃は一切の抵抗を許さず挑んできた者達を葬った。


 ――その言葉が相応しい程にドラゴンの強さは圧倒的だった。


 こちらのどんな攻撃も通じず、一方であちらのどんな攻撃も防ぐ術がない。

 彼らはひたすらに蹂躙される順番を待つだけの哀れな獲物にすぎなかった。


 いや、目の前の絶対者にとっては獲物ですらなかったのかもしれない。

 精々暇つぶしの玩具といったところだろうか。


 そう考えが至ったところで、残された


「は、はは……こんなの勝てる訳ねぇだろ……勝てる訳ねぇだろうがよぉ!!!!」


「グルゥ」


 リーダーと呼ばれた男の叫び声が耳障りだったのか、ドラゴンは口から炎を吐いた。

 それもただの炎ではない。青白くなるまで熱され高温になった炎だ。

 男の身体は灰すら残さず文字通り消滅してしまった。


 最後の玩具を壊してしまったドラゴンは、もうこの場に用は無いとばかりに立ち去って行った。


 この日、また一つ。


 優秀なダンジョンを探索する人間が命を落とした。



 ダンジョンは人間に富を与えもすれば、その逆に人間から何もかもを奪い取ろうとする。

 それでもダンジョンを探索しようとする人間が後を絶たないのは、それだけダンジョンに魅力があるからなのだろう。



 そしてここに一人、ダンジョンを探索する者――『』になろうとしている少年がいた。


「いよいよだ……俺は冒険者になる。待ってろよ!! ダンジョン!!」


 少年は、冒険者となる。

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