第15話 俺の使っていた剣が擬人化して女の子になったんですが?!

さて、筋肉痛も和らいできた頃。


「いてて……やんなきゃ良かった……じゃあルミナ、『帰ろう』か。」


『うん!パパ!』


練は娘を連れて、宿へと戻るのだった。




…………しばらくしてから。


「仕方ないなー『疲労回復』っと。

……体の痛みもマシにはなったし、それじゃあ、やりますかね……!」


茂みに隠れていたもう1人の練がそう呟き、時間停止を発動する。

休憩していた時に、錬金術で分身していたらしい。


「時よ『止まれ』!!」


さて、今から行うのは、時空魔法の追加検証と剣のスキルポイント稼ぎの2つだ。

早速時間停止状態での検証を始める。


「うーん。やっぱ止まった時の中で攻撃しても無駄か。それ出来たらなんにでも勝てるしな。」


色々やってみた結果、直前に触れていたもの以外には干渉できないということが分かった。

ふと、もう1つ考えていた事を実行することにした。


「半径500mにいる魔物全てを『斬る』。」


その瞬間、時間が動き出し、あちらこちらから悲鳴や苦悶の断末魔が木霊する。

手応え、そして確信。錬金術が発動し、魔物に斬撃を加えたという確信だ。


「……なるほど、時間停止を解除するって要素も過程に入るから、停止が解除された瞬間に斬撃が発生すると……普通に攻撃した方が早いんじゃないか?」


またまたロマンがボロボロと崩れ落ちる。


「くっ……こんなんばっかじゃねぇかこの世界……!!!」


それに関しては錬金術があまりに万能過ぎるせいもあると思うが、ヤケっぱちになった練にそんな事はもう関係ない。


「…………よし、錬金術でここら辺の魔物全部殲滅しよ。」


こんな経緯で理不尽すぎる殲滅作戦は執り行われた。

その日、その森の中でそこら中から叫び声やら何やらが木霊した。まさに阿鼻叫喚。この世の地獄のような様相を呈していた。


『うわぁ……それはさすがに我も引くぞ……?』


神様ですらその鬼畜っぷりにドン引きしていた。

引かない方が異常なので、目一杯引いて下さい。



さて、そろそろ夕ご飯という頃、


「いや〜大量大量!」


練が宿泊している宿にもう1人の練が現れた。

彼が自分の部屋に着くまでに出会った宿屋の従業員の方々は、恐らく非常に不思議な顔をしていたに違いないだろう。


「ただいま~。」


「おう、お帰り俺!」


そんなもう1人の練を、練は出迎える。

お誂え向きと言うべきか、少し早めの夕食の後、ルミナはぐっすりと眠っていたのだった。


「では……。」「ふん、やるか!」


2人の練が手のひらを合わせ、同時に錬金術を発動させる。


「「今こそ我らを『一つに』ィィィ!!!!」」


凄いエフェクトや、爆発なんて一切起きず、まるで水滴に水滴を近づけた時の様に簡単に2人の練がくっついた。


「うん!雰囲気は大切だな!」


夜にしてよかったわなどと呟いているが、そん簡単で地味な合体にSEもBGMも雰囲気も要らんだろ。

さて、合体というだけあり、狩りをしていた練の記憶がゆっくりとフィードバックされていく。


「……ロマン無さすぎだろ。いや、効率的ではあるんだけど……。」


確かに、錬金術での蹂躙はロマンと呼ぶにはあまりにも乱暴すぎると思う。


「さてと剣のスキルを取ろうか。」


気を取り直して剣を取り、ステータスを覗く。

そのステータス欄のうちの1つ、『スキルポイント』の文字をタップすると、更に複数の項目が飛び出す。


「攻撃力強化、防御強化、魔力強化……擬人化…………ん、擬人化?!これはとらない選択肢は無いですね!!」


それーぽちっとな、とでも言うように『擬人化』の項目をクリックする。


「あ、剣が!」


「こんばんは、ご主人様。」


練の目の前に立っていたのは美少女……もう少し詳しく説明すると、身長は練の胸の下くらい。ルミナよりは10センチ位高いくらいだ。

髪はロングで中央から白と黒に別れている。

ちなみに右が黒。髪型は……左右で別々になっていて、かなり奇抜な髪型だ。

眼の色は白色で神聖って感じだ。

……そして当然の様に全裸だね、肌の色は黒くも白くもないって感じ……とか言ってる場合じゃないなこれ、絶対服を作ろう。うん。


「こんばんは、お兄ちゃん!」


