4 課題の目標

 噴水広場を抜け、商店街のほうへ移動している。

 特に男性の視線は相変わらず多いけど、う、このさい、気にしてもしょうがない。

 だってこの容姿は変えようがない。


「さて、学校の課題なんだよね」

「そうね」

「沙理ちゃん、じゃなかった、リズちゃんは?」

「私はパートナーとよい関係を築いて、しっかりサポートできれば、それで」

「あ、うん。目標は何でもいいって言われちゃうと、逆に困るよね」

「そうね。でも、何か思い付くわよ」

「そうかな」

「もちろん。例えば、誰よりも変わったプレイを目指すとか、心も体も本当の女の子を目指すとか」

「女の子を目指すのはちょっと」

「美少女アイドルとかどう? おすすめなんだけど。私はプロデューサーで支えるのを目標にできるし」

「あ、あ、うん。そういうのもちょっと」

「残念。お世辞じゃなくて可愛いのに、本当に残念だわ」

「あはは」


 きらっきらした服とか着て、歌とか歌うなんて、僕には厳しい。

 むしろリズちゃんのほうが、美少女なんだから、そういうのすればいいのに、裏方というか僕を支える仕事をしたいらしい。

 女の子の考えはよくわからない。


「あー。課題なしで自由に遊びたかった」

「そう? 別に課題があっても自由に遊んでもいいのよ。もちろんR18的なのはまずいけど」

「あ、そういうのもあるんだ」

「うん、あるんだって、ちょっと興味出てきた?」


 胸を強調しながら迫らないでください。

 ちょっとエッチなこと考えちゃいそうでしょう。


「ご、ごほん、ごほん」

「もう真面目なんだから。本当に汚れを知らない少女みたいで可愛い。くすくす」

「くすくすって笑うなし」

「あははは」


 めっちゃ笑われた。

 いや、わかってる。からかわれてるんだ。彼女のほうが何枚も上手うわてだ。


 もう、可愛い子でもいいや。開き直ってやる。


「決めた。ぐーたらする。働かない。僕は絶対に、働かない」

「なにそれ? その心は?」

「レベル上げとか頑張らない。好きなことだけやる」

「いいじゃない。何が好きなの?」

「う、それは」

「それは?」

「よくわかんないよ。趣味とかもないし」

「そうなんだ。じゃあお姉さんとひとつずつやってみようね」

「うん」


 目標。楽しくぐーたらする。

 さすがに課題にそのまま書けないので「自分の好きなことをとことんやってみたい」と書いてみた。


 僕は目標を決めた、偉い。


「よくわからないけど、最初の目標。採取をしてみる」

「いいね。いいよそうだよ」


 戦闘以外で、生産とかもあるんだけど、その第一歩として「採取」という行動があるらしい。

 このゲームは特に制限はなく、フィールドにある色々な物は採取が可能だ。

 恐るべき、最新技術だ。


「例えば、ここにリンゴっぽい木があります」

「街路樹だけど、確かにこれリンゴだわね」


 目の前にリンゴの木がある。

 所有権はよくわからないが、こういうものは取ってもいいのだそうだ。

 切り倒したら怒られそうだけど、そういうのもプレイの一環として可能らしい。


「ひとつ実をもいでみよう」


 リンゴの木からリンゴを取る。


 手にはアイテムが1つ。『リンゴ』。

 うん、そのものずばりという名称だった。

 世界によっては『アッポロ』とか『リンゴン』とか捻っている場合もあるけど、このゲームは普通らしい。


「しゃきっ」


 リンゴを一口かじる。うん、これは知ってる味だ。リンゴだった。


「リンゴだね」

「だろうね」


「私にもちょうだい。あーん」

「あ、あーん」


 ちょっと戸惑いながらリンゴを口に押し付ける。


「しゃきっ、もぐもぐ」


 彼女はリンゴを食べている。でもそれ僕の食べかけのリンゴだったんだ。

 これはか、間接、キッスというやつでは。


 ああぁぁ。


「ふふ、どうしたの?」

「な、なんでもないです」


 僕は顔が赤くなってると思う。

 くそう、やられた。いつもやられっぱなしだけど、ぐぬぬ。




 広場に出てきた。

 ここの広場には、周りに沢山の植物が植えられていて、花とかも咲いている。


「何か採取できるものはあるかな?」

「さあ、どうだろうね」


 リズちゃんもちょっと興味深そうに、周りではなく僕の顔を見てくる。

 何かを知っているのか、それとも何か企んでいるのか。


 女の子の気持ちなんて、わかんないよ。


 赤い花、青い花、黄色い花。

 並んで綺麗だなってそうではない。


「う、どれが有用かとかも、わかんないね」

「そうね」


「うーん」

「例えば、このお花。綺麗だけど摘んで集めてリボンで縛れば」

「あ、うん。花束になるね」

「そう。花束。もしくはブーケとかになるわよね」

「でも、それってアイテムなの?」

「不思議でしょ。このゲームではそういうものも、なるべくちゃんとアイテムになるようになってるんだって。AI技術も進歩したものだわ」

「なるほどぉ」


 高性能AIサーバーが、システムとしてアイテムかどうかとか判断してアイテムとして名前、性能などをつけてくれる。

 そういう、自由度の高さが、このゲームの驚異的な部分なんだって。


「花束だけではないわ。例えば銅の剣でも、模様とか入れてあれば『バラ柄の銅の剣』みたいに能力も含めて違うアイテムにできるの。生産にとっては夢みたいな世界だね。うふふ」

「すごいっ」

「そうね」


 さすがに花壇の花を取って、花束を作るというわけには、いかない気がする。

 おそらく大丈夫だとは思うけど、なんか花壇を大事にしている子とかがいると思うと、悪い気がするし。


「これなんかどう?」

「こっちの花?」


 そこには白い小さな花が間隔をあけて咲いている。

 ここは花壇から外れた、雑草の生えているエリアだった。


「雑草だと思うけど、お花でしょ?」

「うん。ハルジオンみたいなお花だね」

「そういうのは一応知ってるのね」

「まあ、なんとなく?」

「ふーん」


 それからタンポポ。黄色いタンポポが沢山、咲いている。


 それらをいくつか摘んで、茎で縛って花束みたいにした。


「まるで小学生女子みたいな、遊びだけど」

「うん……」

「ほら、アイテム化してる。見てみて」


「『野草の花束』家具ポイント150」

「ほう。すごいじゃないの」

「すごいの?」

「そうね。家具ポイントが150っていうのは、タンスとかと同じくらい。結構すごい」

「へえ」


 とりあえず、まだお花は沢山生えているので、合計で3つ作ってみた。

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