街ブラで笑いをとりたい初瀬ちゃん1

「青い空、白い雲! 夏って感じで最高の天気ですね!」


「意外、天気がいいとテンション上がるんだ」


「い、いいでしょう! 別にボッチでも、お天気喜んでいいじゃないですか!」


「いや別にボッチだからとか言ってないし」


「いいや目が言ってました……って、くくく、あははは! ボッチがお天気楽しんでるって面白いかもです、いい意味で!」


 すごい上機嫌だなぁ。


「改めて。急なお願いにも関わらず、街歩きに付き合ってくださりありがとうございます!」


「暇だったから、こっちも誘ってもらって嬉しいよ。まあ初瀬さんと出歩くのは気が引けるけど」


「へ? 無理なお願いしてる私ならいざ知らず、どうして私と出歩くことに気がひけるんですか? あ、もしや年上だから奢らなきゃ、とかですか?」


 初瀬さんは、だったら! と強く言った。 


「全然そんなの気にしないでください、ぼっちですがバイトはしてます! 明日もバイトなくらいですし、むしろ奢らせてください!」


「流石にそれはやだよ、俺のためにも奢らせてよ。夕食作ってもらってるお返しがしたいし」


「いや、それは、でも……うぅ、俺のため、とか言われたら断れないです」


 初瀬さんはモジモジと続ける。


「そ、その、凄く嬉しいんですけど、親族でない男の人に奢ってもらうのなんて初めてで、喜び方とか間違っちゃうかもしれないです。もし変だったら、すぐに教えてください」


 どこを気にしてるのだろう。まあ、面白いこと言えないから話せない、なんて言う子だ。色々と気にしぃなんだろう。


「別に喜ばなくてもいいよ。むしろ、大したことしてないのに喜ばれたら、変な感じがするし」


「喜ばなくていいって、も、もう、どこまで優しいんですか! 本来なら、私が時給出さなきゃいけないんですよ! レンタル彼氏みたい……か、かかかかかかかか彼氏!?」


 あわわわ、とわちゃわちゃした初瀬さんの気をそらすために、それより今日の目的は、と尋ねた。


「そ、そうでした。今日の目的はですね、ズバリ実戦です!」


 この子、時たま、古い言葉使うな。


「街歩きという、大学生には欠かせないシチュエーションで、自然な流れの中で笑いを取ります!」


「なんだか自信満々に言うなあ」


「当たり前です! 今日は秘策を持ってきたので、きっと笑うこと間違いなしです!」


 不安だ。そこはかとなく不安だ。


「……秘策って何?」


 初瀬さんは、よくぞ聞いてくれました、と嬉しそうに語る。


「この前、ベタすぎて笑えない、って言ったじゃないですか?」


 たしかに言ったので頷く。


「そこで私、ベタとは何か、調べたんです。そして、ベタではない、ベタの反対にいきついたんです!」


 初瀬さんは誇らしげに、にやと笑う。


「シュールって……知ってますか?」


「だめだめだめだめ」


「な!? なんで止めるんですか!? シュールな動画とか画像とか見て、すっごく笑ったんですよ! これなら爆笑必至なのに!」


「ベタもわからなかった子が手を出していい領域じゃないのよ」


「そ、そんなに難しいんですか?」


「難しいなんてもんじゃないよ」


「うっ、じゃ、じゃあやめておきます……。貴重な時間を無為に過ごしたくないですし。でも……」


「でも?」


「シュールなことをする前提でプランを組んできたので、朝10時半にして何すればいいかわからなくなりました……」


 初瀬さんは、落ち込んだ様子。


「じゃあ、お昼には早いし、カフェにでも入ろうか」


「え、あ、はい、行きます……って、カフェ? なるほど! 入ってプランを練るんですね!」


 ただ落ち着いたとこで座りたいだけだけど、ご名答、と言っておいた。


「だったら、近くに行ってみたかったところがあるんです! 珈琲が美味しいお店なんですけど、大丈夫ですか?」


 頷くと初瀬さんは嬉しそうにわらった。


「じゃあ早速行きましょう! ……あ」


 歩き出してすぐ立ち止まった初瀬さん。どうかしたのだろうか、と思ったとき、初瀬さんは恥ずかしそうに小声で言った。


「コーヒーを飲みに、いこーひー」


 ……非常に反応に困る。


「だ、ダメでしたか?」


「面白かったよ」


「なら笑ってください!」


 初瀬さんは、もう! と軽く怒って続けた。


「絶対今日笑わせて見せますから!」


「気負わなくてもいいのに」


「気負います! そうじゃないと唯のデートになって、私が楽しいだけじゃないですか!」


「デートではないでしょ」


「デートじゃ……ない?」


 少しの間があって、初瀬さんは怒気を孕んだ声で言った。


「……そうですね!! わかりました!! 先行きますよ! カフェはこっちです!」


 ぷんすか、とした初瀬さんは前を歩いたが、すぐ早足を止めた。


「……隣、歩かせてください」


 拗ねたような甘えたような口調に笑いそうになった。


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