……とかじっくり観察していると突然、少女は爆誕後僅か1分でウィンクを決める。

だが、練はそんな事実より、口調が変わった事の方が気になるようだった。


「んん?お兄ちゃん?なんだ?なんか眼の色黒になってるし……。」


練はまだ気付いていないようだが、彼女らの擬人化元の武器の名前は『白き剣ライト&黒き剣ダークネス』。

つまり、武器としては2つの武器が1つになっているのが正解、それを擬人化すれば二重人格の少女が生まれるのは当然の摂理。


「ダーク!ご主人様には敬意を払いなさいと何時も言っているでしょう!」


目が白になった。


「えぇ~別に良いじゃーん?」


黒になった。


「だから貴方は大雑把だと言われるんです!」


白になった。いや言われるって何?この世に生まれて1分強だけどもう曰く付きなの?


「でもそれ言ったのライトだよね?」


黒になった……何気に喋ってる方で眼の色が替わるのは分かりやすいかも。

……が、同時には話せないのだろうか。

だとすれば面倒だ。


「「もう!ばかー!!」」


「うわっ!オッドアイになった!かっこいい!」


黒白白黒オッドアイといった感じで口喧嘩が止まないので、彼は服を勝手に作っておくことにした。彫像品のような美しい裸体がこの世から隠されてしまうのは悔やまれるが、それ以上に他人の目に触れると不味いのだ。


「そうと決まれば素材を『持ってこよう』……わぁ錬金術ってべんりー。」


……錬金術って何だっけ?(再放送)

少なくともこのロリコンは錬金術師を名乗ってはいけないと思う。


「う~んワンピースに仕上げるかなと、黒と白の羊の毛を使って3秒間アルケミングと出来た!素晴らしい出来だ!黒と白が上手くマッチしている、名前は……」


チラっと2人で1人の少女を見ると、


「このぉ〜ッ!」

「あぁっ痛い!やめてぇぇ!!!」


自分で自分の頬をつねっていた。もうどっちが喋っているかも分からないくらいてんやわんやだった。


「調和せし混沌……色が混ざりきってない所もライトとダークにピッタリかもな!」


どこが調和しているのか、全く理解出来ないのだが。

取り敢えず、この姉妹ゲンカ勃発中のお二人(?)に調和は全くないだろう。


「ほれ、プレゼント!裸はまずいからな!」


全裸の幼女に数分間抱き着いていた奴の発言じゃないな。

数日前の彼にこの言葉を聞かせてやりたい。


「す、すみませんご主人様。」

「ありがとうお兄ちゃん!」


2人同時に礼とサムズアップを繰り出したので、ポーズが変になった。


「無礼でs「はよ着ろ」はい……」

「ふふふ、馬鹿だn「はよ着ろ」はい……」


コイツらはきっと、こんな感じで言い争わないと死ぬ生き物なのだろう。

だとすると黙々と着替えてるこの時間で死ぬことになるか。


「ご主人様。似合ってますか?」

「どう?お兄ちゃん、似合ってる?」


「うん!似合ってるぞ!」


「ふふっ!ありがとう!お兄ちゃん!」

「ありがとうございます。ご主人様。」


またもや同時に礼とサムズアップ、喧嘩が勃発。

そんな2人を差し置いて練は欠伸をする。

外で狩りをしたせいか、疲労でかなり眠たくなってきたのだ。


「……眠いな、そろそろ寝……るかもしれない。」


ギリギリセーフ。寸前で錬金術の発動を止めた練。流石に今日はルミナの隣で惰眠を貪るのだ。


「……ん?」


騒がしくない。喧嘩が止んでいる。不思議に思いつつ布団に入ると、その隣に喧嘩していたハズの少女が!!


「私もお兄ちゃんと寝る~!」

「……ご主人様の身を守るのが剣の使命ですから。」


こうして練は女の子二人(実質三人)と寝ることになった。


(これはもうハーレムと言っても過言ではないな。)


そんなことを考えながら練は眠りにつく。




────王座の前で、少女が膝を付き、膝まづいていた。

この中世の時代には余りに不相応なセーラー服でだ。


「では、世界を救ってくれるのだな?勇者よ。」


王──カルス・アビル11世が『勇者』と呼ばれる少女に問いかける。

本物の勇者は虚ろな目で立ち上がり、


「はい、世界を守るのが勇者の……私の使命ですから。」


自己暗示のようにそう告げた。

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